新型コロナの景気への影響はいつまで続く?9月3日発表の雇用統計は市場予想を大きく下回るも心配は無用!

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It’s Still the Coronavirus Economy
新型コロナの景気への影響はまだ続いている

A disappointing jobs report shows that mass vaccination hasn’t yet broken the link between the pandemic and our economic fortunes.
発表された雇用統計は予想外の悪さでした。ワクチン接種が進んでいますが、まだまだ景気は新型コロナの影響から完全には脱していないようです

By John Cassidy

September 4, 2021

 今日は疫学的な話から始めたいと思います。タイムズ紙の報道によると、7月12日の米国の新型コロナの新規感染者数は35,383件とのことでした。それから1カ月後の8月12日の新規感染者数は、デルタ変異株が米国中で猛威を振るっており、138,709件まで増えました。経済的な観点から見ると、新規感染者数の急増は景気に大きな影響を与えます。労働省は8月の雇用者数(訳者注:非農業部門雇用者数(no farm payroll)のことと思われる)を発表しますが、何といっても8月は7月と比べると新規感染者数が4倍弱も増えていますので、その影響が注目されていました。

 しかし、ウォール街のほとんどのエコノミストは、5月にワクチン接種が無料となって多くの制限が撤廃されて以降は大幅に増加している雇用者数が大きな影響を受けることは無いだろうと推測していました。労働省が先月(8月)に発表した7月の非農業部門雇用者数は、94万3千人でした。ダウ・ジョーンズ社によると、9月1日時点の市場予想(マーケット・コンセンサス)では、金曜日(9月3日)の朝に発表される予定だった8月の非農業部門雇用者数は72万人でした。しかし、3日に労働省が発表した数値は23万5千人で、市場予想の3分の1未満にとどまりました。非農業部門雇用者数という指標は、標本調査ですので全数を調査せず一部対象者のみを調査してその結果から母集団を推定していますので、ある程度の誤差(サンプリングエラー:標本誤差)が出ます。また、月ごとに数値が非常に乱高下しやすい指標です。そういったことを差し引いても、市場予想を大きく裏切る悪い数字となりました。数字が悪かったのは、デルタ変異株の影響であるのは間違いないでしょう。

 リンク:ニューヨーカー誌の新型コロナ関連の過去の記事は全てこちらから読むことができます

 2月から7月にかけて、新型コロナの影響を受けやすいレジャー産業や接客業では、毎月約35万人の割合で雇用者数が増加しました。8月にはその勢いが完全に止まり、雇用者の増はありませんでした。芸術関係、興業関係、娯楽関係の分野では3万6千人の雇用が増えましたが、一方で、レストランやバーなど飲食業では4万2千人の雇用が減っています。そうした状況から推測すると、新型コロナの感染者数が急増している中で、外出を控える人が一定の割合でいるので、レストランやバーの経営者はある程度人員を減らさなければならなかったのでしょう。そうした状況であることは、レストラン等の予約サイト”OpenTable”のデータを見ても分かります。7月以降予約件数が大幅に落ち込んでいます。同様のことが小売業界でも起こったようです。直近の小売売上高(直近と言っても7月の実績ですが)は、大きく市場予想を下回りました。労働省の雇用統計によると、小売業の8月の雇用者数は2万9千人の減でした。特に食料品店や酒店の減が大きいようでした。

 雇用者数が増えていないわけですが、景気の腰折れ感が少し明確に出てきています。今年の初めには、ワクチン接種が進むのでパンデミックは収束し、景気への影響も無くなるだろうとの推測が広がっていました。しかし、少なくとも今までのところは推測どおりにはなっていません。米国労働省は家計簿と面接を組み合わせた生計費調査を行っていますが(雇用統計の一部として)、それによれば、勤務先が閉鎖や廃業したことにより働けなかったと言う人の数が、7月は520万人でしたが8月には560万人に急増しました。デルタ変異株が景気に影響を及ぼしていることを示す兆候は他にもあります。20歳以上の女性の労働参加率が、パンデミックが始まって数カ月で急落した後、ゆるやかな回復途上にあったのですが、先月8月には再び減少に転じました。

