言った者勝ち?なぜ保安官等の公職選挙において、かくも学歴詐称や軍歴詐称が横行するのか!

Annals of Justice October 26, 2020 Issue

How to Spot a Military Impostor
軍歴詐称をどう見抜くか?

The detectives who investigate fake stories of military service use many tools, including shame.
軍歴に関する嘘は、様々なツールによって調べ上げられ、必ずバレます 。

By Rachel Monroe October 19, 2020

1.軍歴詐称 - キャラハン郡の保安官選立候補者の場合

 

 テキサス州アビリーン郊外の農業地域であるキャラハン郡は、誰もが隣人に注意を払って生活しています。バート・ケンドリック家は19世紀から代々このあたりに住んでいます。彼は、車にはこだわりがあって割と詳しい方です(私が彼を訪ねた時も、彼は挨拶がてら、「いかしたピックアップトラックだな。何年製ですか?」と聞いてきました)。去年の夏のことですが、バートは近くのとある家で奇妙な出来事を目撃しました。午前中はガレージの前にピックアップトラックが駐車されているのに、夕方にはそれがパトカーに替わっていました。新しい隣人かと思い、バートが自己紹介をしに行ったところ、誰も出てきませんでした。庭は雑草に覆われていました。窓もアルミホイルで覆われていました。

 12月に、バートと妻のアンバーは地元紙を読んでいました。近くのクライドの町の警察官ルロワ・フォーリーがキャラハン郡の保安官に立候補しているという記事がありました。フォーリーの選挙広報を見ると、バートの隣の家に住んでいることになっていました。実際にはフォーリーはそこに住んでいなくて、単に仕事が終わった後に車を乗り替える場所として使っているだけでした。バートとアンバーは少し調べただけで、フォーリーは55マイル離れた郡外に住んでいることが分かりました。そうであれば、テキサス州法によりフォーリーには立候補する資格がありません。

 バートは長いあご髭を生やしています。何事にも執念深くて探求心の強い性格です。何かがおかしいと思った時には、放っておけない性分です。私が彼を訪問する直前に、飼い猫がアライグマに殺されてしまいました。バートは埋葬した後、防犯カメラの映像を調べ犯人を特定しました。そして、ピストルで撃ち殺して復讐を果たすまで木の上で数晩過ごしました。フォーリーの住所に関する嘘がバートは気に入りませんでした。フォーリーの家のドアをノックしても何の応答もないことを動画で記録しました。また、フォーリーの家の前にゴミ箱をおいて全く動いていないことを証明するための写真も撮りました。

 フォーリーは、公約で群の保安官をもっとまともにしたいと記していました。彼は、今の保安官代理たちは役立たずだと貶し、カウボーイブーツを履いているがそんなんでは仕事にならないだろうと嘲笑していました。頑丈そうな顎を持ち、きれいに短く髪を刈った背の高いフォーリーは、自分は第75レンジャー連隊に11年間いたことを公言していました。それは、陸軍の特殊工作任務に携わるエリート部隊です。そこで狙撃訓練をしたことや戦闘で被弾したとも話していました。彼は、Facebookページで選挙活動をしていましたが、いくつかのメダルの写真を投稿していました。1つは銀星章です。もう1つは紫心章です。前者は勇者の証といえるものです。後者は名誉戦傷者に贈られます。「私は生まれた時から保安官の資質を備えている」と、地元テレビ局に語っていました。

 保安官選で共和党候補指名争いでのフォーリーの対立候補となるリック・ジョーワーズは、口ひげのある穏やかで親しみやすい保安官代理です。ジョーワーズは郡全体に顔が売れていますし、かなり好かれています。ヤギの喧嘩や家族内の諍いでも彼を頼る者がいるという話をする者もいます。キャラバン郡の保安官を7年間しているテリー・ジョイは言います、「ジョーワーズは本当に優秀な保安官代理で、仕事も出来るし誰とでも上手くやっていける。この保安官事務所で8年間勤務していて、その内の5年は主席代理をしていた」と。また、マルシア・シャムウェイ(専業主婦で自宅でホームスクールを開いている。夫のポールはジョーワースの選挙活動を手伝っている)は、言います、「誰にでも手を差しのべる古き良き田舎の少年のような人です。本当に気持ちの良い人物です」と。

