頑張れっ ユニクロ! 世界制覇の日は遠くない?

Annals of Fashion

Inside Uniqlo’s Quest for Global Dominance
ユニクロの世界的覇権への挑戦の内実

The brand conceives of itself as a distribution system for utopian values as much as a clothing company. Can it become the world’s biggest clothing manufacturer?
このブランドは、衣料品会社であると同時に、ユートピア的な価値観を体現する流通システムであると自らを位置づけている。果たして世界最大の衣料品メーカーになれるのだろうlか?

By Lauren Collins September 15, 2025

1.アメリカでのユニクロの地位の高まり

 今年のスーパーボウル( Super Bowl )は、記憶に残るものが多いスポーツイベントだった。ハーフタイムショーの司会を務めたケンドリック・ラマー( Kendrick Lamar )のおかげで、ファッション史に残る出来事にもなった。彼は黒のレザーグローブ、バーシティジャケット、ブリーチ加工を施した大腿四頭筋を強調したローライズデニムのフレアパンツを身につけていた。多くのファッション評論家がラマーは不可能を可能にしたと称賛した。ウェットシール( Wet Seal:アメリカにかつて存在したティーンエイジャー向け衣料品小売事業者)の解散と時代の流れによって失われたと広く信じられていたパンツスタイルを復活させたからである。彼が登場した後、「フレアジーンズ( flared jeans )」の検索数は 5,000% 急増した。ザ・カット( The Cut )誌は、セリーヌの 1,200 ドルのこのパンツが「ショーの話題をさらった」と評した。

 ラマーのバックダンサーたちも目立っていた。赤、青、白のカジュ​​アルな服装をしていた。あるコメンテーターは、彼らがアメリカの不良集団を彷彿とさせると指摘した。赤はブラッズ( the Bloods )、青はクリップス( the Crips )、そして白はクー・クラックス・クラン( the Ku Klux Klan )を象徴しているのではないかと推測したのである。また、囚人服( prison jumpsuits )を彷彿とさせる、「ウディ・アレンの映画に出てくる精子男( sperm guys )」を連想させるというコメンテーターもいた。詩的感覚をもつコメンテーターは、バックダンサーたちがアメリカ国旗を形作っていると指摘した。彼らの衣装は、ラマーのトレンドの先を行く外観とは対照的で、全く特徴のないものであった。完璧なコントラストを成していた。ユニクロ( Uniqlo )がソーシャルメディアで、白いトップスの一部は「ユニクロ U エアリズムコットンオーバーサイズTシャツ( Uniqlo U AIRism Cotton Oversized )」であると宣言し始めたのだが、それまで、誰もユニクロのシャツと気付いた者はいなかったのではないか。

 ユニクロは東京に本社を置く衣料品販売会社である。1984 年に創業した柳井正( Tadashi Yanai )は現在も CEO を務めている。日本で 2 番目にリッチな人物である。ユニクロを傘下に持つ持株会社ファーストリテイリング( Fast Retailing )の昨年の売上高は過去最高の 200 億ドルで、利益 30 億ドルであった。ユニクロはアパレル分野で世界第 3 位のメーカー兼小売業者となった。H&M とインディテックス( Inditex: ZARA の親会社)の後塵を拝しているわけだが、成長率では両社を凌駕している。同社の年次報告書には、「究極の目標は、世界中のお客様に最も愛される No.1 ブランドになることである( the ultimate goal is to become the best-loved, No. 1 brand among customers worldwide )」との記述がある。

 今年の 4 月にユニクロのふくらはぎ丈ソックス( humble mid-calf sock:1足4ドル弱)が、Lyst (イギリスのファッション検索エンジン)の四半期ごとのファッション「注目商品( hottest products )」ランキングで 8 位にランクインした。これは、これまでにランクインした商品の中で史上最も手頃な価格である。「色はどれも絶妙で、価格も手頃。バングラデシュの 7 歳児を搾取していることなんて気にしないで」と、ニュースレター「 Trademarked 」のライターのタリロ・マコニ( Tariro Makoni )は語る。「ユニクロは、道徳的価値を最優先しないエバーレーン( Everlane:アメリカのオンライン中心の衣料小売業者)、不快感( ickiness )のない H&M である」。

