1 月の米雇用統計 就業者数は市場予想を大幅に上回った!バイデンはニンマリ!?

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An Impressive Jobs Report Shows the U.S. Economy Powering Into an Election Year
1 月の雇用統計も強かった。米国経済が好調なのは大統領選にどう影響するか。

Strong employment growth and improving consumer sentiment are good news for any Presidential incumbent seeking reëlection.
堅調な雇用の伸びと消費者センチメントの改善は、再選を目指す現職大統領にとって朗報である。


By John Cassidy February 2, 2024


 「ワオォ」、「凄い!」「びっくり」。金曜日( 2 月 2 日)に労働省が 1 月の雇用統計を発表した直後、こうしたコメントがネット上に溢れた。就業者数は、35.3 万人増で、ウォール街の予想よりはるかに多かった。また、12 月の数字も33.3 万人増(速報値21.6 万人増)に上方修正された。雇用は非常に強い。2023 年の景気の底固さが新年も続いていることが示された。このことは、少なからず大統領選に影響を及ぼすだろう。 

 ジョー・バイデン大統領は木曜日( 2 月 1 日)にミシガン州で全米自動車労働組合の集会に参加し、「アメリカは世界最強の経済大国だ。」と語った。非常に上機嫌だった。そうなる理由はいくらでもある。この 1 週間だけを見ても、大統領に有利な経済指標が 6 つも出た。GDP 成長率、インフレ率、消費者信頼感指数等々。その中でもとりわけ雇用統計は彼を喜ばせた。小売、ヘルスケア、専門職・ビジネスサービス、人材派遣、政府部門で雇用が増えている。より多くの者が職場に復帰している。失業率も 3.7% と低い。失業率は 2 年近く 4% を下回っている。これは 1960 年代後半以来のことである。

 留意すべき点もある。そもそも単月のデータだけを見て一喜一憂しすぎてはいけない。1 月の雇用統計を見て気になる点もある。週の平均労働時間が少し短くなっている。統計上の問題であるが、季節調整によって新規雇用者数が上押しされた可能性がある。しかし、雇用者数調査は最も景気動向を正確に反映する指標である。3 カ月で 75 万以上の雇用が創出された。新型コロナの影響を脱し、景気は順調に回復している。この数字は非常に印象的である。

 どこをどう見てもアメリカ経済は好調である。トランプは、バイデン大統領の就任後 3 年間でアメリカ経済が低迷したと主張してきた。しかし、方針転換せざるを得なくなった。直近では、景気が良くなったのを自分の手柄にしようと必死である。「株式市場でトランプ・ラリーが始まった。」と今週初め、自身のソーシャルメディアに書き込んだ。多くの投資家が 11 月に自分が勝利することを予測しており、それが株価指数が上値を切り上げた理由だと主張している。そう主張したい気持ちは理解できるものの、少し的外れである。株価が上昇し、企業が雇用を増やしている主な理由は、経済成長が多くのエコノミストの予測をはるかに上回っていることと、インフレ率が予想よりも早く低下していることである。この 2 つの好材料が、多くの投資家を前向きにさせているのである。

 昨年の今頃はどうだったか。FRB がインフレ抑制のために政策金利を高めに維持していた。そのため、多くのエコノミストが景気後退局面入りを予測していた。しかし、2023 年のアメリカ経済は非常に堅調だった。2023 年のGDP 成長率は 2022 年の 1.9% を上回る年率 2.5% だった。総合インフレ率の推移を見ると、2022 年 12 月には 6.5% だったが、2023 年 12 月には 3.4% まで低下した。総合インフレ率は、物価が落ち着いている実態を過小に評価する傾向がある。FRB が重視する指標のコアインフレ率も見るべきである。価格変動の大きいエネルギー価格と食品価格を除外したものである。過去 6 カ月の数値を見ると、年率換算で 1.9% である。これは FRB が目標とする 2% を下回っている。水曜日( 1 月 31 日)に行われた記者会見で、FRB のパウエル議長は、3 月の早期利下げを期待していた市場の楽観シナリオに冷や水を浴びせた。しかし、今春に利下げを開始する可能性を完全には排除しなかった。「この半年間、インフレ率は着実に下がっている」。

 インフレ率が下がっているとは言え、全ての物品やサービスの価格が下がっているわけではない。家計支出の大部分を占める物品の価格は、新型コロナ前よりかなり高い。家賃、食料品、自動車などである。それゆえ、多くの家計が依然として生活苦にあえいでいる。これがバイデンの経済政策に対する支持率を低くしている理由の 1 つである。リアルクリアポリティクスの世論調査では 37.9% にとどまっている。インフレ率がどんなに下がっても、トランプと共和党は 11 月の大統領選までずっとバイデンの経済政策を非難し続けるに違いない。「バイデンフレーション( Biden-flation )」という造語をさんざん耳にすることになるだろう。

 インフレになれば現職大統領の支持率は下がる。世の常である。しかし、最近では、各種メディアはインフレに関するネガティブなニュースを流さなくなっている。サンフランシスコ連銀は、リアルタイムでデイリー・ニュース・センチメント指数( Daily News Sentiment Index )を公表している。全米の膨大な新聞記事をアルゴリズムで分析し、感情的な傾向を算出し示す指標である。過去 2 年間のほとんどにおいて、この指数はゼロを下回った。ほとんどの経済関連のニュースが否定的なものであったことを示している。それが昨年 11 月以降、ゼロを上回り、上昇トレンドが続いている。報道メディアが各種経済指標のポジティブな側面を伝えるニュースが増えていることを反映している。その指標を見ると、全てのアメリカ人が好景気を実感し始めていることが分かる。

 火曜日( 1 月 30 日)にコンファレンス・ボード( the Conference Board:全米産業審議会。非営利の民間調査機関 )が、消費者信頼感指数が 2 年ぶりの高水準に達したと発表した。それは予想通りの数値だった。2 週間前に発表されたミシガン大学消費者態度指数も同様だったからである。コンファレンス・ボードが発表する指標がミシガン大学の指標が矛盾することも少なくないのだが、今回は合致していた。この 2 つの指標から分かるのは、アメリカ人の景気見通しが明るいことである。

 この結果は大統領選にどのような影響を与えるのだろうか。超二極化が進んでおり、国際情勢も不安定で、バイデンもトランプも欠点ばかりが目立つ。正直なところ、誰も正確に情勢を見通せないだろう。これまでの大統領選と違って経済的要因は有権者の投票行動に影響しないと考えるアナリストもいる。逆に影響するとするアナリストもいる。ともあれ、再選を目指す現職大統領にとって、好調な経済、健全な雇用、消費者センチメントの改善は、フォローの風のように感じられるだろう。風は確実に吹いている。♦

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