中国の治安維持費は国防費より多い!奇妙な反体制派監視プログラム

4.Zha Jianguo(查建国)は何をされても意志を変えない

「bei lüyou(旅行させられる)」は、そうした病気の結果生まれたものでしょう。「bei lüyou(旅行させられる)」」という仕組みは、中国政府が体制の安定のためには無尽蔵に資金を投じることが出来るということを誇示しているようなものです。おそらく、きらびやかな政治の舞台を縁の下から支えている者が考案したものでしょう。「bei lüyou(旅行させられる)」の目的は、表向きは、反体制派の活動家の反抗心を萎えさせることにあります。同時に、治安当局の治安部隊の一兵卒たちの士気を維持するという目的もありました。彼らにとっては、「bei lüyou(旅行させられる)」は、業務出張という形で無料で旅行に行けるということを意味していました。Zha Jianguo(查建国)は2017年10月から2018年9月の間に4回のそのような旅行に連れて行かれ、のべ12人の警官が随行しました。行先はその都度異なっていましたが、付いて来る警官もその都度違っていました。私の想像になりますが、おそらく警官にとってその業務は人気の的で、特典は平等に与えられるべきですから、毎回奪い合いになっていたようです。以前、兄が教えてくれましたが、南方への旅行に年配の警官が割り当てられた時の理由は、その男が定年退職間近で一度も暖かい地方の砂浜を見たことが無いことでした。
 「bei lüyou(旅行させられる)」がいつから始められたかは正確には分かりませんが、伝え聞くところによれば、2012年には存在していたようです。その年、著名な環境活動家Wu Lihong(呉立紅)が旅行に連れていかれました。彼は元々は小作農でした。彼は故郷の江蘇省での何百もの企業の違法な水質汚染を暴露しました。彼は、太湖の美観を守る運動を繰り広げましたので、「太湖の戦士」というあだ名が付けられました。2007年に太湖でラン藻類が大発生したことにより200万人以上の飲料水の水源が被害を受けた時、彼は3年の懲役刑を言い渡されました。その5年後(2012年)の中国共産党第十八回全国代表大会 (そこで習近平が国家主席になった)の開催中、Wu Lihong(呉立紅)は警官に西安に連れていかれ有名な兵馬俑を見物しました。その後、2014年のまた別の敏感な時期に彼は江蘇省の警官に旅行に連れ出されました。行先は、普段は共産党幹部が使う豪華なホテルでした。それは皮肉にも太湖のほとりにありました。
 四川省成都の人権活動家Huang Qi(黄芪)によると、四川省で「bei lüyou(旅行させられる)」で連れていかれるのは、陳情者が多いようです。彼が新聞の取材に答えたところによると、成都では公安当局がそうした旅行に警官の友人や親類を同行させ費用も負担しているそうです。また、連れていかれる陳情者は、請求すれば旅行期間中の休業補償金も受け取れるようです。しかしながら、旅行に連れていかれるのを断った場合には、非常にむごい仕打ちを受けるようです。
 北京でZha Jianguo(查建国)はもっと繊細に扱われていました。彼が旅行に連れ出される時は、他に連れ出される者は無く、警官が3名随行する形がほとんどでした。今年の春、彼は旅行に行くことを拒否しました。理由は、足を怪我したしていたこと、強制的な旅行に辟易していたことでした。それで担当の警官に「家に留まります。一日中ここで私を監視して下さい。」と言いました。警官たちは動揺しました。警官たちは、代わるがわる訪ねてきては、魅力的な提案を持ってきました。暖かい南方のリゾート地に行くとか、北東部の
森林地帯に行くとか、警官と一緒の部屋だと眠りにくいので個室にする等の提案が為されました。警官たちは3度粘り強い訪問を続けたことで、何とか旅行に連れていかれることを彼に承諾させました。
