Joe Biden’s Big Month
ジョー・バイデンのビッグ・マンス
The President is getting things done and reaffirming that his historic role is to defeat Trump and Trumpism.
バイデン大統領は精力的に業務をこなしています。彼は、自身の歴史的な役割は、トランプとトランピズム(トランプ主義)を打破することであることを再確認しています。
By John Cassidy August 30, 2022
アメリカの政治の世界では、8月は「愚かな季節」と呼ばれています。選挙で選ばれた指導者も有権者も休暇に入ります。それで、些細な話題が大々的なニュースになったりする傾向があります。しかし、今年は違うようです。特にジョー・バイデンに限っては、そうしたことはなさそうです。木曜日(9月1日)にフィラデルフィアでプライムタイムに行う演説を控えた79歳のバイデン大統領は、間違いなく大統領就任後で最高の月を楽しんでいます。7 月末以来、彼は 3 つの重要な法案に署名しました。また、ニューヨーク州の中間選挙の前哨戦となる下院議員選挙では民主党が接戦を制しました。なにより、宿敵であるドナルド・トランプがまたしても法的な問題を抱えて窮地に陥ったことで、バイデンは高笑いしているのではないでしょうか。先週、バイデン大統領は、ホワイトハウスから出る際に、記者団に向かって、「私は世界中のあらゆる機密文書に関して機密指定を解除しました。私は大統領だから、何でもできるんですよ!」と冗談を言っていました。
バイデン大統領は、火曜日(8月30日)に、ペンシルベニア州ウィルクス・バリ(Wilkes-Barre)を訪れ、「セイファー・アメリカ・プラン」(Safer America Plan)を宣伝しました。このプランでは、連邦政府が新たに資金を提供することを約束しています。資金は、治安維持のために警察官をさらに10万人雇用し、犯罪防止とメンタルヘルス対策に使われます。バイデン対統領は、ここ12カ月間はじりじりと支持率が下がるつらい時期を耐えてきたわけですが、ついに笑顔になる理由を手に入れることができました。2021年7月21日から2022年7月21日の間に、ファイブ・サーティー・エイト(FiveThirtyEight:世論調査の分析、政治、経済、スポーツブログを中心としたウェブサイト)が行った世論調査によると、バイデン大統領の支持率は52.1%から37.5%に急落していました。あまりの低支持率に、一部の政治評論家は彼を見限るようになっていました。しかし、バイデン大統領の支持率は先月(7月)に底をついてからは、5ポイントも上昇しています。火曜日(8月30日)の午後の時点では、42.4%まで持ち直しています。その数値は決して素晴らしいものとは言えないわけですが、中間選挙を控えた大統領と民主党は、支持率の低迷に歯止めがかかったことを心強く思っているのではないでしょうか。
多少なりとも風向きが変わった要因は、3つあります。それは、インフレ率が多少改善したこと、バイデン政権が議会民主党と協力していくつかの法案を成立させたこと、トランプ前大統領の邸宅(マー・ア・ラーゴ)でFBI(連邦捜査局)が機密文章を押収したことです。機密文書が押収されたことで、有権者は民主党政権が共和党に取って代わられた場合には、好ましくない状況に陥る可能性が高いと認識したのではないでしょうか。バイデン大統領は、木曜日(9月1日)に予定している演説では、おそらくその点を強調するでしょう。ホワイトハウスによれば、バイデン大統領は演説で、2020年の大統領選の際に掲げた「米国の魂のための闘い(the continued battle for the soul of the nation)」というテーマで語る予定とのことです。
3つの要因の中では、インフレ率が改善したことの影響が一番大きいでしょう。USAトゥデイ(USA Today)紙とイプソス(Ipsos:パリに本社を置く世界第3位の多国籍市場調査コンサルティング会社)が共同で実施した直近の世論調査では、多くの有権者が物価の上昇がアメリカが直面している最大の問題であると考えていることが確認されています。バイデン大統領にとっては、12カ月間連続で支持率が下がるという悪夢のような1年を過ごしたわけですが、その期間には、インフレ率は上昇し続け、特にエネルギー価格は急激に上昇していました。しかし、6月中旬以降、AAA(アメリカ自動車協会)の調査によれば、ガソリン価格の全国平均値は1ガロン5ドル以上から3ドル85セントまで下がりました。7月のインフレ率も8.5%と非常に高い水準にとどまっているものの、前月よりは少し下がりました。
ガソリン価格が直近で下落しているのはバイデン大統領のおかげではないわけですが、同様に上昇していたのも彼のせいではありません。価格下落の最大の要因は、世界規模で需要が予想を下回ったことによります。しかし、戦略石油備蓄(Strategic Petroleum Reserve)の大量放出を命じ、連邦ガソリン税の停止を要求し(議会の理解は得られていない)、インフレ抑制のためのFRBの取り組みを支持すると表明するなど、バイデン大統領は矢継ぎ早に行動しました。アメリカ国民に、バイデン大統領の「やっている感」は、それなりに伝わっているのではないでしょうか。現在、バイデン大統領は、レイバー・デイ(9月5日月曜日)後にガソリン価格がどうなるのかを、はらはらしながら見守っていることでしょう。
