Jerome Powell Races to Catch Up with Inflation
ジェローム・パウエルはインフレ抑制に奮闘中
In announcing a big rate rise, the Fed chief conceded that the challenge of arresting rising prices without causing a recession is getting harder.
大幅な利上げを発表するにあたり、FRBの首脳は、景気後退を引き起こさずにインフレを阻止するという課題がますます難しくなっていることを認めました。
By John Cassidy June 15, 2022
先週金曜日(6月10日)の労働省の発表によれば、 5 月までの 12 ヶ月間の消費者物価の上昇率は 8.6%でした。その数値は市場予測を上回るもので、市場に動揺が広がりました。パウエル議長率いるFRBは、そうした数値を受けて事前に示唆していた利上げペースを上回るという強硬策を取らざるを得なくなりました。水曜日(6月15日)に、FRBはFFレートを0.75%引き上げました。075%の引き上げ幅は、過去30年間で最大のものです。パウエル議長は記者会見で、「特にインフレ予測の上昇が顕著だったため、強力なアクションをとることが正当化されると判断した。」と説明しました。
パウエル議長は、次回7月のFRB政策決定会合でさらに金利を0.75%引き上げる可能性を示唆しました。また、政策決定会合に出席した理事らは、今年末と来年末のFF金利の見通しを、それぞれ3.4%と3.8%に引き上げました。パウエル議長は、「継続的に利上げを実施することが適切であると考える。」と述べました。
昨年12月にFRBは、新型コロナパンデミックが始まった際にほぼゼロだったFFレートが2022年末には0.9%になるとの見通しを立てていました。しかし、ロシアがウクライナに侵攻し、エネルギー価格が高騰した3月に、その見通しを1.9%と大幅に変更せざるを得なくなっていました。それが、今回、さらに1.5ポイント引き上げられたのです。
金融政策というのはコロコロと変えて良いものではないので、FFレートの見通しが素早く大きく変動することは非常に稀なことです。ですので、FFレートの見通しが大きく修正されたということは、非常に大きな調整であるということを意味しています。また、パウエル議長は、直近で高いインフレ率が示されたことによってFRBが即座の対応を迫られたという事実を隠そうとしませんでした。彼は記者の質問に答えて言いました、「今回発表されたCPIでは、少なくともインフレがピークアウトしつつある明確な兆候が見られるだろうと期待していました。」と。また、別の記者からの質問には、「ここ4、5ヶ月で明らかに環境は厳しくなっています。それゆえ、FRBはしかるべき政策を実施せざるを得なくなったのです。」と答えました。
パウエル議長は、2018年にドナルド・トランプによってFRB議長に任命されました。共和党主流派に近く、元々は裕福な弁護士であり、投資銀行家でした。彼は重い責務に必死に取り組んでいます。パウエルは不労所得者層(rentier class)の出身であるにもかかわらず、雇用の最大化と物価の安定というFRBの2つの使命に本当に真剣に取り組んできました。彼が記者会見で言っていたのは、FRBの目標は労働市場を新型コロナのパンデミックが始まる前の状況に戻すことであるということでした。パンデミックが始まる前は、失業率がかつてないほどの低水準で、インフレ率も今よりはるかに低く、低所得労働者の賃金が数十年ぶりの大幅な上昇を記録していました。彼は、「我々はそこに戻りたいのです。」と言いました。
昨年インフレ率が上昇し始めた時、パウエル議長は、物価上昇を「一過性のもの(transitory)」と表現して、FRBに金融緩和を求める一部の人々(ラリー・サマーズ)の主張に抵抗していました。しかし、昨年末ごろから、パウエルは「一過性のもの」という表現を用いなくなりました。状況が大きく変わってしまったからです。オミクロン変異株の感染拡大があり、プーチンがウクライナに侵攻し、中国では上海等でロックダウンが行われました。いずれも経済に大打撃を与え、インフレ率を大きく押し上げるものでした。今から考えてみると、FRBはもっと早期に金利を引き上げるべきだったのかもしれません。たしかに、そうした批判が巷には渦巻いています。しかし、インフレは世界規模の問題ですので、FRBがもっと早期に政策を転換していたとしても効果は限定的だったのではないでしょうか。直近のインフレ率は、ユーロ圏では8.1%、英国では7.8%まで上昇しています。
いずれにせよ、現時点で一番関心が持たれているのは、FRBが以前の予想よりも速いペースで利上げを行い、景気を完全に後退させることなくインフレ率を低下させることができるか否かということです。日曜日(6月12日)に公表されたフィナンシャル・タイムズとシカゴ大学が行った最新の調査によると、回答のあった大学等に属しているエコノミストの3分の2以上がパウエル議長はそれを成し遂げられないだろうと予想し、来年から景気後退が始まると予測しています。
しかしながら、過去のそうした調査の結果を見る限り、大学等に属しているエコノミストの予測は必ずしもFRBの予測よりも優れているわけではありません。パウエル議長は、景気をソフトランディングさせることは必ずしも実現不可能ではないと主張しています。先月(5月)の小売売上高がわずかながら減少に転じたという発表があったわけですが、パウエル議長は、全体的な消費は依然好調であり、経済がより大きく減速する兆候はまだ見られないと述べています。FRBの最新の予測では、GDP成長率は大きく鈍化するとされています。2021年の年率5.7%から、今年は1.7%、来年も同程度と予測されています。また、失業率も悪化が見込まれています。現在3.6%ですが、2023年第4四半期には3.9%まで上昇すると予測されています。しかし、同時期までにはFRBが最も気にしている指標であるインフレ率は急激に下がり、2.6%まで低下すると予測されています。
現在の状況を踏まえると、2023年第4四半期にそのような数値になったとすれば、パウエル議長は経済運営に成功したと胸を張って良いでしょう。また、彼が先月から好んで用いるようになった「景気のソフトランディング」に成功したと誇って良いでしょう。「決して簡単ではないものの、ソフトランディングさせることは不可能ではありません。ただ、さまざま外的要因によって、より困難になりつつあります。」 と、彼は言っています。その言葉には、外部要因に責任を転嫁して自分への批判をかわしたいという意図が透けて見えなくもありません。しかし、決して嘘を言っているわけではありません。FRBの舵取りが上手くいくことを祈るしかありません。♦
以上
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