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インフレの高騰がバイデン政権が予想している以上に進み、長引いているため、サマーズは直近で書いたコラムにおいて、この問題をコントロールするためには、「FRBが金利を5%以上に急速に引き上げることが必要になるかもしれない。」と書いています。しかし、多くのエコノミストがそうした手段は現時点では非現実的であると認識しています。サマーズは、インフレ懸念を論じる際に、しばしば1972年に長期にわたって高いインフレ率が持続したことを例に挙げます。それで、FRBは同じことを繰り返さないために迅速かつ果断に行動する必要があると主張しています。サマーズはクラインに言いました、「私が一番言いたいことは、インフレは制御できるのに、なぜそれをしないのかということです。インフレ率をコントロールし続けるのか、それともインフレ率が予想以上に高まっても放置し続けるのか?」と。しかし、インフレ率制御に関するそうした議論は、これまでもさんざん論争を引き起こしてきました。カリフォルニア大学バークレー校の経済史家でクリントン政権で経済顧問を務めていたブラッド・デロングは、私に電子メールを送ってきたのですが、過去にアメリカで急激なインフレが発生した際に、1970年代のインフレ以外は短期間で収まったと指摘しています。1920年、1948年、1951年などの急激なインフレは短期間のものだったのです。たしかに1970年代の激しいインフレは長期にわたって続きました。しかし、それはとても珍しいことなのです。では、今回のインフレは短期で収束するのでしょうか、長期間続くのでしょうか?デロングは言いました、「予測はできません。1974年と同じように長く続くかもしれません。あるいは、短期で収束した1920年や1948年や1951年のようになるかもしれません。」と。デロングは、しばらくしてから再度メールを送ってきました。そこには、「サマーズは、非常に鋭い洞察力を持っていますが、常に正しいわけではありません。もし、FRB議長のジェローム・パウエルがサマーズが推奨するような施策を実施して、万が一それが上手くいかなかったら、米国経済は間違いなく大混乱に陥るでしょう。ですので、今の時点でパウエル議長は、急いで行動すべきではないのかもしれません。それで半年もすれば、状況がはっきりするでしょうから、それから行動しても十分有効な手が打てるはずです。」と記されていました。
サマーズを批判する者の中には、バイデンが実施しているアメリカン・レスキュー・プランによって、新型コロナの影響で困窮していた多くの一般の米国人に非常に明確で大きな恩恵がもたらされた点を軽視していることを非難する人もいるようです。クラウディア・サームは、言いました、「アメリカン・レスキュー・プランの目的は、困窮している家計を経済的に救済することでした。本当に多くの家計が助けられたと思います。」と。ホワイトハウス経済諮問委員会のメンバーである ジャレッド・バーンスタインも、アメリカン・レスキュー・プランの成果をインフレ率の観点だけから解釈することに異議を唱えています。バーンスタインは私に言いました、「子供の貧困が大きく減りましたし、立ち退き件数も減りました。労働市場もかつてないほど強力に回復したという事実も見る必要があります。アメリカン・レスキュー・プランが始められた頃、ワクチン2回接種率は1%未満でした。しかし、今では75%以上の成人がワクチンの2回接種を済ませています。失業率も今よりずっと高くなると予測されていました。アメリカン・レスキュー・プランの影響を、インフレ率という一つの指標だけで評価していては、正しい分析はできないでしょう。」と。