中国の治安維持費は国防費より多い!奇妙な反体制派監視プログラム

Letter from Beijing  December 24 & 31, 2018 Issue

China’s Bizarre Program to Keep Activists in Check 

   中国の奇妙な反体制派監視プログラム

As part of “stability maintenance,” people the state considers troublemakers may be sent to jail—or sent on vacation.(治安維持対策で、厄介な人物は刑務所送りとなる。でも運が良ければ旅行に行ける。)

By Jianying Zha(查建英)December 17, 2018

1.習近平政権 ますます強まる改革派への監視

最近、北京の警察は私の兄を再び旅行に連れ出しました。9日間の旅行で、2人の護衛付きで、世界遺産に登録されている観光地などを巡りました。道教の寺院や三峡ダムなどです。旅行費用は全て中国財政部負担でした。その旅行の重要な目的は、9月(2018年)初旬の中国アフリカ協力フォーラムが開催される時期に兄を北京から追い出すことでした。首都は完璧な秩序を維持しておく必要がありました。些細なトラブルさえ許されない状況でした。私の兄、年老いた民主活動家Zha Jianguo(查建国)は、当局からプロのトラブルメーカーと見なされていたのです。
 習近平国家主席が人民大会堂でアフリカ各国の要人をもてなしている時、北京警察は私の兄を約千キロも離れた湖北省の景勝地でもてなしていました。他にも多くの北京の活動家や人権派弁護士が同じように別の景勝地でもてなされていました。その中には、 Jianguo(建国)の知人も数人いました。Pu Zhiqiang(浦志強)は四川省に、Hu Jia(胡佳)は天津市の海辺に、He depu (何德普)は内モンゴル自治区の草原に、Zhang Baocheng(張宝城)は海南島のビーチリゾートに連れていかれました。彼らは自然の美しさの中でものんびりすることなど無く常に監視されていて、外国の報道機関と連絡をとったりすることは出来ませんでした。ネットに挑発的な投稿をしたりする機会は一切ありませんでした。
 こうした措置は、「bei lüyou(観光させられるの意味)」と呼ばれています。その語は、中国のネチズンが沢山産み出した語の中の1つで、当局によって隔離されたり、強制労働に駆り出される時などに使われる言葉です。接頭語の「bei」は受動態であることを示しています。ネチズンは「bei」が付く後を他にも作っていて、例えば、「bei loushui(脱税させられるという意味)」、「bei zisha(自殺させられるという意味)」、「bei piaochang(売春させられるという意味)」等があります。過去数年間で、「bei」の付く語は非常に多くなりました。「bei lüyou(観光させられる)」はその中では間違いなく最も苦痛が少ないもので、一握りの選ばれた者のみが対象になります。北京では、おそらく年間数十人が風光明媚なところへ旅行させられ連れて行かれます。そのほとんどは、反体制派で長年熱心に活動していて西側の人権団体や報道機関にも名の知られている者です。北京以外では、そういった活動家だけでなく、「fangmin」も対象になります。「fangmin」とは陳情者という意味で、役人の不正行為によって苦しめられていることを中央政府や上級政府にわざわざ訴え出た田舎の村の住人たちのことでです。
 Zha Jianguo(查建国)が旅行に連れ出されるようになったのは数年前からですが、彼は20年以上にわたって当局から目を付けられてました。1999年に、前年の中国民主党という小さな党の設立に関与したとして、懲役9年の判決を言い渡されました。2008年に刑期を終えた後は、常に当局の監視下にあります。政治的に敏感な時期になると、監視体制は強化されます。北京オリンピックが開催された際には、3カ月に渡って常に警察車両が彼のマンションの前に停まっていました。毎日、数時間ごとに警官が彼が家の中にいることを確認しに来ましたし、彼が出かける時には必ず警官が尾行しました。その頃は、汚染物質を排出する工場は閉鎖されて、飛行機で周辺に人工雨を散布し北京市内の晴天を確保しました。当局は、北京市は環境の素晴らしさを世界に認識してもらうことに必死でした。それだけでなく、共産党独裁の治安の良さも認識してもらいたかったのです。
 その後の数年間で中国はより豊かでより強力になり、より多くの世界的な会議を主催するようになりました。それによって、政治的に敏感にならざるを得ない期間が以前より増えました。党大会以外に貿易サミットやさまざまな多国間会議などが増えました。中国は、非常に歴史のある国で、経済力もあり、野心的でもあります。会議等の主催国としてどのようなイメージを持たれているのかということを非常に気にしていています。どんな会議も厳粛に格調高い形式で執り行わなければならないのです。しかし、当局が何もしなければ、会議等が行われる場所周辺で反乱分子が抗議活動を行い混乱が引き起こされるでしょう。そうしないためには、反乱分子を視界の外へ追いやるしかないのです。独裁国家ですから、そうしたことをしようと思ったら、とことんお金をかけて実施することが出来ます。結果、海外から来た人たちが目にするのは、完璧な天候、豪華なパーティー、沿道で笑顔で手を振る善良な市民です。いくつかの調査によって明らかになっていますが、2011年以降中国では国防費よりも治安維持費の方が多い状態が続いています。
