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Note to the Federal Reserve: Don’t Panic About Inflation
FRBへの諫言:インフレへの対処でパニックに陥るな!
Jerome Powell and his colleagues have the capacity, if they overreact, to crash the housing market, the stock market, and the economy.
ジェローム・パウエルらFRBの理事たちが対応を誤ると、住宅市場と株式市場が崩壊し、米国経済は瀕死の状態に陥る可能性があります。
By John Cassidy February 11, 2022
今週は、経済面で悪いニュースがありました。1月のインフレ率が発表されたのですが、非常に高い数値でした。消費者物価指数(CPI)は、7.5%だったのです。40年ぶりの高さでした。他にも悪いニュースがあります。それは、米連邦準備制度理事会(FRB)が過剰反応して、大幅な金利引き上げによって景気を後退させる危険性が出てきたということです。2月10日に発表されたCPIが高かったことを受けて、ウォールストリートでは、FRBが次回(3月)の政策決定会合でFF金利を0.5ポイント引き上げるとの予想が支配的となりました。2000年以降では最大の上げ幅となります。その前に、ジェローム・パウエル議長が緊急利上げを実施するのではないかとの観測もあるくらいです。セントルイス連銀のジェームズ・ブラード総裁は、7月までにFF金利を1.0%まで引き上げるべきだとの見解を示しています。ゴールドマン・サックスは、FRBが年内に利上げを7回実施すると予測しています。
利上げに対する関心が急激に高まったのは、発表された1月のインフレ率が市場予想を少し上回ったからです。事前予想では、例えばゴールドマン・サックスは、コア・インフレ率は1月に0.56%上昇し、年率6.01%になると予想していました。コア・インフレ率は、ヘッドライン・インフレ率(総合インフレ率)から相対的に価格変動が大きい食品価格とエネルギー価格を除外したインフレ率で、FRBが最も重視している指標です。発表された数値は0.58%で、年率換算では6.02%でした。市場予想を上回ったとはいえ、僅かに上回っただけでした。
なぜ、ほんの少しだけ数字が上に振れただけなのに、警戒感が高まっているのでしょうか。インフレ・タカ派(インフレ率を低く抑え込むことを重んじて政策運営をすべきと主張する者)は、これまで自動車や家具など商品に限られていた物価上昇が、経済の約4分の3を占めるサービス部門にも広がっていると主張しています。それは、米国労働省が発表したCPIに関するレポートを見れば明らかだと主張しています。ドナルド・トランプ政権下でホワイトハウスの経済諮問委員会の議長代理を務め、現在はフーバー研究所で特別研究員をしているタイラー・グッドスピードも、ブルームバーグとのインタビューで、インフレ率が異常に高くなっているので、早期に利上げすべきという見解を述べていました。ブラード総裁だけでなく多くの人たちが、インフレ率が異常に高くなったのは、FRBがパンデミック以降ずっと短期金利をほぼ0%で維持し続けていることが原因だと主張しています。こんなにインフレ率が高くなるまで利上げを実施しなかったことでFRBを非難し、すぐにでも利上げをすべきだという意見は少なくありません。ブラードは言いました、「米国ではインフレが起きています。あらゆるものの価格が上昇しています。しかも1月の数値は驚異的でした。FRBはインフレを抑制するための政策を実施しなければならないのです。」と。
米国労働省が1月のCPIを発表した際の資料を見ると、インフレ率が高いので直ぐにでも利上げを実施すべきであるという主張を裏付けるような証拠も少なからずあります。しかし、直ぐに利上げする必要などないと思わせるような点もいくつかあります。1月の数値を細かく見ていくと、医療サービス価格は0.6%の上昇、家事サービス(ハウスクリーニングなど)費用は0.9%の上昇、ヘアカットなどの理美容サービス費用は1.2%の上昇でした。それらは、大幅に価格が上昇したわけですが、しかし、サービス部門全体で見るとそうでもありません。12月は0.3%の上昇、10月は0.4%の上昇で、1月は0.4%上昇でした。1月だけ突出して上昇幅が大きいわけではありません。
商品価格に目を転じると、サプライチェーン問題の深刻な影響が続いていたわけですが、いくぶんインフレ緩和の兆しが見られました。新車価格は、自動車メーカーが減産を余儀なくされたことを受けて販売奨励金が減ったため、パンデミックの間に急上昇していたのですが、1月は横ばいで推移しました。また、パンデミック以降の中古車価格は新車よりも上昇幅が大きかったのですが、1月は1.5%の上昇で、12月(3.3%上昇)からはかなり落ち着いてきました。自動車部門は消費に占めるウェイトが高いため、CPI全体に大きな影響を及ぼします。ですので、新車価格と中古車価格が落ち着いてきたことは非常に意味のあることです。カナダでトラック運転手が抗議デモを行ったので、自動車部門のサプライチェーンもかなりの影響を受けたにもかかわらず、自動車価格が落ち着いた状態は今後も続きそうです。ゴールドマン・サックスが自動車価格に関するレポートを出していましたが、「マイクロチップの供給が改善されるので、今年後半には、自動車価格は徐々に低下していくだろう。」との予測を示していました。
CPIの資料を見ると、インフレが過去12か月間で急激に進んだことが分かります。ちょうど1年前のCPIは1.4%でした。それは、今では、FRBが掲げていたインフレ目標の2.0%をはるかに超えています。インフレ率は非常に高い数字となっていますが、何もかもが高くなって以前と全く光景が変わってしまったというわけではありません。ジョン・ジェイ・カレッジの経済学者J・W・メイソンがツイッターで指摘していたのですが、過去1年間のインフレ率上昇の大部分は、自動車価格の高騰とエネルギー価格の高騰によるものなのです。また、CPIの資料をよく見ると、インフレが収まりそうな兆候も見えますし、収まりそうにない兆候も見えます。
インフレが続くのか収まるのか予測がつかない状況ですので、パウエル議長率いるFRBは神経を研ぎ澄まして対応する必要があります。そうしないと、ウォール・ストリートがパニックに陥る可能性が出てしまいます。FRBは、何年も続けて超緩和政策を続けてきました。いずれ正常化しなくてはならなかったわけですから、引き締めに転じることは必然で、悪いことではありません。しかし、非常に慎重に実行する必要があるでしょう。利上幅や利上回数は慎重に決めなければなりません。現実をよく見て、市場と対話しながら落とし所を見つけなくてはならないのです。
多くの人が、FRBはインフレ率を素早く下げることができて、景気に冷水を浴びせないようにすることができると思っているのかもしれません。しかし、残念ながら、FRBにそんな芸当はできません。FRBは魔法の杖を持っているわけではないのです。FRBは、港湾のコンテナの滞留を解消することも、不足している半導体を増産することも、パンデミックによって職場を離れた何百万人もの米国人を説得して仕事に復帰させることもできないのです。FRBができることは、政策金利の引き上げと、資産買い入れの段階的縮小(テーパリング)だけです。その2つの手段によって、直接的に通貨供給量を減らすことができます。しかし、物価や賃金には間接的な影響しか及ぼせません。しかも、影響は徐々にしか出ず、それが目に見えるまでにはかなりの時間を要するでしょう。FRBは、インフレに対して素早く対処しそうな雰囲気です。しかし、やり方を間違った場合には、住宅市場、株式市場が暴落し、米国経済は悲惨な状況に陥るでしょう。現在、パウエルを始めとするFRBの理事たちは、インフレが収まらないという厳しい現実を目の当たりにしています。彼らが直面している課題は、非常に対処の難しいものなのです。
以上
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