アメリカ 炭鉱の廃水や鉱くずからレアアースを抽出する技術が確立された!環境にも優しく経済的利益も大きい!

U.S. Journal

Could Coal Waste Be Used to Make Sustainable Batteries?
炭鉱の鉱くずを利用してサステイナブルなバッテリーを作ることができそう?

Acid mine drainage has long been a scourge in Appalachia. Recent research suggests that we may be able to simultaneously clean up the pollution and extract the minerals and elements needed to power green technologies.
炭鉱の酸性廃水は、長年に渡ってアパラチアの環境を汚染してきました。最近の研究では、汚染を除去すると同時に、環境に優しい技術に必要な鉱物等を抽出できる可能性があることが示唆されています。

By Eliza Griswold August 26, 2022

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 つい先日の午後のことでしたが、ウエストバージニア州のデッカーズ・クリーク(Deckers Creek)の源流近くで、ウエストバージニア大学の水質研究所の責任者で生物学者のポール・ジィムキーウィッチ(Paul Ziemkiewicz)は、丘の斜面からしみ出る血のような赤い水のそばにしゃがみ込みました。彼が指摘したのですが、その色は、炭鉱の鉱くず等によって汚染されたことを示しています。その水は、水生生物を毒するもので、炭鉱を源とする酸性廃水です。数十年間に渡って、そのような汚染された水が、アパラチアの自然を荒廃させ、ケンタッキー州とペンシルベニア州南西部の間にある多くの渓流や河川を破壊してきたのです。「私は32年間、この廃水を無くすことに携わってきました。」とジィムキーウィッチは言っていました。彼は、そうした廃水の除去に取り組んでいる現地の環境保護活動団体「デッカーズ・クリーク友の会(Friends of Deckers Creek)」会長のブライアン・ハーリー(Brian Hurley)に会いに来ていたのです。ハーリーは、髪がボサボサで、ゴム長靴を履き、野球帽のつばにサングラスをかけています。彼は、ごく普通の人です。以前なら、彼は地元の炭鉱や製鉄所で仕事を見つけられたかもしれません。が、この地域からそうした仕事は既にほとんど無くなっていました。しかし、その代わりに、残された汚染等を取り除くような仕事を得る機会は増えています。ハーリーの仕事はいろいろとあるわけですが、ジィムキーウィッチが設計に携わった渓流の水処理システムの監視もしています。ハーリーは言いました、「私は、環境を改善し、より良くすることで、今生計を立てるています。」と。

 痩せ型で勤勉な様子のジィムキーウィッチが私に説明してくれたのですが、鉱山の表面に露出した黄鉄鉱を多く含む岩石に空気や水が触れて化学反応が起こり、硫酸が発生し、それが小川に流れ込んで酸性廃水ができるのだそうです。ジィムキーウィッチは、ハーレーに処理システムの金属製のドアを開けるように指示しました。それは、 滲み出た水が小川になっているところにあったのですが、ミニチュアのサイロのような形をしていました。中では、水車が回っていて、白い石灰の粉を小川の朱色の水面に落としていました。ハーリーは言いました、「これは巨大な泡立て器みたいなもんだよ!」と。石灰はアルカリ性ですので、汚染されている廃水の酸を中和します。サイロを通った水は、大きな沈殿池に流れ込み、重金属などは下方に溜まって、虹色のヘドロができます。ヘドロは本当に鮮やかな色合いを帯びています。氷河のような青色が見えるのは、アルミニウムが含まれていることを示唆しています。テラコッタのような赤色は、鉄が含まれていることを示唆しています。そこを通って処理された水は、沈殿池の土手を伝って元の小川に戻されます。

 ウェストバージニア州は全米第2位の石炭産出量を誇っています。同州では、石炭産業が排出した汚染物質の浄化のための費用を、地域社会が負担しなければならないということが度々発生しています。しかし、最新の研究によれば、炭鉱からの廃水の中には貴重な鉱物等が含まれていることが判明しています。コバルト、マンガン、リチウムなど鉱物やネオジムなどの希土類などが含まれています。これらは、風力発電に使われる磁石や、コンピューターやスマートフォンや様々な最新兵器に使われる超軽量バッテリーなど様々なハイテク製品にも不可欠なものです。ジィムキーウィッチは言いました、「これらの鉱物を使うことで、ものを軽くしたり、速くしたり、温度を上げることが可能となります。」と。気候変動の被害を軽減するために経済を脱炭素化するには、より高効率のバッテリーを数多く生産する必要があります。そのためには、これらの鉱物をより大量に供給する必要があります。

 現在、そのような鉱物の多くはコンゴなどで採掘されています。コンゴのコバルト鉱山では、劣悪な労働環境や児童労働が問題となっています。時には児童が薬漬けで働かされているようです。また、中国でもかなり採掘されています。しかし、中国は最近では製造や輸出を厳しく制限しています。そうした状況は、アメリカ経済にとって好ましくないものです。サプライチェーンの脆弱性に繋がりますし、国家安全保障上も問題となります。というのは、特定の先進技術の開発と製造を中国の工場に依存することになるからです。ジィムキーウィッチは言いました、「中国は、レアメタル(希少鉱物)の供給を国内で完結できますが、アメリカはできないのです。アメリカは、レアアースを生産している鉱山を国内に1つしか持っていません。その上、それを精錬するためには中国に送らなければならないのです。」と。

 しかし、ここ数年、アメリカでは、炭鉱の廃棄物や廃水から重要な鉱物や物質を抽出する研究が行われていて、かなり進んでいます。これが実用化されれば、汚染された土壌の浄化と希少資源の確保を同時に実現できるかもしれません。そして、その資源を利用できれば、先進精密機械の製造拠点をアメリカに戻したり、軍事技術に必要な物資を供給したりできるようになるでしょう。より持続可能なエネルギー源を作ることもできるかもしれません。エネルギー省化石エネルギー・炭素管理局(the Office of Fossil Energy and Carbon Management at the Department of Energy)のジェニファー・ウイルコックス副長官は私に言いました、「石炭産業が盛んな地域は、シリコンバレーが解決できないことに取り組んでいるのです。それによって環境が回復されるだけではありません。アメリカのエネルギー源確保の為に多大な犠牲を払ってきた石炭産地の経済を回復させる可能性もあります。」と。

 ジィムキーウィッチは、アパラチアの炭鉱の酸性の廃水から貴重な鉱物や希土類を採取する活動を主導しています。彼は言いました、「廃水の中には、これまで私が探してきたあらゆる金属が含まれています。」と。2019年、彼はエネルギー省から500万ドルの資金援助を得て、ウエストバージニア州環境保護局と協力して、炭鉱の酸性廃水から廃棄物を処理し、貴重な鉱物等を抽出する国内初の実験施設を建設することに成功しました。この夏から初期運用を開始したこの施設では、年間1.5〜3トンの貴重な鉱物や希土類が抽出される予定です。

 炭鉱の廃棄物や廃水から貴重な物資を抽出できる可能性があるということはかなり認識されるようになっています。ですので、ジィムキーウィッチの実験施設に関する関心もかなり高まっています。彼は、施設付近の渓流で、平らな草の葉の間に青い花をつけた植物の四角い茎を摘み、親指と人差し指でくるくる回しました。彼は突然問いかけました、「十字架のように見えるでしょ?」と。するとハーリーは言いました、「それはルリジサ( borage)でしょ。ところで、地主や炭鉱運営企業からの問い合わせはあるの?」と。ジィムキーウィッチは答えました、「週に2回くらいですかね。電気自動車メーカーからも問い合わせが来ました。まあ、社名を出すのは控えてさせてもらいますがね。」と。