ラリー・サマーズは天才?昨年始めの時点でインフレに陥る危険性を指摘していたのは彼だけ!でも、違うんです!

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 私は、サマーズに電話をして、いろいろと質問してみました。彼はちょうど外交問題評議会のオンラインイベントに参加し、ワシントン・ポスト紙に新しいコラムを寄稿したところでした。いつものように自分の意見を擁護する姿勢があからさまに見えました。彼は自分が受けていた批判、インフレ率が急上昇するというシナリオを予想を出しつつ他のシナリオの予測も出していたという批判を退けるべく、次のように述べました、「私は、単純に起こりうる2つの悪い可能性を説明しただけです。猛烈なインフレになる可能性がありましたし、市場が不安定になり景気が後退する可能性もありました。また、バイデン政権やFRBの思惑通りにことが運び、全てが上手くいく可能性があることも認識し説明していました。現時点では、全てが上手くいく可能性はかなり低くなったように見えます。悪い可能性の1つ、猛烈なインフレが現実となりつつあります。もう1つの悪い可能性である市場が混乱し景気が後退するという予測が現実となる可能性も高くなりつつあります。」と。

 サマーズは、バイデン大統領の景気刺激策によって過剰な需要が生み出されることがインフレ率の急上昇の主要因であるという主張を正当化するため、物価変動調整前の名目GDPが2021年に10%以上増えたことを指摘しました。彼は、「名目GDPが2桁の伸びを示した場合、生産能力に何らかの制限がある状況下では、過度にインフレが進行します。」と指摘しました。また、彼は、サンフランシスコ連銀の研究チームの研究論文に載っていた最近のOECD加盟諸国のインフレ率の実績を示した資料を見せてくれました。そこには、米国では景気刺激策によって2021年第4四半期に3.0ポイントほどインフレ率が押し上げられた可能性がある。」との指摘がありました。それが正しければ、2021年のインフレ率上昇の大部分はそれで説明がつきます。サンフランシスコ連銀の論文の結論は、サマーズの分析を正当化するものでした。

 サマーズがワシントンポスト紙に載せたコラムで、アメリカン・レスキュー・プランの支出予測額が過大に見積もられているとバイデン大統領側近が指摘していることについて質問したところ、彼は「そんな指摘があることは認識していない。」と言いました。彼は自分の記事に記していた数字を正当化すべく言いました、「1,500億ドルという数字は、全ての景気刺激策を含めた合計額を計算したものです。12月に可決された9,000億ドル規模の追加対策と、元々決まっていたアメリカン・レスキュー・プランの額を合わせて、1月あたりの額を算出すると1,500億ドルになる。2つを合わせると、経済刺激策としては前代未聞の規模のであることに疑いの余地はないでしょう。」と。また、サマーズは、「経済刺激策のほとんどは未だ実施されていないという指摘もあるようですが、もしそうならば、状況はもっと悪くなるということです。というのは、インフレが進んでいるのに、今後景気刺激策が実施されることになるからです。」と。産出量ギャップに関して話を聞くと、サマーズは、「インフレ率が大きく上昇し、国中で大規模な労働力不足が発生しているのです。そうした事実は、需要が潜在的産出量に対して非常に高かったことを示唆しているのです。それが私が強調したかったことです。」と述べていました。さらに、「認識していただきたいのは、マクロ経済政策では、需要と供給のバランスをとることが最も重要であるということです。もしインフレ率が急上昇しているのであれば、それは政策が誤っているということを意味しているのです。」と続けました。

 サマーズのあくまで自分の主張が正しいとする態度が、サマーズの批判者を苛立たせます。逆に、彼の崇拝者はそういうところが好きなようです。しかしながら、そうした態度ゆえに、サマーズの主張は世間で言われているよりも示唆に富んでいるのですが、それが見えにくくなっています。現時点では、ほとんどのエコノミストが、2021年にはメリカン・レスキュー・プランによって需要が急増し、それがインフレ率の急上昇と無関係では無いという点でサマーズに同意しています。SGHのエコノミストであるティム・デュイは言いました、「米国では、インフレ圧力が高まり、急激な賃金上昇が顕著でした。それらはディマンドプルインフレで典型的なものです。」と。サームも、バイデン政権の追加経済刺激策の一部がインフレ率をいくぶん押し上げたことは認めています。しかし、彼女が言っていたのですが、米国でインフレ率が急上昇した主因は新型コロナパンデミックによる経済の大混乱にあるのです。

 結局、今いちばん懸念されているのは、1970年代のようにインフレが長期間続いてしまうのではないかということです。サマーズは私に言いました、「1年前に、私が指摘したことはやはり正しかったようです。私は、状況がベトナム戦争に起因して物価が上昇した時と非常に似ていると指摘していました。当時は、超拡大財政政策が4年間続いたことによりインフレ率が1%から6%に上昇していました。ブラッド・デロングと大統領経済諮問委員会は、第二次世界大戦と朝鮮戦争の際にも景気刺激策を実施したがインフレは起こらなかったと主張しています。その時と同じで景気刺激策は問題ないと主張しています。本当にそうでしょうか?それらの時代は、価格統制がなされていて、現在とは全く状況が異なるのです。ですので、景気刺激策がインフレを引き起こさない保証はどこにもないのです。」と。

 サマーズは、ワシントンポストに寄稿した最新のコラムで、あらためて金利を大幅に引き上げるよう主張していました。彼は私に言いました、「1970年代にFRBが迅速に行動していれば、ボルカーFRB議長がとったような超金融引締策を導入する必要などなかったでしょうし、ボルカーショックも起こらなかったのです。現在、インフレの脅威が差し迫っていますので、迅速な行動が不可欠なのです。」と。来週には労働省から3月の消費者物価指数(CPI)が発表されるので、インフレに関する政策論争はますます激しくなるでしょう。しかし、結局のところ、民主党の政策担当者のサマーズに対する反感の多くは、政治的立場の違いによるところも大きいのです。多くの民主党員は、サマーズがバイデン大統領の政策がもたらした広範な利益(大統領就任1年目の記録的な雇用増加など)を過小評価していると考えているようです。そのことで、サマーズが共和党に与しているように見えて仕方がないのです。

 サマーズは言いました。「アメリカン・レスキュー・プランによる恩恵は、需要が増え景気が拡大することによってもたらされています。しかし、それはインフレを引き起こし、実質賃金の低下を招いています。いずれ、かなりの確率で不況に陥るという可能性を認識すべきです。」と。また、加えて「ビルド・バック・ベター・プランという長期的な素晴らしい計画があるのですが、アメリカン・レスキュー・プランのせいで割りを食っていて予算が付きにくくなってしまっています。また、カーター政権の終焉が暗示しているのですが、インフレは政権にとって重大な脅威であることを認識すべきです。」と。

 実際、ビルド・バック・ベタープランを阻んだのは強硬に反対した共和党とジョー・マンチン上院議員(民主党)なわけですが、もしアメリカン・レスキュー・プランの規模が小さかったならばマンチンは共和党と共に反対に回ることは無かったでしょう。バイデン大統領と民主党は、インフレ率急上昇で確実に大きな政治的ダメージを負っています。今後インフレ率が急上昇するか否かは現時点では見通せません。どう転ぶかによって、バイデン政権の景気刺激策の評価も変わるでしょうし、サマーズの主張への批判も変わるでしょう。

以上