Japan’s Olympic-Sized Problem
東京オリンピックは開催できるのか?
The government’s inept response to the coronavirus pandemic has led to widespread discontent about hosting the Games.
新型コロナパンデミックに対する日本政府の不適切な対応によって、オリンピック開催に反対する気運が高まっている。
By Matt Alt May 16, 2021
日本は、かつてオリンピックに関して苦い思いをした経験があります。東京は西欧の国以外で初となる1940年の夏季オリンピックの開催権を獲得していましたが、1937年に日中戦争が勃発したことにより、組織委員会は苦労して獲得した開催権を返上することを余儀なくされ、開催地選考で次点となっていたヘルシンキが代替の開催地に決まりました(結局、第二次世界大戦の勃発により、1940年の夏季オリンピックは中止となりました)。その後1964年には東京で夏季オリンピックが開かれ、日本が戦後の復興をアピールする格好の機会となりました。日本が米国に降伏した数日後に、ダグラス・マッカーサー将軍は日本は「四流国家」の地位に落ちぶれたと発言しました。日本はそうした状況から復活した姿を披露しました。さて、現在、東京オリンピックは、再び開催が危ぶまれる状況に陥っています。今回の危機の原因は戦争でも地政学的リスクでもありません。日本の国民の中でオリンピックの中止を求める声が日増しに高まっていることが原因です。
オリンピック自体が問題になっているのではなく、開催に莫大な費用が掛かることが問題とされ、中止を求める声が高まっています。先日、開催費用が15.4億ドルまで膨らむと発表されました。それは2013年の開催地選考レースの際に組織委員会が説明していた額の2倍です。1964年の東京オリンピックは復興の象徴でした。しかし、今回の東京オリンピックは、新型コロナパンデミックに対する日本政府の不適切な対応の象徴となってしまっています。
日本政府は海外の製薬企業から3億回分以上のワクチンを購入する契約を結んでいます。アジアの国では最大の量を調達する見込みです。しかし、現時点では、ロジスティックの不備、法規制の問題(ワクチン承認の遅れ)、接種するための人的資源の不足などが相まって、国民の大部分はワクチンを接種さけていません。最前線で働く医療従事者に対する予防接種は2月に開始されました。その対象者は全国で約500万人ですが、2回接種が終わったのはまだ3分の1以下です。ようやく4月に65歳以上の高齢者が対象の大規模接種が始まりました。しかし、5月13日時点で、2回接種を受けた高齢者は45,000人(全員ファイザー社のワクチンを接種された)のみです。(厚生労働省の官僚的主義的な対応により、現在、日本で使用が承認されているワクチンはファイザー社のものだけです。)大都市を中心に感染状況は悪化しています。日本では、新型コロナによる死者数は2021年1月~4月の4か月間の方が、2020年1年間よりも多くなっています。死者数ではなく人口当たりの死者数を比較すると悲惨さが良く分かります。現在、大阪の死亡率はインドの死亡率を上回っています。そんな状況であるにもかかわらず、65歳未満の人のワクチン接種開始時期に関する公式なアナウンスは為されていません。そうした状況でしたので、菅義偉首相は、5月11日に終了する予定であった非常事態宣言を5月末まで延長しました。
そうした状況にもかかわらず菅首相がオリンピックの開催に意欲を見せていることに、日本中で不満の声が広まっています。オリンピックは元々は2020年の夏に開催予定でしたが、1年延期されました。3月に、非居住者の入国は制限されていましたが、日本政府は海外からの観客を入れないでオリンピックを開催する方向であると発表しました。菅首相は「安全・安心な大会が開催できるよう、全力を尽くすのが政府の責任だ」と述べましたが、国民の理解はあまり得られていないようです。菅首相は、オリンピックに参加する競技者とその関係者のためにワクチンを確保すると発表しましたが、ワクチン未接種の数千人の日本人ボランティアの安全性をおざなりにしているとして非難されることとなりました。4月には、鹿児島で聖火リレーの交通整理にあたっていた関係者6人が新型コロナに感染しました。(皮肉で残酷なことですが、6人の内の何人かは見物客に社会的距離を確保するよう促すプラカードを掲げていた際に感染してしまったのです。)それから、大会組織委員会が、医師と看護師のボランティアを数百人募集しましたが、いくつかの主要都市では医療機関が限界点に近づいていましたので、医療専門家から激しく非難されました。最新の世論調査にでは、オリンピックの中止もしくは再度延期した方が良いと考える人が大勢を占めています。オリンピックの中止を求めるオンライン上の署名活動が5月5日から始まり、14時点で35万を越えました。
菅首相は予防接種のペースを1日100万回まで増やすという構想をブチ上げましたが、具体的な計画については何も明確になっていません。1日100万回というのは単なる願望を口にしただけのようでした。最近行われた記者会見で、ワクチン接種推進担当大臣の河野太郎は各市町村のワクチン予約で電話が殺到して混乱していることを認めたが、苦情を申し出るのは控えて欲しいと言いました。