 しかし、反乱分子が混乱を引き起こす可能性など全くないと思われます。Zha Jianguo(查建国)が同志と民主党を設立した後、すぐに党幹部全員が刑務所に送られました。この10年、彼は1人で活動していて、政治団体、NGO等との接触は一切ありません。国内で支援してくれる人は誰もいませんし、国外でも同様です。彼は67歳になりましたが、階段を上るのも疲れるため、住んでいるのはマンションの1階部分です。いつも食事は野菜中心の質素なものです。髪も服役中にかなり抜けたので、今は坊主頭です。かつては、食事の際に、よく人に講釈をたれていましたが、今ではほとんど話をすることなく聞く方に回っています。彼はおだやかに笑っていることが多く、何もかも許すということを伝えているかのようです。ある人が私に言いました、「最近のあなたのお兄さんはまるで仏さまのように見えます。」と。
 しかし、中国政府が彼をセキュリティ上の脅威ではないと認識するような状況にはなっていないようです。近年、彼はますます警戒されるようになっています。当局は、彼の電話を盗聴し、電子メールの送受信をブロックし、会議等に参加することを禁じています。敏感な時期(大きな会議等が開かれる期間)には、一日中監視され尾行されます。旅行に連れ出される際には、警官3人が一緒です。その内1人は同じ部屋で寝ます。
 なぜZha Jianguo(查建国)はとても危険だと見なされるのでしょうか。私の兄は、もはや中国民主党の支部の運営には全く携わっていません。スマホを所持していますが、中国では10億人以上が持っているものですから問題ないはずです。彼は定期的に日々の出来事に関する雑感をネットに投稿しており、中国のネット上では賢者として扱われることもしばしばあるほど人気がありました。2012年以来、彼が批判するのは主として環球時報のことばかりでした。環球時報は政府寄りで、国家主義的なタブロイド紙で、かなり人民日報の息がかかっています。彼は「環球時報についての考察」という題名を付けた一連の投稿を続けており、環球時報の社説の内容を取り上げ、事細かに分析してきました。
 Zha Jianguo(查建国)の投稿を見ると、投稿を続けようという執着心が凄いことに驚かされますが、内容を見る限りでは自己満足でやっている部分が多いように思われす。実際、以前は兄の投稿のアクセス数はそんなに多くありませんでした。しかし、彼は投稿を続けることによって、徐々に内容も洗練され、アクセス数も増えていきました。2012年から2017年にかけて、彼は投稿の頻度を増しました。その間の「環球時報についての考察」の投稿数は466件に達しました。ちょうどその頃、WeChatアプリが爆発的に普及したことにも助けられました。2015年までに、彼は1日おきに50〜70のWeChatグループに向けて新しい記事を送信しました。人数で言うと、数万人に送信したことになります。
 彼はネットを上手く活用しましたが、当時はちょうどネットが大きな影響力を持ち始めた頃でした。組織的な抗議活動は出来ないため、抗議と抵抗はますますネット上で行われるようになっています。不法行為と汚職を指摘することで、ネット上の批評家とかブロガーは、しばしば世論を喚起し当局に行動を促すことに成功しています。WeChatやWeiboのようなアプリがあることで、個人でも世界中に発信できるようになりました。そういったアプリの影響力は絶大で、人々が議論しあえる場が出来ましたし、団結したりすることも可能になりました。
 1990年代後半、中国政府が監視対象としていた急進的な団体は沢山ありました。中国民主党は、その中では非主流派でした。改革派の知識人たちの多くは、漸進的な改革を支持していましたが、Zha Jianguo(查建国)ら民主党の活動は意図が伝わりにくく自己満足的なものだと見なされていました。世間では、民主党が存在することすら知らない人がほとんどでした。しかし、現在、ソーシャルメディアのおかげで、彼の情報発信力は大きくなりました。彼は、中国の改革派の多くの団体と接触できていました。改革派は、都市出身者が多く、彼らは西欧式の民主主義的な考え方を理解し、法の支配を欲し、一党独裁体制には批判的です。彼らは中国の改革開放から大きな恩恵を受けていました。それで、マンション、自家用車を手にしましたし、旅行に出かけたり、子供を海外に留学させることも可能になりました。けれども、彼らの多くは複数政党制は一党独裁よりも優れていると確信しています。2016年の米国大統領選挙に関してのジョークで次のようなものがありました。それは、「多くの宦官は結婚している夫婦が激しく喧嘩しているのを見てぞっとしていました。それで、宦官たちは”俺たちは去勢しておいて良かったな”と言って喜びあっていた。」というものでした。しかし、多くの中国の改革派の人たちは西欧式の政治形態がすぐに実現するとは思っていません。彼らは、歴史を振り返ると、混乱が引き起こされ、暴徒だらけになることが心配でならないのです。改革派の人たちは、中国で生きていくために、過激派や政治犯として罰せられた人との接触を避けています。関係があると思われてしまえば、自分の自由が奪われてしまう可能性があるからです。また、快適な生活を危険にさらす可能性のある政治的行動は避けています。
 私には北京に友達が沢山います。彼らは、私が作家であり、何年も穏健な改革派的な主張をしているテレビ番組に出演していることも知っています。私はテレビに出続けているわけですから、発言する際に超えてはならない一線については十分わきまえています。さて、なぜ改革派の多くの人たちが兄Zha Jianguo(查建国)のような過激派の投稿を現在も見に来るのでしょうか。1つの要因は、中国の政治情勢が悪化していることです。習近平は、就任後初の演説で「権力を檻に入れる」と述べました。それによって、多くの改革派の活動家は希望を持ちました。しかし、彼の発言の真意はすぐに明らかになっていきました。彼が檻に入れるのは、自身の権威に対する脅威だけでした。それは、「共産党の下で法の支配を強化する」という名目を掲げて、超法規的な反腐敗キャンペーンを実施することで実現されました。市民社会に対するこれまで以上に厳しい取り締まりの中で、以前は政府から目を付けられていなかった改革派の人たちも首筋が寒くなる思いをしています。連日、逮捕や拘留や検閲に関するニュースが報道されています。ジャーナリスト、研究者、批評家、大学教授、編集者、記者、人権派弁護士、環境活動家の人たちは、全く安心していられない状況になっています。