大統領選の結果を大きく左右するアリゾナ州!前回は僅差でバイデンが制したが、今回は全く予想不可能!

2.アリゾナ州では大統領選当日に上院議員の補選もある

 ケネディとガバードの応援演説の前日、カリ・レイクはフェニックス郊外南東部のチャンドラー( Chandoler )にあるカントリーミュージックが流れるバーの外で行われた集会に登場した。空は暗くなり、空気には不思議なことにサラダドレッシングの匂いが混ざっていた。グッズを販売するテーブルには、レイクのポスターが山積みになっていた。ポスターは彼女の大写しの写真で、作業着を着て大槌を振り下ろしながら、たくましい腕を披露している。

 レイクはトランプ政権時に頭角を現した政治家の 1 人である。元ニュースキャスターで政治家に転じた人物である。既存メディアを憎んでいるようで、攻撃的な姿勢を貫き通している。彼女は各種メディアでのインタビューでも敵対的な姿勢を崩さない。2020 年に選挙が盗まれたという彼女の度重なる主張に人々が疑問を投げかけると、彼女は憐れむような表情を浮かべる。そして、なぜ選挙の公正さに関心がないのかと問いかける。根拠の薄い不正選挙糾弾戦術が意外にも共和党支持者には好評で、彼女は 2022 年の同州知事選の共和党予備選挙では、より保守的な対立候補を楽々と退けた。「マケインを支持するような古臭い共和党員はいないでしょ!」と、その年の選挙活動中に彼女は語った。「さんざん負け犬を輩出してきたアリゾナ州とはおさらばすべきである」。しかし、彼女のアプローチは、一般有権者にはあまり魅力的ではなかった。彼女は、スコッツデール( Scottsdale )のホテルを祝勝パーティのためにおさえていた。その会場には赤いカクテルドレスを着た女性が大勢集まり勝利の瞬間を待っていた。勝利を祝うために準備していたたくさんの風船は放たれなかった。民主党候補を打ち破ることはできなかった。レイクは敗北をなかなか認めたがらない。

 それから 2 年経った。レイクは何度も裁判所が不利な評決を下しているにもかかわらず、いまだに知事選の敗北を認めていない。チャンドラーの集会では、彼女の支持者の 1 人(男性)が、この結果は闇の国家の陰謀(  deep-state machinations )のせいに違いないと語っていた。「アリゾナ州は民主党寄りに変わった?私はそうは思わない」と彼は言った。「私はまだ民主党の集会を見たことがないし、民主党員が活動しているのを見たこともない。民主党支持者が大勢いるなんて信じられない」。

 確かに、ここのところ多くの民主党員が知事をはじめ様々な要職に就いているが、アリゾナ州は様々な指標に照らすと、依然として共和党優勢の州である。共和党支持の有権者が多いことに変わりはない。トランプは、移民と経済を最大の争点として掲げることが多いが、同州ではそれらは問題となっていない。一時期、フェニックスは全米のどの都市圏よりもインフレ率が高かった(ただし、インフレ率の低下も平均よりも急速であった)。それでもレイクは一貫してトランプ支持を明確に打ち出し続けているが、最近の世論調査では対立候補のガレゴに 7 ポイント以上の差をつけられている。彼女は、かつて非難していた穏健派共和党員を取り込もうと努力しているものの、それほど成功していない。今年初めにレイクは、ママベア( Mama Bear )仲間としてメーガン・マケイン( Meghan MaCain )に公然とアピールし、面会を求めた(ママベアとは、民主党の進歩性向の政策に反旗を翻す保守系ママのこと)。しかし、「ウザいんだよ、くそ女( NO PEACE, BITCH! )」とマケインの返事はつれないものだった。アリゾナ大学政治学研究所のサマラ・クラー( Samara Klar )教授と調査会社トゥルードット( Truedot )が実施した世論調査によると、トランプ支持者の 15% がレイクではなく民主党候補のガレゴに投票する見通しである。そうした投票行動の理由のほとんどは、「レイクだけは無理」というものである。

 当然のことかもしれないが、チャンドラーでのイベントはレイクのためというより、前大統領のための集会のように見えた。集会の冒頭には、トランプ政権下で移民・関税執行局( ICE )の長官代理を務め、強制送還の強力な推進者であったトム・ホーマン( Tom Homan )が登壇した。彼は、「私の生涯で最も偉大な大統領」とドナルド・トランプを称賛し、トランプが再選された暁には「この国がかつて経験したことのない規模の強制送還オペレーション」を実行すると約束した。その後、彼は誰のための選挙集会だったかを思い出したようであった。「上院を制さなければ、トランプ大統領も私も仕事がしにくい。カリ・レイクが同州で議席を獲得することは不可欠である」と彼は語った。彼は、トランプ大統領の選挙集会に出るためにフロリダに飛ぶので、すぐに出発しなければならないと言った。