しかし、苦情は収まりませんでした。5月11日(火)、宝島社が、日経新聞、読売新聞、朝日新聞の3紙に2ページ見開きのカラー広告を出しました。その広告では、第二次世界大戦の敗色濃厚となった頃に学童がタケヤリを持って軍事教練に励んでいる白黒調の写真がベースになっていました。また、全体の構図としては、日本の国旗、日の丸のパロディーのつもりなのでしょうが、真ん中の赤い丸が、コロナウイルスを暗示する不気味な紅色の王冠(コロナ)様突起(スパイク)を持つ球体に変更されています。その広告のキャッチコピーは「ワクチンもない。クスリもない。タケヤリで戦えということか。このままじゃ、政治に殺される。」というものでした。
これまで、日本でオリンピックが中止になったのは1940年に開催予定だった東京オリンピックの1回だけです。しかし、日本の有名なアニメ映画では2回目のオリンピック中止が描かれていました。1988年の大友克洋監督のアニメ映画「アキラ」は同名の漫画シリーズが原作でしたが、第3次世界大戦後の2019年のネオ東京が舞台でした。きらびやかな未来的な超高層建物群が立ち並ぶ足元では、暴力がはびこる騒然とした状態が続いていました。市民は怯えながら生活しており、暴走族、軍、武装警察、反政府ゲリラ、金儲けしか考えていない政治家、カルト教団、軍によって開発された超能力者などによって騒乱状態が生み出されていました。クライマックスは、建設中のオリンピックスタジアムの場面でした。スタジアムの外の電光掲示板には、開会式まであと147日であることが表示されていいて、「オリンピック成功のため、みんなで力を合わせましょう!」という標語が掲げられていました。その標語の下には、「中止だ中止!」という落書きがありました。
この記事を書いている時点では、実際の東京オリンピック開催までの日数は147日よりはるかに少なくなっています。オリンピック開催日が近づくにつれて、映画「アキラ」の中でオリンピックの中止を求める声が大きくなったように、現実の世界でも中止を求めることが大きくなっています。日本のネチズンの間では、映画「アキラ」で描かれていた内容と、現実の世界で起こっていることが非常に似ていることが話題になっています。京都大学では、2020年2月に映画「アキラ」で見られた落書きと同じ語、「中止だ中止!」と書いた看板を掲げて東京オリンピック中止を訴える学生の姿がありました。それ以降、「中止だ中止!」という語は東京オリンピックの開催に反対する人たちの集会では良く使われるようになりました。今年の3月には新宿区でオリンピックの中止を訴える街頭デモが行われた際には、「中止だ中止!」という横断幕と、その英語版の「Just stop it!」という横断幕がありました。先日、5月9日には、国立競技場周辺で100人以上が参加して同じような横断幕を掲げたデモが行われました。
1960年から70年代初頭にかけて、日本では学生運動が盛んでしたが、横断幕等に洗練されたアニメやマンガを配したりして主義主張を伝わり易くしていました。ちょうど、その頃、アメリカでは若者がフォークロックを歌うことで反戦運動の精神をアピールしていました。過去何十年も、アニメや漫画を抗議活動に利用するというのは日本だけに見られる現象でした。しかし、アニメや漫画がサブカルチャーから、日本の主要な輸出コンテンツに成長するにつれて、そうした現象が海外でも見られるようになりました。近年、政治的に虐げられている人たちが抗議活動を行う際にアニメのキャラクターを描いて掲げているのを目にすることがあります。ドナルド・トランプの支持者はツイッターでは少女のキャラクターが描かれていましたし、香港の抗議活動ではアニメ「ワンピース」の一コマを元ネタであるイラストが掲げられていました。タイのバンコクでの反政府デモではアニメ「とっとこハム太郎」のハム太郎がシンボルとなっていて、デモ行進の際には、主題歌の替え歌が歌われていました(訳者注:「大好きなのはひまわりの種」という原曲の歌詞を「大好きなのは納税者のお金」に変えていた)。
映画「アキラ」のクライマックスでは、主人公の金田と敵役の鉄雄(最後は膨張して巨大なアメーバのような生物なってしまう)がオリンピックスタジアムを破壊してしまいます。ネオ東京では市民が街頭で暴徒と化し混迷が続きます。現在の東京では、映画の世界と違って、混沌とした状況に陥っているわけではありませんし、混乱が拡大し続けるような兆候もありません。抗議活動は秩序を守って行われており、オリンピックの中止を訴えることに集中しています。オリンピックの中止を求める活動が、あらぬ方向に逸脱して国粋主義や外国人排斥運動と結びつくというようなことも起こっていません。しかし、新型コロナに対する政府の対応については、多く人が不満を持っています。有名人で政府の対応を批判する人も出始めました。テニスの大坂なおみ選手は、「人々を危険にさらし、人々を非常に不安にさせるのであれば、オリンピックの中止も検討すべきだ」と語りました。日本のeコマースの最大手の楽天のCEOは、CNNのインタビューで率直な意見を述べ、オリンピックを開催するのは自殺行為だと言いました。東京オリンピックは予定通り今年の夏に開催されるのか、それとも1940年の幻のオリンピックと同じ運命をたどるのか、現時点では見通せない状況です。しかし、もしも現実に開催されるとしたら、映画「アキラ」ではオリンピックが開催されませんせしたので、この点では違う結果になったということです。もし開始されれば、政治家以外誰も開催を望んでいないオリンピックが行われている最中に、日本では多くの人たちが変異したウイルスと戦うことを余儀なくされるでしょう。
以上
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