ゲノム編集技術(CRISPR)の進化!CRISPRを駆使して遺伝子ドライブを起こして絶滅危惧種を救う!

Control of Nature January 18, 2021 Issue

CRISPR and the Splice to Survive

ゲノム編集技術(CRISPR)と種の保存

New gene-editing technology could be used to save species from extinction—or to eliminate them.
ゲノム編集技術は絶滅危惧種を救えるのか否か

By Elizabeth Kolbert January 11, 2021

1.遺伝子工学は生まれて50年で長足の進歩

 北欧神話の主神オーディンは非常に強力な力を持っていると同時に詐欺師でもありました。彼には眼が一つしかなく、片方の眼は知恵と引き換えに失っていました。彼には沢山の才能が備わっていましたが、彼は死者を目覚めさせ、嵐を静め、病人を治し、そして敵を盲目にすることができました。時々、彼は自分自身をヘビに変身させました。また、彼は素晴らしい詩人でしたので、しばしば人々をうっとりさせました。

 カリフォルニア州オークランドにあるオーディン社は、遺伝子工学キットを販売しています。同社の創設者でジョサイヤ・ザイナーは、側頭部を短く刈り上げた尖った髪型で、沢山のピアスを着け、タトゥーを入れています。タトゥーは「美しいものを作ろう!」との文字が見えます。彼は生物物理学の博士号を取得しています。挑発的な言動でかなり有名です。彼にもさまざまな才能がありました。彼は自分の皮膚に蛍光タンパク質を生成させましたし、友人の大便を利用して作ったDIY遺伝子治療キットを自ら試したり、筋肉をより肥大化させるために自分の遺伝子の1つを不活化しようとしました(残念ながら、遺伝子の不活化は失敗しました)。ザイナーは自分自身を「遺伝子デザイナー」と呼びます。彼の目標は、人生を変えたいと思えば、誰もが何時でも遺伝子治療を簡単に受けられるようにすることです。

 オーディン社は幅広い製品を扱っています。3ドルのガラスコップ(”Biohack the Planet”と印字されている)から遺伝子工学実験キットまで扱っています。その実験キットには、遠心分離機、ポリメラーゼ連鎖反応装置、ゲル電気泳動システムなどが含まれています。私は膨大な製品群の中から、中くらいの価格のものを買ってみました。「CRISPR細菌と蛍光イースト菌組合せキット」で、299ドルでした。それは、オーディン社のロゴが印字された段ボール箱に入って届きました。ロゴは、二重らせんが絡みついている木で表されていました。私が思うに、おそらくその木は、ヨグドラシルという木だと思われます。それは、架空の木で、北欧神話に登場する世界を体現し、その幹が宇宙の中心を貫いている巨大な木です。

 届いた箱の中には、実験道具が一式入っていました。スポイド、ペトリ皿、使い捨て手袋などがありました。また、小瓶がいくつかありました。小瓶には、大腸菌が入ったもの等でした。ゲノム編集に必要なものがすべて揃っていました。大腸菌の小瓶は、冷蔵庫の中、バターの隣に置きました。それ以外の小瓶は、冷凍庫の中でアイスクリームの横に置きました。

 遺伝子工学は、まだ50年ほどの歴史しかありません。遺伝子操作された細菌が初めて作られたのは1973年でした。その後すぐ、1974年に遺伝子操作されたマウスが作られ、1983年に遺伝子操作された植物(タバコ)が作られました。1994年に食用の遺伝子操作された農産物が承認されました。それは、トマト(商標名:Flavr Savrフレーバーセーバー)でしたが、あまりにも人気がないため、数年後には生産が終了しました。同じ頃、遺伝子操作されたトウモロコシや大豆も開発されました。トマトと対照的に、今でもそれらはそこらじゅうで生産されています。

 この10年ほど、CRISPR技術のおかげで遺伝子工学では長足の進歩がありました。CRISPRは、主に細菌の働きを活用して、研究者がDNAを操作するのが非常に簡単になりました(CRISPRとはclustered regularly interspaced short palindromic repeatsの頭文字をとったものです)。CRISPRを活用すると、一部のDNAを切り取ることが出来ます。それにより、そのDNAが及ぼす影響を排することが出来るし、他のDNAに置き換えることも可能になります。

 CRISPRを活用することでさまざまなことが可能になります。CRISPRの開発者の1人で、カリフォルニア大学バークレー校教授のジェニファー・ダウドナは、次のように述べています。「現在、生命維持に重要な役割を果たしているDNAを編集することが可能になっています。好きな形に変えることが可能です。」と。CRISPRを使って、既に多くの生物学者がさまざまな生き物を生み出しています。匂いのしないアリ、筋骨隆々のビーグル犬、ブタ熱に感染しないブタ、睡眠障害を患うオナガザル、カフェインを含まないコーヒー豆、産卵しないサケ、太らないマウス、細胞内のDNAに美しい配列が見られる細菌などです。2年前、中国の研究者の賀建奎が、世界初のCRISPRでDNAを編集した子供を出産したと発表しました。双子の女の赤ちゃんでした。彼によれば、その子たちの遺伝子は、HIVに対して耐性を持つようにしてあるということです。ただし、本当にCRISPRを使ったのかは、今のところ不明です。その後、彼は勤めていた大学から解雇され、懲役3年の刑を宣告されました。

 私は遺伝子研究の経験は全くありません。化学の実験も少し授業でやったくらいの経験しかありません。それでも、オーディン社のキットに入っていた指示書に従えば、週末にちょっと頑張るだけで、新しい生命体を作ることが出来ました。まず、ペトリ皿を1つ使って大腸菌群を1つ育てました。次に、その大腸菌群を、さまざまなプロテインや、冷凍庫に保存していたデザイナーDNAの断片と混ぜ合わせました。このプロセスでは、細菌のゲノムの中の1つの塩基が交換されます(アデニンがシトシンに置き換えられます)。その交換のおかげで、私が生み出した大腸菌は、強力な抗生物質ストレプトマイシンに対して耐性を持ちました。台所で抗生物質に耐性のある大腸菌を作っていると思うと、少し背筋が寒くなりました。でも実験が上手くいった時の達成感がかなり大きいので、別の実験キットを買うことに決めました。そのキットでは、イースト菌の遺伝子にクラゲのDNAを注入して、発光するイースト菌を生み出します。