大統領選の結果を大きく左右するアリゾナ州!前回は僅差でバイデンが制したが、今回は全く予想不可能!

3.アリゾナ州では大統領選当日に移民に関する住民投票もある

 2014 年に下院議員に当選したルーベン・ガレゴは、J.D.バンス( J. D. Vance )と表面的には似たような軌跡をたどってきた。ともに中西部(ガレゴの場合はシカゴ)の労働者階級の出であり、アイビーリーグで不安な経験をし(ガレゴは回顧録でハーバード大学で「燃え尽きた」と書いているが、後に学位を取得するために戻っている)、海兵隊に加わり(ガレゴの部隊の死傷者はイラクに派遣された中隊で最大であった)、そして最終的には政治家に転身している。下院議員を 5 期務めたガレゴは、実主義的で率直な進歩主義者としての地位を確立している。有権者とのつながりよりも官僚等の意向を重視しているとみられる場合には、出身政党である民主党を批判することもためらわない。アリゾナ大学政治学研究所のサマラ・クラーによれば、トランプ支持でありながらレイクよりも民主党候補のガレゴを好む有権者が多い理由は、ガレゴは 「欠点が少ない 」からだろうという。

 レイクの集会の翌日、ガレゴは自身が会員であるアメリカ在郷軍人会第 41 支部で演説を行った。41 支部は、既存の在郷軍人会では歓迎されないと感じていたラテン系帰還兵のために 1945 年に設立された。制服姿のラテン系退役軍人を讃える壁画が飾られていた。聴衆は多くはなかった。年配の退役軍人が中心であった。ガレゴがアメリカ国旗を背に演説するのを聞くために集まっていた。ガレゴの幼い息子も選挙活動に同行していたが、演壇にもたれかかってニンテンドースイッチを楽しんでいた。短かかったがガレゴの演説は地に足の着いたもので、超党派の愛国主義を強調していた。派兵先から戻った時に在郷軍人会のメンバーが彼を助けてくれたことに言及し、彼は声を詰まらせた。「戦場はとても辛いものでした。多くの戦友が亡くなりました。私は親友を失いました」と彼は言った。ガレゴの演説が山場を迎えた時、息子はスイッチから顔を上げた。ガレゴはスピーチの締めに入った。 「私はまだ海兵隊員であり、この国を愛している。この国のために戦う。すべての退役軍人に再びアメリカンドリームを生きるチャンスを与えるために戦う」。

 ガレゴは民主党支持者が多い選挙区で何度か下院議員選を戦って勝利している。いずれの選挙でも圧倒的な得票率であった。今回はアリゾナ州の上院議員選挙に出馬する。彼は進歩議員連盟( Congressional Progressive Caucus )をひっそりと脱退していた。今年の夏にはアリゾナ州最大の労働組合ともいえるアリゾナ警察協会( Arizona Police Association )が、トランプ支持を打ち出すとともに、ガレゴ支持も打ち出した。支持を受けた翌日、ガレゴは司法省に対し、フェニックス警察の過去の不正に対する連邦政府の捜査をこれ以上追及しないよう求めた。このことは、アリゾナ州の民主党支持層の中の進歩的な人たちには不評であった。(司法省は、ほぼ 3 年にわたって調査を実施し、6 月に報告書を公表し、同警察の「蔓延する欠陥」について詳述した。同警察は過剰な武力を行使し、危険な戦術に頼り、差別的な慣行を行っていた。)

 多くの同僚議員と同様にガレゴも移民問題では右寄りの主張に傾いている。彼は、新たな移民流入の制限を可能にする超党派の国境警備法案への支持を表明している(この法案はトランプの圧力により上院で否決された)。「アリゾナ州選出の民主党議員にとって、国境問題を取り上げることは票に繋がらない。というのは、この問題については共和党と民主党の間で差異が少ないからである」とクラーは言った。「誰もが国境問題に関心を持っているが、一方の政党がエキサイティングで斬新な解決策を示せるわけではない」。

 2010 年、アリゾナ州議会はアリゾナ州移民法( SB1070 )を可決した。この法律は、不法滞在の疑いがある者を拘束する広範な権限を州司法当局に与えるもので、当時は全米で最も厳しい移民法であると考えられていた。この法律の一部は最高裁によって無効とされたが、国境警備の強化を望む有権者は少なくない。「 SB1070 が制定されてからの 10 年間でアリゾナは変わってしまった」とガレゴは 2020 年にツイートした。アリゾナ州民は今年、間違いなくさらに極端な法案である議案 314 号について投票する機会を与えられるであろう。これは非常に過激な法案で、可​​決されれば、州当局は不法入国者の拘留、逮捕、強制送還を行う権限を得ることになる(テキサス州で同様の法案の発効が今年初めに阻止された。現在も法廷闘争が続いている)。

 おそらく今回の提案は、2010 年の法案よりも抵抗が少ないと思われる。民主党の有力議員で反対を表明した議員はほとんどおらず、アリゾナ州の共和党はこの法案が可決されると確信しており、この法案を通過させるための活動は何も行っていない。「人々は、本当に支援が必要な問題に焦点を合わせている。それが当然である」と、共和党選出のアリゾナ州下院議長のベン・トマ( Ben Toma )は AP 通信に語った。