Car Wars
自動車貿易摩擦
Is China’s electric-vehicle industry a threat to the U.S., or something to learn from?
中国の電気自動車はアメリカにとって脅威なのか、それとも学ぶべき対象なのか?
By John Cassidy June 3, 2024
1.ジョー・バイデンは中国製 EV の関税を 4 倍に引き上げると宣言!
先月、ジョー・バイデン大統領は、中国製電気自動車に対する関税を 4 倍に引き上げると発表した。中国製電気自動車はアメリカで売られている電気自動車(以下、EV )より遥かに安い。しかし、バイデンは環境保護への取り組みを軽視しているとの批判にさらされた。民主党選出のコロラド州知事ジャレッド・ポリス( Jared Polis )は、この決定を「アメリカの消費者にとって恐ろしいニュースであり、クリーンエネルギー政策の大きな後退である」と批判した。ハーバード大学ケネディスクールで貿易を専門とするロバート・ローレンス( Robert Lawrence )は、ザ・ヒル紙( The Hill )に「バイデンが行ったことは、アメリカ経済の脱炭素化を阻害するもので、保護貿易主義をいたずらに強調するものである」と語った。
先日、私は大統領経済諮問委員会のメンバーであるヒーザー・ブーシー( Heather Boushey )と話す機会があった。彼女は、今回の措置はバイデン政権の気候変動に対する取り組みに沿ったものであると主張した。バイデン政権は、アメリカで 2035 年までに電力部門の炭素排出量をゼロにし、2050 年までに完全に排出量ゼロにするという目標を掲げている。それらを実現するため、バイデンは EV に関してさまざまな政策を導入してきた。EV 購入者の税額控除を拡大し、EV 製造メーカーに助成してきた。しかし、今回の中国製 EV とバッテリーの関税引き上げは、それらに逆行するような気がする。「これは産業戦略であると同時に、気候変動対策でもある。」とブーシーは言う。「国内産業を強固にし、最先端技術を生み出し続け、近い将来にクリーンエネルギーを実現するための必要な措置である」。彼女が指摘したのだが、中国は EV のバッテリーに使用されるグラファイトなどいくつかの重要な物質の独占体制を構築している。「 EV は重要な産業になりうるのわけで、政策的にこの産業を保護することの意義は大きい。」と彼女は言う。
関税を引き上げるタイミングを何時にするかでバイデンは悩んでいるかもしれない。大統領選の日程を睨んで、激戦州の有権者への良いアピールにしたいと考えている。中国に毅然とした態度をとり、アメリカの雇用を守っていることを訴えたい。国家経済会議委員長のラエル・ブレイナード( Lael Brainard )は記者団との電話会談で、「中国の不公正な慣行がミシガン州やペンシルベニア州のみならず全州の景気を悪化させている。」と述べた。しかし、関税を 4 倍にした背景に中国の EV メーカーの目覚ましい成長があることは間違いない。特に比亜迪( BYD )の成長は脅威である。中国だけでなく、ヨーロッパ、東南アジア、ラテンアメリカで安価な EV を売りまくっている。たとえばメキシコでは、BYD のドルフィン・ミニ( BYD Dolphin Mini )のハッチバックタイプは 2 万 1,000 ドル相当で売られている。ゼネラルモーターズがシボレー・ボルト( Chevy Bolt )の生産を中止したため、アメリカで購入可能な最も安価な EV は日産リーフ( Nissa Leaf )で価格は約 2 万 8,000 ドルである。航続距離は BYD よりも短い。アメリカでの EV の平均購入価格は 5 万 5,000 ドルである。現在でもテスラが EV 販売シェアの半分以上を占めている。テスラの最も安いモデルは約 4 万ドルである。
BYD はまだアメリカで EV を販売しておらず、計画もないという。同社は今年初めにメキシコにプラントを建設するための場所を探していると発表したが、それはメキシコの需要を満たすことだけが目的である。それでも、アメリカの多くの政治家や自動車メーカーは安価な中国製 EV を脅威に感じていて、いずれアメリカ中にそれがあふれかえるのではないかと憂慮している。内燃機関エンジンから EV への移行に多額を投資している多くの自動車メーカーは戦々恐々としている。「誰もが驚いていると思うが、BYD は一瞬にして一流企業にのし上がった。」とケース・ウェスタン・リザーブ大学( Case Western Reserve University )のエコノミスト、スーザン・ヘルパー( Susan Helper )は語った。上海蔚来汽車( Nio )や 小鵬汽車( Xpeng )など他の中国 EV メーカーもアメリカでの EV 販売に関心を示している。2 月に業界団体の米国製造業連合( Alliance for American Manufacturing )は、安価な中国製 EV の登場はアメリカの自動車メーカーに「絶滅レベルの事象」をもたらす可能性があると警告した。
連邦議会の一部の保護主義者は中国製 EV の輸入禁止を求めている。ドナルド・トランプがバイデンよりももっと高率の関税を中国製品に課すと宣言していることを考慮すると、アメリカですぐに安価な中国製 EV を購入できるようになる可能性は極めて低い。であるなら、アメリカ国内での EV 生産能力の増強を迅速に進めることがより一層重要になる。実質的にゼロから EV 産業を築き上げた中国から何を学ぶべきか考えることも重要である。