 多くの母親がユニクロを着ている。特にそういう家庭では娘たちや夫や孫の多くもユニクロを着ている。お洒落な人たちは、 JW アンダーソン( JW Anderson )やルメール( Lemaire )などの高級ブランドとユニクロのコラボ商品を買い求める。それほどお洒落ではない普通の人たちは毎年同じ UV カットジャケットがユニクロで売っていることを知っている。王族の中にもこのブランドの目立たないスタイルと質素な価格の組み合わせを高く評価している者が少なくない。この春、メーガン・マークル( Meghan Markle )が「私が好きなものを厳選して集めたコレクション」へのアフィリエイトリンクを貼ったサイトをショップマイ( ShopMy:インフルエンサーが自身のおすすめ商品を集めたオンラインストアフロントを作成し、フォロワーに共有できるインフルエンサーマーケティングプラットフォーム)を使って立ち上げたのだが、ユニクロのコットントレンチコートが含まれていた。一方、バッド・バニー( Bad Bunny:プエルトリコのラッパー)のスタイリストの 1 人は LA タイムズとのインタビューで、このミュージシャンのために手がけたお気に入りのスタイルはプエルトリコのショッピングモールで購入した赤いジャケットとユニクロのパンツだと語っている。それは、意図せずユニバレ( unibare )してしまった瞬間であった。ユニバレとは、誰かがあなたが高級ブランドではなくユニクロを着ていることに気付いた瞬間を意味する日本語である。「間違いなく高価なブランドを着ているようにしか見えない」とその時のインタビュアーは驚いている。「本当に驚いた」。

 ユニクロが提供しているのは、あらゆるライフスタイルや美的感覚に合うことを意図した普遍的なファッションである。「ユニクロの服は、ある意味で自分の本質を投影することができる」と、ニュースレター「マガザン( Magasin )」を執筆するローラ・ライリー( Laura Reilly )は言う。ユニクロの服は、忘れられないというほど印象的ではないが、控えめなシンプルさを備えている。「私たちは、お客さまが頭からつま先までユニクロを着ることを期待していませんし、望んでもいません」と、ユニクロの広報担当のゲイリー・コンウェイ( Gary Conway )は、私がこの春、ユニクロの東京本社を訪問した際に語った。柳井会長はユニクロ社内では親分のような存在であるが誰からも親しまれており、さん付けで呼ばれることが多い。「個性は服からではなく、それを着る人から生まれると私たちは信じている」と彼は語っている。

 ユニクロの衣類にはロゴは一切入っていない。スパンコールもフリルもない。「レースもない」とユニクロのクリエイティブディレクターのクレア・ワイト・ケラー( Clare Waight Keller )は言う。「アシンメトリーのネックラインもない」。ワイト・ケラーはクロエ( Chloé )やジバンシィ( Givenchy )などヨーロッパの高級ブランドを率いた後、ユニクロに入社した。昨年のことである。「 ZARA やコス( COS )や H&M といったブランドは、ファッションを目指している」と彼女は言う。「ユニクロは時代を超越した感覚を重視している」。ファイナンシャル・タイムズ( the Financial Times )のファッション担当編集長のエリザベス・パトン( Elizabeth Paton )は「ユニクロは消費者文化を世界的に掌握している数少ないブランドの 1 つである」と語る。「ユニクロは、目に見えるものも見えないものも、下着も含めてあらゆるものを人々に提供している。ユニクロは身に付けるものに関して日常のあらゆる可能なソリューションを提供している。それは、イケア( IKEA )が住まいに関して提供する価値と似ている」。

