脅威!続々と出現する変異株!新型コロナウイルスの変異はいつまで続くのか?どこまで変異するの?

4.楽観視しても無問題では?

 しかしながら、そんなに悲観すべき状況ではなく、楽観的に考えて良いと思います。何の根拠もなく言っているわけではありません。ジェームズ・ソマーズが当雑誌の2020年11月9日号に載せた記事で説明したように、人間の免疫システムは驚くほど複雑で、何千年も掛けて、細菌等の侵入者に対して無数の防御策を構築し磨き上げていました。また、キャサリン・シュエが先月(2021年7月)に当雑誌のWeb版の投稿記事に記していましたが、人間の免疫システムは、一度でも遭遇したことのある病原体に対しては非常に効果的に働きます。2009年にH1N1型インフルエンザウイルスが出現した時、それは奇妙な特徴を持っていて、年長者よりも若い人たちがより深刻な症状に陥りました。世界的に見ると、H1N1型インフルエンザで亡くなった者の80%を若い人たち(36歳未満)が占めていました(通常のインフルエンザでは、死者の概ね70〜90%を高齢者が占めます)。そうした結果になったのは、後に分かったことですが、年配の人たちの多くが数十年前にH1N1型インフルエンザウイルスに比較的似ているウイルスに感染した経験を有していたからです。それで多くの年配者の免疫システムはその際に戦ったことを記憶していて、H1N1型ウイルスの侵入に対する備えが出来ていたのです。

 SARS-CoV-2ウイルスがどんなに劇的な変異をしたとしても、おそらく新たに出現する変異株はSARS-CoV-1ウイルスよりも変異する前のSARS-CoV-2ウイルスとの共通点が多いでしょう。SARS-CoV-1ウイルスは2003年にSARS(重症急性呼吸器症候群)を大流行させました。今回の新型コロナに罹患しても死ななかった者の血液は、2003年に蔓延したSARS-CoV-1ウイルスのタンパク質を中和して感染を防ぐ潜在能力を有しています。また、ファイザー社とモデルナ社のワクチンは、新型コロナ対策として接種するわけですが、接種された人の体内で生成される抗体はSARS -CoV-1ウイルスに対しても有効なようです。スターは私に言いました、「その2つのウイルスの間には、進化の過程が全く異なっているので大きな差異があります。1種類の抗体が2種類のウイルスに対して有効であるという事実は我々を少し楽観的な気分にさせてくれます。」と。新型コロナウイルスの変異株が続々と出現していますので、それに対して人間の免疫防御が対応できずに脆弱になることも多少はあるかもしれません。しかし、ワクチンを接種すると抗体ができますが、抗体は1種類ではなく何種類もできます(ポリクローナル反応という)。スターは言いました、「たとえ1つの抗体が機能しなくても他の種類の抗体が効く可能性があります。私は思うのですが、人間の免疫防御を完全に回避する新型コロナウイルスの変異株が出現することはないでしょう。また、人間の新型コロナウイルスに対する免疫防御機能が退化していくようなことも起こらないでしょうし、ワクチン接種も進みますから、事態は改善していくでしょう。時間が経過していけば、いずれ新型コロナウイルスに感染しても軽症か無症候という状況が訪れるでしょう。しかしながら、それが1年後なのか、5年後なのか、10年後なるか、はたまたもっと先なのか、それは私には分かりません。」と。

 中和抗体(特定のタンパク質の活性を中和できる抗体のことで、ウイルスのタンパク質に結合して感染を防ぐ)が新型コロナ感染対策で話題になることがあります。しかし、新型コロナ感染対策においては、それほど重要な役割を果たさないかもしれません。対照的ですが、メモリーB細胞は新型コロナウイルスと戦うでしょう。ワクチンを接種すると体内にメモリーB細胞が産生されます。メモリーB細胞は何十年も生き残ることができ、一度感染したウイルスを記憶し続け、それに再感染した場合には、強固な抗体媒介免疫応答(二次免疫応答)を繰り返します。また、T細胞も新型コロナウイルスと戦うでしょう。T細胞は細胞が感染すると活動し始め、ウイルスに感染した細胞ごと排除します。変異株がT細胞を回避するのは非常に困難だと思われます。T細胞は、細胞表面にウイルスのタンパク質の破片が存在しているのを認識することで感染した細胞を見つけ出します。タンパク質の破片を感染した細胞からの遭難信号のように認識しているのです。T細胞は信号を発している細胞を見つけたら、選り好みすることはありません。全ての細胞の救援に向かいます。ラホヤ免疫学研究所でT細胞を専門に研究している免疫学者アレッサンドロ・セッテは私に言いました、「時々、ウイルスが変異して抗体の防御をすり抜ける能力を獲得したように見えることがあります。それでも、どんなに変異したとしてもウイルスがT細胞の防御を回避するのはほぼ不可能だと思われます。」と。ブレークスルー感染(ワクチン接種後に感染すること)が拡がっていますが、抗体とT細胞の2つが機能するので、ワクチンを接種することは非常に意義のあることで、重症化や死亡を防ぐのに十分な効果があります。