 北東部へ旅行で連れていかれた時に付いて来た警官が撮影した写真は、Zha Jianguo(查建国)が吉林省琿春市の展望台で撮ったものでした。展望台から南方を見ると北朝鮮の国境の河があり、北にはロシアの森林が見えました。中朝露三国を同時に見られるので「一望三国」と呼ばれる人気スポットでした。Zha Jianguo(查建国)は「人生で初めて、2つの外国の領土を同時に見た。」と後日昼食を食べた時に言っていました。彼は私の娘へのプレゼントを持ってきました。派手なギフトボックスに入れられたロシア風の金色の彫刻が施されたコンパクトミラーでした。古くからロシアとの交易が盛んな黒竜江省ハルビン市の土産物屋で購入したのものでした。私はその鏡を覗き込みました。すると、鏡に奇妙な表情をした者が現れました。その顔はしかめっ面をしているのか笑っているのか私には判別できませんでした。
 私は、Zha Jianguo(查建国)が警官に旅行に連れまわされている不思議な状況は、中国の機能していない統治形態が少なからず影響しているのだ推測しています。かつてニーチェが言った「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ。」という格言を思い出しました。Zha Jianguo(查建国)は警官に同行されて一緒に旅行する経験を重ねることで、警官たちに対して同情心を持ち始めています。それで反乱分子的な行動を控える可能性があるのだとすれば、それは正しく当局が意図したことです。
 Zha Jianguo(查建国)は、長年投獄されたにもかかわらず意志を曲げていないことは明らかです。原則として、彼は決して後退したことがありません。彼は共産党による一党独裁体制を公然と非難し、執筆や批判の投稿を決して止めません。しかし、彼が実際に警官たちと接触している時には、穏やかな態度で接しています。そして、そのことは事態をさらに複雑にしています。なぜなら、何人かの警官とはより親密なっていくからです。警官の1人はZha Jianguo(查建国)に平伏すように言ったことがあります、「あなたの本を読みましたが非常に感動しました。」と。
 Zha Jianguo(查建国)が一年半前に拘束された時には、警官たちは彼が秘密の拘置所に連れていかれる前にご馳走を振舞うためにレストランへ立ち寄りました。翌日、警官たちは、Zha Jianguo(查建国)を家に送りましたが、ヨーグルトと肉餅を持たせました。彼のネットへの投稿に関して尋問を受けている間、警官たちは彼が窮地を何とか脱して欲しいと思っているように見えました。
 1人の警官が、「これは、あなた自身が書いたものではないでしょう?どこかのウェブサイトからコピーしただけですよね。」と尋ねました。
 Zha Jianguo(查建国)は、「いいえ、全部私が書いたものです。それに関しては全て私に責任があります。」と答えました。
 警官は、「わかりました。しかし、1つの小さなWeChatグループ以外には送信していませんから、沢山の人に送信したわけではありませんね?」と尋ねました。そのWeChatグループは約70人のグループで、有名な知識人が何人か含まれているので公安当局によって以前から監視されていました。
 Zha Jianguo(查建国)は、「他の多くのWeChatグループや沢山の人に送信しました。しかし、どのWeChatグループに送ったかは覚えていません。」と言いました。
 警官たちは頭をかいてため息をつきました。警官たちは彼に言いました、「長老(Zha Jianguo(查建国)のこと)、私たちはあなたが何とかして酷い扱いから逃れられないか必死に考えているんですよ。」と。
 警官たちがZha Jianguo(查建国)を救おうとする行動は、おそらく優しさから出たものではないと思われます。監視下にある人物が問題のある投稿をした場合、監視している警官たちが責任を負わされる可能性があります。警官たちの1人はZha Jianguo(查建国)に愚痴をこぼしたことがあります、「私たちは、あなたを厳しく取り締まっていないと上官から叱られてばかりです。それなのに、長老、あなたは軍事クーデターを呼びかける投稿をしました。あなたのせいで私たちの立場は非常に厳しいものになります。 」と。