ネットリンチ!拡散中に怒りが増幅される!
public shaming(つるし上げ)は、大昔は広場等公共の場所で行われていました。19世紀には、新聞に場所が移りました。20世紀にはテレビの討論会で為されるようになしました。今日では、ネット上で為されています。ネットは、匿名で意見を表明することが出来て、見張りもいません。ですから、ちょっとした中傷があっという間に拡散して人々の怒りが増幅させることがあります。以前は、ブログが自分のことについて書くツールでいたが、今ではソーシャルメディアの投稿に取って代わられました。ソーシャルメディアでは、刺激的な攻撃(非難)するような内容が人気を博します。
ネット上でのつるし上げ、ネットリンチは、しばしば正しい内容ではないこともありますが、驚くべきスピードで圧倒的な規模の結果をもたらします。そうした結果を得るためには、ネット上で誰かを非難する際に、正しい方法でしなければならないというようなことはありません。そうしたことは、自分が誤解されていると感じられる状況の時に起こります。2015年、オーストラリアでのことですが、ショッピングセンターでとある男性がダースベイダーのポスターの前で自撮り写真を撮り、それを息子たちに送信しました。近くに立っていた女性は、自分の娘たちの写真を撮ったと勘違いし、その男性は性犯罪者に違いないと判断しました。彼女はその男性の写真を撮り、フェイスブック上に投稿し、「こいつは化け物です」という警告文を付けました。その投稿は2万回もシェアされました。男性は妻から、ネット上に彼の画像が出回っており小児性愛者として非難されていることを知らされました。それですぐに警察署に行って汚名が拡がらないようにしようとしました。しかし、時すでに遅しでした。男性の素性はすでにネット上で特定されていました。彼には殺害予告が届きました。後に彼が非難されているのが誤解に基づくものだったと判明しました。それで、こんどは女性(誤解した)の方に殺害予告が届くようになりました。
今年の初め、シンガポールが封鎖されていた時、1人の女性が屋台で注文する際にマスクの着用することを拒否しているところをスマホで動画撮影されました。その動画は拡散され、ネット上で多くのコメンターがその女性を特定する際に間違いを犯しました。ハイテク企業の最高経営責任者であるとツヒナ・シンだと誤認してしまいました。ネット上ではシンのEメールアドレスや電話番号が晒されました。彼女は、非難され攻撃されました。それは、シンガポール当局が動画に写っていた女性はパラミート・カーであることを明らかにするまで続きました。ソーシャルメディアのユーザーは、今度は、カーを非難し始めました。「コロナを恐れぬクソおんな」と罵りました。
ネットリンチを擁護する人もいます。不正を行った者の社会的地位が高い場合、ツイッターなどのフォーラムでは、色々な不満が投稿されます。それは、いじめというよりは、皆で連帯して自分たちより力のある者に対して抵抗しているように見えます。たとえば、#MeToo運動が良い例です。不適切な行動をとった多くの有名人、政治家、企業経営者を暴露しています。同様の論理が働いているのが、警察官による不当な暴力を撮影して引き起こされたブラック・ライヴズ・マターに関する件です。ニューヨーク大学のジェニファー・ジャケ教授は、ネットリンチという抗議方法は、旧来の抗議活動の手法では上手くいかない場合においても成功する可能性があると言います。例えば、環境破壊の動画がネット上に拡散されたことによって、それが世界中で問題であると認識されるようになりました。多くの企業がより環境に優しい施策を採用することを余儀なくされました。ジェニファーは2015年に出版した本において、「誰かに非難されるかもしれないという可能性を感じるだけで、人は道を踏み外さないよう行動を慎みます。また人は誰しも恥ずかしいという感情を持っているので、行動を自制し、罰せられるような極端な行動はとらないのです」と主張しています。また、ジェニファーは、MSNBC(ニュース専門チャンネル)に次のように述べています、「新型コロナのパンデミックが発生してから、他人に非難されるかもしれない可能性はより大きくなっています。また、特定の個人の行動を批判するより、グループや組織や団体の行動を批判することが増えています。」と。
ネットリンチは、清教徒のさらし台(罪人に対する刑罰や被疑者への拷問に使われた足枷の付いた道具)に残酷さでは劣っているかもしれませんが、規模では圧倒的に勝っています。例えば、怒りの対象となっている者の名がツイッターでトレンドワードになったりしたら、毎秒何百件もの屈辱的なメッセージを受け取ることとなるでしょう。時として、ネット上での中傷や非難は行き過ぎてしまうことがあります。そして、中傷した者に虚しさが残ることも多々あることです。今年の春のことですが、クリスチャン・クーパー(ニューヨーク在住)という男性はセントラルパークへバードウォッチングに行き、犬に紐を付けていない女性に付けるよう依頼しました。それが拒否されたので、彼はその女性を動画撮影し始めました。それに反応して、その女性は警察に電話して、「アフリカ系アメリカ人の男に脅迫されている」と訴えました。クリスチャン・クーパーの妹がその一部始終の動画をツイッターに投稿しました。その犬連れの女性は、ネットリンチの対象としては最も適した素材であったと言えます。最もツイッターで盛り上がりやすいパターンに陥っていました。数百万人もの人がその動画を見ました。彼女はエイミー・クーパーという名前で、とある投資会社の役員でした。しかし、あまりにもこの件で名が知れてしまったため、解雇されました。エイミー・クーパーのふるまいは酷いものでしたが、クリスチャン・クーパーは彼女が受けた仕打ちのむごさを目の当たりにして少しショックを受けました。彼は、タイムズ紙に次のように述べています、「ただ人種差別的な言動が許容できなかっただけなんです。彼女の人生が無茶苦茶になってしまいましたが、それが必要なことであったか否かは僕にはわかりません。」と。