 免疫はどのくらい持続するのでしょうか?それを明らかにするのは重要なことです。セッテは言いました、「免疫は5年続くとか、3か月続くとか、7日間続くとか断定的に言いたいところですが、それは不可能です。というのは、ウイルスが何年間も流行し続けたことはないので、免疫力が持続しているか否かを確認することが不可能だからです。これまでの研究で、T細胞が免疫反応する能力は非常に長い期間に渡って維持されることが明らかになっています。」と。セッテの研究チームが公表しているデータを見ると、新型コロナウイルス感染後のT細胞は少なくとも8か月間はウイルスのタンパク質を記憶し続けています。おそらくもっと長い期間、記憶しているのでしょう(現在もその期間がどれくらいかを確認している最中で、8カ月という数値はもっと伸びていくと予測されます)。ワクチンを接種して得られる免疫は、非常に強力で、主要な新型コロナウイルスの変異株のほとんどに対して有効のようです。今から20年ほど前、2003年にSARS-CoV-1ウイルスに感染しSARS(重症急性呼吸器症候群)に感染した人たちは、今でもそのウイルスを認識し攻撃するT細胞を持っています。

 モニカ・ガンジーはカリフォルニア大学サンフランシスコ校の感染症専門医です。彼女は、T細胞に対する世間の注目度が低いことは残念だと思っており、学校教育であまり取り上げられないことに原因があると思っています。彼女は言いました、「疫学者の多くが抗体について研究していますが、T細胞を研究する者は非常に少なく残念です。どうして抗体を研究する者が多いかというと、それは非常に簡単に観察できるからです。旧式の器具を使っても問題ありません。対照的ですが、人間のT細胞を観察するのは非常に手間がかかり、巨大で高価なフローサイトメトリー測定装置が必要になります。」と。その結果、抗体に焦点が集まり、T細胞の研究への注目は低く、ほとんどの人はT細胞のことをあまり知らない状況です。本当は、抗体だけでなくT細胞も機能するので闇雲に新型コロナウイルスを恐れる必要など無いのですが、人々の不安は尽きません。ガンジーの患者で白血病に罹った女性が1人いました。白血病によって抗体産生細胞が重度の機能不全に陥りました。彼女はワクチン接種を受けましたが、抗体をあまり産生できないと自覚していたので、家族とハグすることは避け、常にマスクを着用するようにしました。ガンジーは、彼女を自分の研究室に連れて行きT細胞を調べました。結果、彼女には新型コロナウイルスに対して非常に強力な免疫があることが分かりました(T細胞が機能しているので)。それで彼女は非常に安心できました。

 ガンジーは、より感染力の強い新型コロナウイルスの変異株が出現する可能性が高いと考えていますが、変異が永遠と繰り返されるとは考えていません。彼女は言いました、「新型コロナウイルスは、他のウイルスと同様ですが、生物学的な限界があり無限に変異し続けるわけではありません。間違ってもオメガ変異株(オメガはギリシャ文字の最後の文字で24番目)が出現するようなことはないでしょう。」と。また、たとえ新たな新型コロナウイルスの変異株が出現したとしても、基本的にはこれまでに獲得した免疫は有効であると彼女は主張しています。彼女は言いました、「現在接種が進んでいるワクチンは有効ですし、それなりに持続性もあります。これまでのところ、はしかのウイルスは人間の免疫防御を掻い潜るような変異や進化を遂げていません。ポリオウイルスもB型肝炎ウイルスを同様です。そう、現在変異株が猛威を振るって感染が拡がっているのは、あまりワクチン接種が進んでいない国や地域です。さて、変異株はワクチンの効果を無力化するような能力を有しているでしょうか?答えはノーで、そんな能力は有していません。」と。