シリコンバレーで大人気!eスクーターがようやくニューヨーク到着!

4.eスクーター界の巨人(バード、ライム)に挑むリンク社

ポール・ホワイトは、マイクロモビリティが重要になると言われるかなり前から、この分野の最前線を走ってきました。彼のキャリアのほとんどは、1973年に街中に自動車が溢れている状況を改善するために設立された非営利団体Transportation Alternativesでのものです。そこで2004年に事務局長となって以降、彼はニューヨーク市に働きかけて自転車にとってより安全で快適なインフラを整備させました。彼はマイケル・ブルームバーグ市政で市運輸局の長官ジャネット・サディカーンと友達でした。彼女は何百マイルもの自転車専用レーンを整備しました。ホワイトはセントラルパークとプロスペクトパークの両方から自動車を締め出すことに尽力しました。ブルームバーグ政権下の市に対して陳情を行った結果、2010年6月にはプロスペクトパーク・ウェスト・バイクウェイが整備されました。2013年のニューヨーク市長選挙に出馬したアンソニー・ウィーナーは、自転車専用レーンに対して嫌悪を露わにして、当選したらレーンを全て撤去するとの公約を掲げていました。しかし選挙では勝てませんでした。
 ですので、2018年の秋に非営利団体Transportation Alternativesをホワイトが離れてシリコンバレーのユニコーンであるバード社に移るとの発表があった時、市街地での自転車の普及を促進しようとしている多くの人たちは大きな衝撃を受けました。バード社は公共政策に関しての「ドリームチーム」を作る目的でホワイトを雇い入れたいと考えていました。ホワイトは、一足先にバード社に加わっていたメリンダ・ハンソン(電気自動車に関してコンサルティングをしているエレクトリック・アベニュー社の創設者)と業務内容について話し合った後でバード社に加わることを決めました。ホワイトは言いました、「私はもうすぐ50歳を迎えるところでした。非営利団体で14年間務める中で、それなりに成長しました。」と。ホワイトは事務局長として資金調達に奔走してばかりで、それは彼が本当にしたいことではありませんでした。また、当時、ニューヨーク市議会では自転車専用レーンを良く思わない者が優勢になりつつありました。というのは、道沿いの無料のパーキングエリアがどんどん無くなっていたからです。デブラシオ市政の最優先事項は「ビジョン・ゼロ」政策でした。それは、自動車事故関連死者を減らす取り組みで、自転車専用レーンの敷設の優先順位は低くなりました。パンデミックが発生したことも自転車専用レーンの敷設に対してはマイナスでした。ニューヨークの自動車の運転手たちは、パンデミックで道路がすいている状況を見てスイスイ走れる状況を喜びました。彼らにとって、自転車専用レーンは邪魔なものに感じられるようになりました。ビジョン・ゼロ政策が実施されていますが、交通事故関連死者数は減っていません。
 ホワイトは言いました、「私はスクーターを使う人たちの行動を観察してきました。確かに、歩道にスクーターが乱雑に置かれるなどの問題もいろいろとあります。しかし、良い点も沢山あります。女性の利用が増えています。低所得者の利用も増えています。あらゆる階層の人たちの利用が増えているのです。これは良い兆候です」と。ホワイトは、同じような兆候を感じたことが過去にありました。それは、ブルームバーグ市政下で自転車の街中での利用が急速に増えた時のことでした。その時と同様にマイクロモビリティに対しての期待の高まりを彼は感じています。
 パンデミックの都市封鎖により、スクーターを利用する者は急激に減りました。2020年3月中旬以降、誰もが何かを共有するという行為を躊躇するようになりました。また、街中を移動する者自体少なくなりました。スクーターのデーターを収集し活用する機能は宝の持ち腐れとなりました。アメリカやヨーロッパの多くの都市で、電動キックスクーターは冬眠状態になりました。都市の街角から何千台もの電動スクーターが取り除かれました。
 この業界では多くの従業員が解雇され、ライム社はユニコーンの地位を失いました(株式時価総額が100億ドルを割り込んだ)。そうした中、ホワイトはバード社の経営陣から電子メールを受信しました。2020年3月26日のZoomのミーティングに参加してほしいとの要請でした。彼は事前に議題の詳細は何も知らされませんでした。ミーティングが始まると、女性の声でバード社の従業員400人以上を一斉解雇するとの発表がありました。解雇対象となる人たちも沢山このZoomミーティングに参加していました(大量解雇公表の模様は今でもYouTube上で見られるようです)。ホワイトは非常に残酷に感じたのを覚えています。解雇対象の人たちは会社支給のパソコンで、ほとんどの人が自宅でリモートワークしていました。その発表が90秒ほどで終わると、直ぐにパソコンのZoomミーティングは切断されました。電子メールも使えなくなり、Slackも使えなくなりました。
 ホワイトは数週間ほど落ち込みました。また、彼はマイクロモビリティの分野から足を洗うべきではないかと悩みました。2019年、彼は、妻(詩人のゾーイ・ライダー・ホワイト)と3人の子供とともに、アルスター郡の6エーカーの農場に引っ越しました。彼はそこでやりたいことを沢山考えていました。しかし、都市封鎖が緩和され、スクーターのシェアリングサービスの利用者数も回復したので、彼はスーパーペデストリアン社に加わってロビー活動を始めました。
 ホワイトは言いました、「私はこの業界で普通に働いていた真面目な人たちのために役立ちたかったのです。個人的にもこの業界にこれまでも沢山投資してきました。私は、ニューヨークで電動キックスクーターを普及できるようにロビー活動をしようと思います。もしも失敗したら、一生アルスター郡に引きこもって、そこの道路の穴ぼこでも直してすごすしかないと思っています。」と。