The Control of Nature November 15, 2021 Issue
Deer Wars and Death Threats
シカの個体数急増と駆除について
A small subset of wild animals thrive alongside humans. An unusual—and polarizing—set of conservation projects have sprung up in response.
野生動物の小さな集団が人間の居住地のすぐそばで繁殖しています。それを保護するさまざまなプロジェクトが行われています。しかし、中にはちょっと変なプロジェクトもあります。
By Brooke Jarvis November 8, 2021
1.生態学者スティーブンス スタテン島で雄シカの精管切除を推進
8月下旬の暑い日の午後、特殊なダート銃を持った専門家の一団が、スタテン島のFresh Kills(フレッシュキルズ公園)に車で向かいました。その公園の付近には、元々は湾に流れ込む小川と沼地が入り混じった自然豊かな河口が広がっていました。かつて約50年間ほど、世界最大の埋立ごみ処理地としての役目を果たしました。米国最大で最も人口密度の高い都市のゴミが大量に運び込まれました。現在、廃棄物は土で覆われて整備された丘陵となっています。オウゴンヒワやチョウゲンボウなどの背の高い草が茂っており、ニューヨーク市で最大規模で最新の公園として整備が続けられています。ダート銃を持った一団は、狙撃対象となる動物が夜行性であるので夜間に作業をするようにしています。毎夜、乾燥トウモロコシで作った餌をそのエリアにばら撒いています。このプロジェクトは非常に野心的と言えるものですが、物議を醸すものでもあります。計画では、その島に生息している雄シカの98%を生殖不能にすることを目指しています。
その一団は、餌を撒いたあたりからは見えない場所に車を停めました。一団のリーダーである野生生物生態学者のデーン・スティーブンスは「シカは環境の微妙の変化にも大変敏感です。ですから、車で草原を走ったりしない方が良いので、車はここに停めます。」と説明しました。スティーブンスは、環境保護活動をしている非営利団体の”White Buffalo”(以下、ホワイトバッファロー)の代表をしています。その団体の取組みは普通の動物保護団体はあまりやらないと思うのですが、動物の不妊化(および生殖不能化)を請け負っています。2016年にニューヨーク市とシカの不妊化(生殖不能化)プロジェクトを実行する契約を結びました。スティーブンスは、今年の夏は降水量が多く、常に風向きが変わる日ばかりだったので、プロジェクトの推進は非常に困難だったと私に言いました。降水量が多いということは、餌となる草の生育が良くなるので、シカが乾燥トウモロコシにあまり興味を示さなくなるということを意味します。また、常に風向きが変わるということは、シカが近くまで来たとしてもダート銃を命中させることが難しいということを意味します。ダーツ銃の使用については事前にニューヨーク市の許可を得ています。しかし、非常に威力が弱められており、殺傷能力はありません。法律的には銃には該当しません。シカにダート銃を発射する際には20ヤード(18メートル)以内まで近寄る必要があります。風向きが変わって人間の匂いがシカに達すると、シカは用心するので近寄れなくなります。
その日、フレッシュキルズ公園では風がようやく安定してきました。スティーブンスらは監視カメラの映像で、この1週間は毎晩同じくらいの時間に1匹の若い雄シカが乾燥トウモソコシの餌を食べに来ていることを認識していました。それで、ダート銃を撃つ担当1人がその時間のちょっと前に来て、雄シカが現れるのを待っていました。その担当はシカからは視認しにくいカモフラージュテントを組み立てて、ダート銃を撃つ準備をしました。銃から出る弾に入っているのは、キシラジン(麻酔前投与薬)とテラゾール(獣用麻酔薬)と超短波発信機でした。現れた雄シカは生後1年ほどで体色が奇麗で茶色い目をしていました。しかし、まだ十分に幼いので、母シカと一緒に過ごしていると思われました。スチーブンスは「人間で言うと10代でもうすぐ家から出て独立する頃に該当します。」とその雄シカを形容しました。雄シカはいつもとほぼ同じ時間に乾燥トウモロコシの餌に近づきました。そこで、ダート銃担当は、雄シカの太ももに焦点を合わせて銃を撃ちました。太ももを狙ったのは、そこはシカの一番大きな筋肉がある場所だからですが、見事に命中しました。静寂を守るため、事前に計画していたとおり、ダート銃担当はスティーブンスにWhatsApp(ホワッツアップ)でメッセージを送信しました。そのメッセージを受けて、事前に計画していたとおり一連のオペレーションが素早く実行にうつされました。
ダート銃の弾が当たって麻酔薬等が効くまでには15分ほどかかります。その間に雄シカはかなり移動してしまうので、ダート銃担当は超短波発信機の電波を受信して、雄シカが眠りに落ちている場所の見当を付けます。ほとんどの場合、深い草原の中でいびきをかいています。しかし、墓地や工業団地やサッカー場の近くで眠っていることもあります。寝ている場所がどこであれ、結局はそこが雄シカの手術室になって、生殖不能化処置が施されます。スティーブンスの指示を受けて、獣医が処置をします。獣医はヘッドランプを着けて処置に必要な装備一式を携行しなければなりません。かなりの重装備になり、途中には交通量が多い通りもあるのですが、雄シカの麻酔の効き目が切れる前にかなりの距離を移動して目的地点まで辿り着かなければなりません。
フレッシュキルズ公園に、1人の獣医が到着し、装備類の準備をし、青い紙のシートを広げて敷きました。そして、雄シカの陰嚢に5分の3インチ(約1.5センチ)の切り込みを入れ、次に蔓状静脈叢を引っ張り出して、2つある精管をほぐして探り出し、両方から1インチ(約2.5センチ)ほどを除去しました。精管が繋がっていない状態を永遠に維持するために、獣医は管の切り口を焼灼して、さらに管にチタンクリップを付けて塞ぎました。それから、素早く太ももの傷口を縫合した後、雄シカを識別するためのタグを耳に付けました。既にこの島では約2千匹のシカに耳タグが付けられていました。耳タグが付いているシカはリスト化して識別されますが、この雄シカの欄には処置済みの印が付くことになります。一連の処置が終わったので、雄シカは麻酔の効き目を無効化する薬剤を注射されました。
やがて、その雄シカは目を開けて耳をぴくぴく動かしてから頭を起こしました。それから立ち上がって夜の闇の中に消えていきました。立ち去った後には2インチ(約5セント)ほどの体片が残っていました。精管切除処置はわずか5分しかかかりませんでした。スティーブンスらはニューヨーク市の委託により雄シカの精管切除を主として行っていますが、時として批判されることもあります。