政治面でも、8月は、民主党の有権者や支持者は、それまでと違って暗い気持ちにならずに済みました。CBSニュースが行った最新の世論調査によると、バイデン大統領の仕事ぶりを高く評価する民主党議員の割合が、7月から8ポイント上昇していました。8月に入って直ぐに、上院民主党は、チャック・シューマー院内総務(Chuck Schumer)とジョー・マンチン議員(Joe Manchin)が、バイデン大統領が提案していたビルド・バック・ベター(Build Back Better)法案の骨子を実現すべく修正した法案であるインフレ抑制法案(Inflation Reduction Act of 2022)を可決しました。それだけでも非常に画期的なことだったのですが、その数日後には、バイデン大統領は、アメリカ国内での半導体製造を奨励する法案(the Chips and Science Act:通称CHIPS法)を成立させました。また、間を空けずに、軍事基地で有毒ガスにさらされた退役軍人への医療給付を拡大する「バーンピット」法案(”burn pits” act)も成立させました。いずれの法案も共和党と民主党の双方の議員が支持していました。さらに先週、バイデン大統領は行政権を行使して、学生ローンの返済の免除を発表しました。これは、一部の債務者は最大2万ドルの借金が帳消しになるというものです。
これらの政策を1つ1つ見ていくと効果が限定的であると思われる部分もありますし、一部の人のみが恩恵を受けるとして批判を受けている部分もあります。しかし、バイデン政権が矢継ぎ早に行動したことで、バイデン政権が多くのことを成し遂げようとしているという政治的メッセージが伝わってきます。インフレ抑制法案が可決された後、米国政府は気候変動の抑制に過去最大の投資を行うと決定しました。また、メディケア(Medicare:高齢者向け公的医療保険)が大手製薬会社と薬価を交渉できる新ルールを導入し、処方薬の価格を下げる取り組みも開始されました。購買力が大きいだけに成果が期待されますが、製薬業界の反発は激しく行方は見通せません。国内での半導体生産を奨励するCHIPS法は、アメリカのテクノロジー分野でのリーダーシップを取り戻すための取り組みです。そして、バイデン大統領が提案している学生ローンの免除が議会で承認されれば、かなり難易度が高いように思われますが、借金を帳消しにするという形で実施されるでしょう。ホワイトハウスの首席補佐官ロン・クレイン(Ron Klain)が最近のポリティコ(Politico:政治に特化したアメリカのメディア)のインタビューで言及した歴史的な比較のいくつかは正当化することができません。しかし、バイデン大統領はさまざまな実績を残しつつあるというクレインの主張は決して間違っていません。
そして、現在、バイデン大統領は、トランプへの攻撃を執拗に行っています。先月、私は昨年1月6日議会襲撃事件に関する公聴会は、トランプの熱烈な支持者の考えを変えさせるほどの効果はなかったと指摘しました。トランプ前大統領が自身の邸宅であるマー・ア・ラーゴに極秘資料をため込み、引き渡しを拒んでいたことが暴露されたことも、同様であると思います。リアル・クリア・ポリティクス(RealClearPolitics:政治ニュースサイトおよび世論調査データ収集サイト)の行った世論調査結果では、トランプ前大統領の支持率は40.8%で、過去18カ月間とほぼ同じです。トランプ前大統領には根強い支持者がいることが分かっているわけですが、彼に嫌悪を抱いている者も少なくないというのも事実です。さまざまな世論調査や2020年の選挙結果を見ると、トランプはもの凄い嫌われ者でもあります。ですので、バイデン政権と民主党がトランプを非難することに注力するのは当然のことなのです。中間選挙が行われる11月8日(火)までの間、それは続けられるでしょう。
先週、バイデン大統領は、メリーランド州での選挙資金集めのイベントにおいて、トランプ前大統領が掲げていたスローガン”MAGA”(Make America Great Again:米国を再び偉大に)について言及し、それは過激な政策であり、アメリカの民主主義への脅威であると指摘し、共和党の方向性を激しく批判していました。たしかに、共和党支持者の内のかなり多くの人がトランプのビッグ・ライ(BIg Lie:大嘘、トランプが大統領選で不正が行われたと主張していること)を信じていることを考慮すると、その批判は非常に真っ当なものだと思います。トランプは月曜日(8月29日)に、ビッグ・ライをまたしても懲りずに主張していました。おそらく、バイデン大統領は、木曜日(9月1日)の演説で、この話題についても触れるでしょう。バイデン大統領は、自分の歴史的な役割はトランプとトランプ主義(Trumpism)を打破することであると再認識し、情熱的にメッセージを伝えようとするでしょう。彼がフィラデルフィアの独立記念館(Philadelphia’s Independence Hall)の壇上に上がる時、カレンダーは8月から9月に変わっているわけですが、きっと9月も8月のような良い月になることを願っているでしょう。♦
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