シリコンバレーで大人気!eスクーターがようやくニューヨーク到着!

5.eスクーターの弱点 リチウムイオン電池

電動キックスクーターは、革新的な未来の移動手段には見えません。しかし、経済評論家でマイクロモビリティという語を造語したこの分野の第一人者であるホーレス・ディデューにとって、革新的でなく手軽な点が電動キックスクーターの魅力です。次代の移動手段の革新は、基礎的な技術から生み出されるとディデューは考えています。ディデューはルーマニア生まれで、子供の時に米国に移住し、その後タフツ大学に進み、ハーバードビジネススクールに通いました。彼は現在フィンランドに住んでいます。そこではマルチモーダル化(複数の交通機関の連携を通じて、利用者のニーズに対応した効率的で良好な交通環境が提供される交通体系)が進んでいます。彼は、YouTubeで、自転車に乗りながら、都市のモビリティについての哲学を語っています。
 ディデューは、重いデスクトップコンピューターが軽いノートパソコンやタブレット端末やスマートフォンに取って代わられたように、自動車もいずれははるかに軽量でクリーンで資源を浪費しない電動の小型の乗り物に取って代わられると予想しています。現在移動手段として自動車を使っている人たちの多くが電動の小型の乗り物しか使わなくなると予想しています。現在、米国では、移動手段として自動車が使われている場面の60%は6マイル(9.6キロ)未満の移動です。リチウムイオン電池を世界で初めて製品化したのは、日本のソニーでした。それはビデオカメラの高級機種用のものでした。それが今ではあらゆるモバイル端末に使われています。携帯電話やノートパソコンだけでなく、eバイク、eスクーター、e-monowheel(電動一輪車)、eスケートボード(電動スケートボード)などの日々革新が続いているマイクロモビリティ機器類でも使われています。それらのマイクロモビリティ機器類は革新が進んでいて、すでに乗員の動力は不要でバッテリーだけで駆動するものもあります。
 ディデューは、電動キックスクーターを「車輪の付いたスマホ」と評します。というのは、現在世界中を走っているどんば車両よりも、駆動に関連する部分に対するコンピューターの部分の割合が高いからです。しかし、電動キックスクーターに乗る人の多くは、スクーターにリチウムイオンが搭載されていることを認識していません。電動キックスクーターのシェアリングサービスが導入された初期には、スクーターは平均で28日で修理が必要になりました。バート社やライム社がサービスを開始した時、両社は一般消費者用の電動キックスクーターを中国のメーカーとなっていたセグウェイ・ナインボット社やシャオミ社から調達していました。それらの製品はそもそも往来の激しい街中で多くの人が通勤等の足として使うほど堅牢な仕様ではありませんでした。サンフランシスコでは急こう配の坂でブレーキが効かなくなり、集団訴訟を起こされました。ニュージーランドのオークランドでは、ソフトウェアの不具合によりスクーターに突然ブレーキがかかりました。2018年10月にはライム社は2,000台のスクーターをリコールして回収しました。ロスアンジェルスやサンディエゴやタホ湖に配置していたスクーターが対象でした。スクーターの底部分に搭載しているバッテリーが爆発する危険性があったからです。リチウムイオンバッテリーは回路がショートすると一度に溜まっていたエネルギーが放出されて爆発することが稀にあります。それが理由で、飛行機に乗る時に、航空会社は預かり手荷物にリチウムイオンバッテリーを入れることを許可しておらず、機内に持ち込まなければなりません。実際、2019年の5月にはブルックリンにあるシティ・バイク社の充電基地で火災が起きていました。
 それでも、ディデューは、現在の電動キックスクーターが進化を続けて、主要な移動手段になり得ると信じています。eスクーターやeバイクに組み込まれている最先端のテクノロジー(モバイル通信機能、自動運転機能、人工知能)は非常に優れています。アップルや他のハイテク企業が将来製造する可能性のある自動運転車などで使われているテクノロジーと同様に重要です。各都市が設定したゼロエミッションの目標を達成するためには、あるいはフォードが2030年まで、GMが2035年までとした全車電動化の目標を達成するためには、自動車はより小さく、より軽くなるしかありません。というのは、リチウムイオンバッテリーの能力による制約があるからです。四輪の屋根付き自転車、電動三輪タクシー、電動三輪ミニバスなどに将来性があると思われます。
 しかし、電動キックスクーターは廃棄する時に環境に負荷がかかるかもしれないという問題があります。環境に優しい交通手段にするためには、この点は解決すべき問題です。現状では、リチウムイオンバッテリーを適正な料金を貰って採算が合うようなリサイクル方法は確立されていません。これは、リチウムイオンバッテリーを積む車全般に当てはまることで、持続可能性を謳う電気自動車に関して留意が必要な事項です。過去10年間に中国は大量の老朽化した電動キックスクーターを、シェアリングサービス用のキックスクーターも含めて受け入れました。そして、それらのキックスクーターは埋め立て処分されました。それらが大量に打ち捨てられた中国の”スクーターの墓場”のおぞましい画像がインターネット上で沢山見られることもありました。廃棄されたバッテリーの環境負荷以外にも問題はあります。それは、シェアリング用のスクーターを充電ステーション等に移動させる際にトラックやバンが二酸化炭素を排出するということです。ギグワーカーを沢山雇用していることや持続可能性に懸念があることなどの重要な問題については、電動キックスクーターシェアリングサービスが始まった初期には未解決でした。しかし、そうした問題はニューヨーク市運輸局と取引するのであれば、解決しておかなければならないことです。