 フォーリーは繰り返し陸軍で従軍した時のことをアピールしました。1月に、公開討論会が開催されました。フォーリーは、警官としての訓練は受けていないが陸軍で訓練を受けたこと、全ての軍人と同様に時間を守り他者に敬意を払うことなどをアピールしました。対するジョワースは、フォーリーのタフガイさを売込む姿勢には少し押され気味でしたので、違う戦略を打ち出し、次のように発言しました、「軍歴と保安官としてこの地域の為にやるべきこととは何の関係もありません。私にもフォーリー氏と同じように軍に所属し戦闘で負傷した経験があります。私は空挺レンジャー部隊に所属していました。私も祖国に仕える中で被弾しました。でも、私は保安官事務所を軍隊式に運営しようなどとは思いません。」と。

 クリスマスの頃、バート・ケンドリックは、フォーリーの居住地が虚偽であることを公開するためにFacebook上でそのことを非難しました。それにより、フォーリーの立候補者の資格は剥奪されるだろうと思っていました。ところが、バートは多くの人からストーカー呼ばわりされる事態となってしまいました。そういった反応は想定していなかったので酷く気落ちしてしまいました。しかし、妻アンバーは励ましてくれました。彼女はフォーリーのソーシャルメディアのアカウントを調べあげ、他にも虚偽の経歴は無いか調べました。ある夜、彼女はフォーリーが受勲したメダルについて実家の父に聞いてみました。彼女の父は退役軍人でした。空軍大佐でした。元空軍大佐は言いました、銀星章などめったに贈られるものではない。本当かどうかは調べたら簡単に分かることだ、と。

 1月13日、アンバーは”Military Phonies(軍歴詐称)”というウェブサイトの問合せフォームに必要事項を記入しました。そのサイトは兵役記録をでっち上げたり捻じ曲げている者を調べて晒すことを目的にしているサイトの1つです。そうした目的のサイトは他にもたくさんあります。問合せフォームには次のように書きました、「フォーリーなる人物が空軍で銀星章なるメダルを贈られたと自慢していますが、虚偽である可能性が高いのです。30年間空軍に仕えた退役大佐の父に聞いたので間違いなく虚偽であると思いますが、事実を確認することは出来ないでしょうか。」と。

 その日の夜には”Military Phonies(軍歴詐称)”サイトの代表からアンバーに電子メールが送られました。通常こうした調査が完了し完全な報告書が完成するには2週間ほど掛かりますと前置きがあり、正式な報告書ではないものの銀星章メダルの全受勲者名が記されていました。そのリストは、ダグ・スターナーという軍事歴史家によって編集されたものでした。そこにフォーリーの名前はありませんでした。

 3週間後、”Military Phonies(軍歴詐称)”サイトは調査結果を公表しました。公表した内容は次の通りです。フォーリーは実際に陸軍の退役軍人だった。しかし、経歴を見るとアピールしていたほどのエリートではありません。彼が言っていた、空挺レンジャー部隊に所属し狙撃訓練を受けたこと、紫心章と銀星章を受勲したこと、戦闘で負傷したこと、いずれについても何の証拠もありません。

 クライド郡警察のFacebookページは、すぐに米国中の怒った人たちのコメントでいっぱいになりました。まあ、クライド郡警察のことを間抜けとかアホとか揶揄する投稿ばかりでした。フォーリーは休職することになりました。彼が今の職に応募した時、DD214という書類(兵役を証明する書類)を不正に加工していたことが判明しました。サウジアラビア解放メダルやスナイパーバッジなどを受けたと記録されていましたが、いずれも存在しないものです。3日後に、フォーリーは辞任しました。クライド郡警察署長ロバート・ダルトンは言いました、「何であんなことをしたんだろうと思いますよ。彼が陸軍を名誉除隊したのは間違いのない事実なんですから、軍歴を詐称する必要なんて全くなかったんです。」と。