 私がワイト・ケラーと話して感じたのだが、彼女は汗をかく人々のための服をデザインすることに喜びを感じているようだった。高価な金持ちのための衣類を作るつもりは無く、大衆のための服を作りたいのである。あらゆる体格の者のニーズを満たしたい、社会、文化、世代、地理的条件、気象条件に関わらず自社の服を来てもらいたいと考えている。「ユニクロの服の民主化という概念が私がこの会社に引き寄せられた理由である」と彼女は言う。そして、「これまでのキャリアでは、スリムな体型のモデルが着るような服しか作らなかった」と付け加えた。ワイト・ケラーが最初に行ったことの 1 つは、ユニクロのカラーパレットから特定の色を排除したことである。それはドギツイ( very violety )紫色で、「多くの人にとって非常に難しい」ものだった。彼女は説明した。「本能的に、それはユニクロっぽい色ではないと分かった。なぜなら、すべての肌の色に合うわけではないからである」。

 ユニクロはアジア、ヨーロッパ、北アメリカに 2,500 以上の店舗を展開している。日本人の 4 人に 1 人はユニクロのダウンジャケットを所有していると言われている。「誰もがユニクロにトヨタやソニーのようなイメージを抱いている」と、日本ファッション・ウィーク推進機構( the Japan Fashion Week Organization )のディレクター、今城薫( Kaoru Imajo )は語る。「確かに服を作っているが、それだけではない」。先日バズった TikTok 動画があるのだが、シンガポールの 1 人の若い男性が 8 色展開のユニクロのエアリズム( AIRism ) T シャツを買っている様子が映し出されている。エアリズム T シャツは独自の吸汗速乾性素材で作られており、臭いを気にする必要がないとされている。ユニクロはこのバズりに応えて、シンガポール限定カラーを 3 種類発売した。すると、シンガポール最大の新聞社がこの T シャツを「国民服( national uniform )」に選んだ。

 同社の規模での製造が環境に与える影響は計り知れない。ユニクロは年間の生産点数を明かしていないが、10 年以上前、店舗数が現在の半分以下だった頃でも、年間 6 億点の商品を生産していると公表していた。ユニクロの経営陣は、ユニクロがファストファッションだという見方に強く反対している。製造方法の改善を挙げ、ユニクロの商品は「エモーショナル・サステナブル( emotionally sustainable:人生の課題やストレスに対処しつつも、精神的・肉体的な健康を損なわずに、感情的な健康を維持・回復できる)」であり、何年も愛され続けると主張する。ある調査によると、ユニクロは競合他社に比べてはるかに少ないスタイルしか提供していないという。年間約 6,000 点で、これはザラの 9,000 点、シーイン( SHEIN )の 16 万 5,000 点より圧倒的に少ない。しかし、同社の継続的な拡大目標と持続可能性に向けた姿勢の間には根本的な矛盾がある。環境問題を引き起こすのはユニクロの商品の棚の数であり、商品の寿命ではないのである。

 ユニクロは、より多くの人がユニクロを着れば、より世界は良くなると主張する。同社は自社の服をライフウエア( LifeWear )と呼んでいる。「人々の生活をより良くする服( clothing that improves people’s lives )」、「私たちの世界と次世代をつなぐもの( a link between our world and the next generation )」、「芸術と科学が出会う場所( where art and science meet )」などの意味が込められている。ユニクロの多くの人が LifeWear のコンセプトを私に説明しようとしたのだが、説明を受ければ受けるほど、理解できなくなっていった。明らかになったのは、ユニクロは自社を衣料品会社であると同時に、マントラ( mantras )や公案( koans )に満ちたユートピア的価値観の流通システムであると考えているということである。柳井は私に語った。「ユニクロはすべての人のために作られている。だから、私たちは世界中のすべての人々にとって意味のある存在であり、愛される存在になるよう努めなければならない」。このブランドの普遍性は、同社が 99 ドルのカシミアセーターを通して世界を変えているという概念にいくらかの信憑性を与えている。ユニクロのグローバルクリエイティブ担当社長、ジョン・ジェイ( John Jay )は私に語った。「私たちはカーキ色のズボンやポロシャツを作っているだけの会社だと思われているが、私たちは革新的なブランドでもある」。