夏休み Road Tripに出かけよう!風光明媚な景色に見えても、裏では環境破壊が進んでいることがある!

Road Trips    July 11 & 18, 2022 Issue

Mine Field 地雷原(隠れた危険の多い場所)

“We are in a moment when a scenic drive, a little road trip through a purportedly protected landscape, is still theoretically possible.
 現在、巷では、シニック・ドライブ(scenic drive)が流行っています。それは、自然が保護されている景色の良い道路をドライブすることです。たしかに、あちこちにシニック・ドライブにふさわしい道路があり、人間の手が入って自然が保護されている場所はいっぱいあります。

By Joy Williams  July 4, 2022

 私は2004年式のトヨタ・タンドラ(走行距離29万4,000マイル)を駆って、2匹のジャーマン・シェパードと一緒にアリゾナ州ツーソンとワイオミング州センテニアルの間を年に2回往復しています。以前はルート10 を走って、ニューメキシコ州のハッチまで行き、そこでルート25に入ってデンバーまで北上していました。それはとても楽しいドライブです。というのは、ボスケ・デル・アパッチ国立野生生物保護区に立ち寄ることができますし、その少し先にあるフクロウカフェ( Owl Café)で絶品のチリチーズフライを食べることができるからです。しかし、その前にトゥルース・オア・コンシクエンシーズ(Truth or Consequences)の町を通らなければなりません。その町は恐ろしいほど何も無い街でとても退屈です。また、殺風景なエレファント・ビュート貯水池(Elephant Butte Reservoir)も通らなければなりません。アルバカーキを過ぎると、サンタフェやタオスといった少しは楽しめる町もありましたが、その後はデンバーまでひたすら走り、さらに進んでルート80を横切って進み、いつもたくさんの巨大なトラックが風の中でもがきながら走っているワイオミング州の目的地一帯まで行くのです。このドライブは、片道で1,000マイル(1,600キロ)を少し超える程でした。。

 最近、私は別のルート(走行距離がわずかに短く、約950マイルほど)を使っています。ルート77号を北上し、グローブ(Globe)という町を抜けて、曲がりくねった壮大なソルト・リバー・キャニオン、ホワイト・マウンテン・アパッチ保護区を抜けて、とてもファンキーな町ホルブルック(Holbrook)に行きます。その町の主産業は今でも石材業です。さらに進み、ナバホ族とホピ族の居留地を抜けてユタ州に入り、コロラド・スプリングスへ向かいます。曲がりくねったコロラド川沿いも走ります。汽船を横目で見ながら美しいヤンパ・バレー(Yampa Valley)を通り、険しいラビットイヤー峠(Rabbit Ears Pass)を抜けて、美しいマキバドリ(Meadowlark)で有名なワイオミング州に入ります。

 途中で通過するアリゾナ州グローブは、鉱山の町です。スリーピングビューティー(Sleeping Beauty)という鉱山があります。文字通り山の心臓部が削り取られており、有毒な化学物質が流れ出た池が出来ていて、掘った後が階段状になっています。鉱山は景観的にも非常に醜いもので、環境破壊の記念碑のようです。ウィンケルマン(誰かの名前にちなんでいる)という町に通じるルート177を進むと、行く手に巨大な鉱山が立ちはだかります。グローブには2つの閉山した鉱山があります。それらは今でも人体や環境に有害な物質を吐き出し続けています。しかし、車で30分ほど南西に行くとスペリオール(Superior)の町外れで、大手鉱業会社のリオ・ティントとBHPの子会社であるレゾリューション・カッパー(Resolution Copper)社が、アリゾナで最も深く、世界最大級の銅鉱山を開発すべく、深さ7,000フィート(2,133メートル)の坑道を掘っています。そこは、トント国有林の中に位置していますので、60年以上にわたって鉱山開発が禁止されていました。その植生が文化的に重要で環境面からみても重要であると認識されてきたからです。野生生物の宝庫でしたし、樫の巨樹が沢山あり、聖なる川があり、アパッチ族(チチ族)にとっては神聖な場所でした。チチ族は、そのあたりをChi’chil Biłdagoteel(英語では、オークフラット”Oak Flat”)と呼んでいました。リオ・ティントは、何年も前からオークフラットで鉱山を開発したがっていたようです。レゾリューション・カッパー社がその権利を手に入れるために、議会でさまざまな働きかけをしていたようです。2014年に2名の上院議員(ジョン・マケインとジェフ・フレーク)が、通過確実の国防法案にミッドナイト・ライダー(midnight rider)を滑り込ませました。後に判明したのですが、ミッドナイト・ライダーは、先住民の土地と権利を奪うのに極めて有効な策略でした。それによって、レゾリューション・カッパー社はアリゾナ州のあちこちに分散して所有していた5千エーカーの土地を手放し、代わりにオークフラット周辺の2千4百エーカーの土地を得ることを認められたのです。