 良いニュースは無いのでしょうか?全く無いという者もいます。パンテオンマクロエコノミクス社のチーフエコノミストのイアン・シェファードソンは、今週末にクライアントに見通しを伝えていました。そこには、「9月も景気は引き続き弱い可能性があり、10月に回復するという見通しにも少し懐疑的にならざるを得ません。というのは、雇用者数は景気に先行する指標ですが、それがまだ回復しそうにないからです。」と記されていました。そうした悲観論が当たって、景気回復はまだまだ先になるかもしれません。しかし、そうした悲観論者がむしろ少数派です。米投資銀行ジェフリーズの2人のエコノミスト(アテナ・マーコウスカとトーマス・シモンズ)は、金曜日(9月3日)に悲観的でない見通しを発表しています。そこには、「8月の雇用統計は、雇用が急激に減速した4月の雇用統計を彷彿とさせるものでした。おそらく、5月に雇用者数が急増したように9月も求職者の急増が予想されるので、雇用者数は急速かつ大幅に回復する可能性が高いと推測されます。」と記されていました。(訳者注:米国では新型コロナ対策で9月6日まで失業給付の割増が為されており、低賃金で働くより失業給付を貰う方が収入が多くなるとして求職していない者が多かった。)

 確実に言えること2つです。1つは、6月~8月の3か月間の平均の非農業部門雇用者数(no farm payroll)は75万人と非常に底固いということです。もう1つは、8月の23万人という数字は非常に悪い数字だということです。とはいえ、23万人という数字は通常時であれば全く問題ない数字なのです。最も新型コロナの影響を受けやすい業界以外では、多くの企業や組織の採用意欲は引き続き旺盛です。8月には、サプライチェーンの問題があるにもかかわらず、自動車産業は2万4千人を新規雇用しました。建築業では1万9千人、IT関連では1万7千人、金融業では1万6千人を新規雇用しました。実際、8月の失業率は5.2%まで低下しており、これは昨年3月以降で最低の水準となりました。それらはすべて、景気の底が抜け落ちていないことを証明していると言っても過言ではありません。また、景気はパンデミックの初期に底を打った後、依然として漸進的な回復を続けています。実際、米国はGDPがパンデミック前のレベルまで既に回復している数少ない国の1つです。

 今後の重要な問題は、経済政策立案者が労働市場の減速にどのように反応するかということです。金融政策に関しては、FRB(連邦準備制度理事会)のジェローム・パウエル議長が先週のスピーチでパンデミックの開始以降継続している量的緩和の縮小(テーパリング)を検討していることを改めて示しました。パウエルやFRBの他の理事らは、8月の雇用統計が思いのほか悪かったので、年内に量的緩和を縮小(テーパリング)するか否か決定するのを先延ばししたようです。おそらく、10月初めに発表される9月の雇用統計を見てから判断するのでしょう。

 財政政策面では、バイデン政権と民主党は、9月6日で打ち切りとなる失業給付の割増を延長するか否かを議論しています。ワシントンポスト紙のジェフ・スタインは金曜日(9月3日)に報じたところによれば、バイデン政権ではこの問題について意見が分かれているとのことでした。一部の経済担当補佐官は、割増給付の打ち切りは何百万人もの失業者に深刻な危機をもたらすと懸念しています。しかし、バイデン大統領自身は打ち切る方向に傾いているようです。

 また、今回発表の雇用統計の数字が悪かったので、2つの経済対策法案に関する議会民主党内での議論にますます拍車がかかるでしょう。1つは、民主共和両党が共同で提出する法案でインフラ投資を増やすというものです。もう1つは、民主党独自の巨額の支出法案で、社会保障を充実させ、グリーンエネルギーを促進するというものです。民主党幹部は後者が法案審議を経て承認されることを目指しています。今週初め、ジョー・マンチン民主党上院議員は、民主党内で廃止論が高まったフィリバスター(議事妨害、上院で6割の賛成がないと法案審議が進まなくなる)の維持を主張して、多くの民衆党議員がそれに反発しました。雇用統計が発表された直後に、バイデン大統領は議会に早期に法案を審議して通過させることを求めました。彼は、就任以来7か月間でかつて無いほどの速さで矢継ぎ早に新型コロナ対策を実施してきたが、その勢いを落としてはいけないと言っていました。

 FRBがテーパリングに踏み切るか、議会で景気対策法案がどうなるのかといったことが判明するのは数週間後のことでしょう。雇用者数の伸びの鈍化は、まだまだ新型コロナの影響が続くことを暗示しているのかもしれません。思い起こせばパウエルが数週間前に「新型コロナのパンデミックは依然として経済活動に暗い影を落としています。非常に大きな影です。新型コロナとの戦いで、まだ勝利宣言を出すことはできません。」と言っていましたが、今にして思うと非常に先見の明があったと言えます。

以上