 現在、巷では、シニック・ドライブ(scenic drive)が流行っています。それは、自然が保護されている景色の良い道路をドライブすることです。たしかに、あちこちにシニック・ドライブにふさわしい道路があり、人間の手が入って自然が保護されている場所はいっぱいあります。しかし、自然の中をドライブしていると、そもそも人間が自然を保護したり守ったりすることは無理だということを明確に認識できます。私たち人間には、子どもたちを守ったり、地球環境を守ったり、聖なるものを守り尊ぶという本能があるとされています。でも、実際には、人間は無力で何一つ守ることができないのです。ツーソン周辺のソノラ砂漠(Sonoran Desert)の象徴であったサグアロ(単型のカルネギア属の木のようなサボテン種)は、今年はほとんど花を咲かせませんでした。ストレスと持続的な干ばつの影響であると推測されています。2021年6月のテレグラフ・ファイア(スーペリア付近で発生した山火事。180,757エーカー(73,150 ヘクタール)が燃えた)では、グローブ周辺の深い原野の多くが焦土と化したのですが、発火の原因は戦闘機が模擬空戦の際にフレア(発光弾:赤外線ホーミング誘導ミサイルから航空機を防護する重要な手段)を投下したことにあると推測されています。オークフラットは国家歴史登録財 (National Register of Historic Places)に指定されていますが、銅鉱山で採掘が始まればそれは破壊されてしまうでしょう。1万6千エーカーの原野に、10億5千トンの有毒廃棄物が投棄される予定です。アパッチ族や環境保護団体による長年の抵抗と訴訟にもかかわらず(裁判は未だ結審していないにもかかわらず)、2013年にレゾリューション・コッパー社は杭を打ち始めました。その杭は地下水脈を貫通したようです。現在、1分間に500ガロンのペースで水が流出していると推測されています。アリゾナ州は米国で最も乾燥した州の1つですから、帯水層に壊滅的な影響を及ぼしているでしょう。銅鉱山の操業はまだ何年も先のことですが、既にオークフラットには巨大な重機がいくつもそびえ立っています。それらは、この先に待っている自然破壊の甚大さを暗示しているようです。

 ドライブ旅行は楽しいものです。風景を見て感動することもあれば、違う感情を持つこともあります。自然環境に危機が迫っているのを目にすると、普通の人は、雄大な自然が失われることを嘆くでしょう。より自然の重要さを認識するでしょうし、何とかして自然を守る方策は無いのかと悩んだり考えたりするでしょう。

 自然の中をドライブして気分転換したいと思う方、あるいは、自然環境が破壊されていることを嘆いていて現地を見てみたいと思っている方、私が年に2回往復するルートの付近で宿泊する場所をお探しの方がおられましたら、おすすめしたい宿があります。それは、ユタ州ブラフ(Bluff)にあるこぎれいなリキャプチャー・ロッジ(Recapture Lodge)です。また、ワイオミング州ララミーにあるベジタリアンレストランのスウィート・メリッサ(Sweet Melissa)とそこに付属するバーのフロント・ストリート・タバーン(Front Street Tavern)もお勧めです。♦

以上