夏休み Road Trip!ウーウェム・アクパンの夜のドライブ!真夜中に警官に呼び止められ死を覚悟した!

Road Trips July 11 & 18, 2022 Issue 

Night Driving
夜のドライブ

“What if this strange officer who has refused to say why he stopped me shoots me? What if he says I jumped out and pursued him to the back to attack him?”
「この警官の心の中を読むのは難しい。なんで私の車を止めた理由を教えてくれないんだろう?ひょっとして、この警官はいきなり私を撃つつもりなのか?目撃者が居ないから、私が飛びかかったから仕方なく撃ったとでも言うつもりなのか?」

By Uwem Akpan   July 4, 2022

 月明かりの下、人っ子一人いない砂漠の中、はるか遠くの丘陵の向こうまで伸びているI-15(訳者注:州間高速道路15号線、interstate 15の略称、アメリカ合衆国西部を走る州間高速道路で、南カリフォルニアから山間地域西部を走っている)で車を転がすのはとても楽しいことでした。それは、2011年のことでした。夜が開ける前の真っ暗闇の中、私は執筆活動の息抜きのドライブ旅行から、シルバーのSaab(サーブ)SUVを駆ってラスベガスに戻る途中でした。当時、私は、ネバダ大学ラスベガス校のブラックマウンテンインスティテュートのフェローでした。夜のドライブが好きな人は誰でもそうだと思うのですが、私は、静寂の中でエンジンの音とタイヤが路面と接する音だけを耳にしながら運転していました。かつて住んでいたミシガン州や私が生まれたナイジェリア南部のアクワアイボム州の道路と比べるととても快適なドライブに思えました。あまりに快適なドライブだったので、インターステートを降りずにずっと運転し続けたいと思ったほどでした。

 気分よく運転していると、突然、バックミラーに警察車両がパトライトを光らせながら近づいてくるのが見えました。私の車の前方で緊急事態が起きたのだろうと推測しました。私は、右寄りの車線に車を寄せながら、スピードを落としました。しかし、カリフォルニア州かネバダ州のどこかだったと思うのですが、私は車を停めるよう命じられました。警察車両は私の車のすぐ後ろに停車しました。私は何で止められたのか分かりませんでした。逆らってはいけないと思い、運転席側の窓を開けて、室内灯を点けて、運転席でじっとして座っていました。窓から風が入ってきました。暖かく乾いた風でした。細かい砂を吹き付けられたような感じがしました。

 白人の警官が助手席側に現れて、窓をノックしました。私は、ちょっとびっくりしました。というのは、まさか、そちら側から誰かが来るとは思わなかったからです。光の当たり具合の関係だったと思うのですが、その姿は不気味に感じられました。まるで頭が2つあるかのように見えたのです。私は慌ててそちら側の窓を開け、彼に挨拶をしました。私が「お巡りさん、何か問題ありました?」と尋ねると、その警官は私の車をまじまじと見ながら、どこへ行くのかと聞いてきました。私は、「ベガスに帰るところです。」と答えました。

 その警官はしばらく黙っていました。それで、私は少し戸惑いました。私は、もう一度どうして車を停めさせたのかを聞くべきだったのだろうか?とか、それを聞いたことが間違いだったのだろうか?とか、いろいろと悩みました。私の口の中はカラカラに乾きました。それで、唾液を出すために自然と口の周りが動きました。その警官は、私の顔が不自然に動くのを快く思っていないのは確実でした。彼の顔がこわばったように思えました。私は「お巡りさん、免許証と車の登録証が必要だったら見せましょうか?」と言って、それらを彼に渡しました。彼は、それらを手にしてそこから居なくなりました。しばらく、私は砂漠の空を眺めていました。

彼がそれらの書類を私に返してくれたので、私は車を出そうとしました。

「登録証はミシガン州になっています。この車は、本当にあなたのものですか?」

「このSaabは私の車で間違いないですよ。私はミシガンに住んでいるんで、そこで登録したんですよ。」

「ベガスまでどうやって運んだの?」

「自分で運転してきました。」

「どれくらい時間かかった?」

「30時間」

「1人で?」

「そうですよ。」

「えっ、1人で?嘘でしょ。」

「途中、オマハとデンバーに泊まりましたよ。 一番の思い出は 、I -70を走っていた時のグレンウッドキャニオンへの急な下り坂ですね。素晴らしい景色で、アドレナリンが出っぱなしでしたよ。そうそう、Saabのクルーズコントロールが効かなくなったんですよ。私は、この国の大自然の中をドライブするのが大好きなんですよ。ミシガンに戻る時には、北上するルートでアイダホのコーダレーンを再訪しようと思っているんですよ。ノースダコタのファーゴにも寄ろうと思ってるんです…..」。

 私にとって車で長距離ドライブをすることは珍しいことではないということを説明していると、彼は遮って質問をしてきました、「ところで、あなたはベガスで何の仕事をしているの?」と。私は、「UNLV(ネバダ大学ラスベガス校)のフェローです。」と答えると、彼は、あまり興味が無さそうな感じに見えました。そして、あくびをして伸びをしました。彼が腰のベルトを直す時に、はっきりと拳銃が私の視界に入りました。車はほとんど走っていませんでしたから、私は撃たれるんじゃないかと思ってヒヤヒヤしていました。

 再び私が「何が問題ありました?」と聞いたところ、彼は「ちょっと車から出てもらって車の後ろまで来てもらっても良いですか?」と言いました。私は心臓の鼓動が高鳴り、指が震えたのですが、ハンドルを握ってじっとしていました。恐怖で私は席を立てなかったのです。

 私は、ふと思いました。この警官の心の中を読むのは難しいなと。なんで私の車を止めた理由を教えてくれないんだろう?ひょっとして、この警官はいきなり私を撃つつもりなのか?目撃者が居ないから、私が飛びかかったから仕方なく撃ったとでも言うつもりなのか?そうなったら、私の家族や友達の誰一人として真実を知ることはできません。そもそもアメリカでは黒人が警察に撃たれる事件が頻発していましたから、私は皆から夜間の運転は控えた方が良いと忠告されていたのです。私は、スティーブン・キングの小説「Desperation」(邦題:デスペレーション)を思い出しました。あらすじは、ネバダ州の寂れた鉱山町デスペレーションで何かに取り憑かれた保安官代理が次々に人を拉致監禁するというものです。中古のSaabに乗ってたから止められたのか?いや、そんなの全く違反でもなんでも無いはずだ。私にアメリカ中をドライブするのが好きだと言う話をさせておいて、なぜ途中で話を遮ったんだ?私は、彼の尋常とは思えない行動を思い出して不安を覚えました。彼は疲れているのか?シフトが無茶苦茶で激務続きなのか?それとも私を挑発しようとしているのか?

 彼は、私に、いつからネバダにいるのかと聞いてきました。私は、8月からだと答えました。彼は、免許証の書き換えが必要なのにしていないのは違反だと言いました。私は、大学でフェローをするのは9カ月間だけだから書き換えは必要ないと思っていたと説明しました。すると彼は言いました、「よし、ちょっとこの車の後ろまで来てくれないか。そこで説明するから。」と。

 私は、もし彼が銃を抜いたら、命をかけて戦わなければならないと思いました。絶対にやってやると自分に言い聞かせ、身構えました。私の決心は揺らぎませんでした。私は彼の後に付いて車の後ろに向かいましたが、一瞬も彼の動きを見逃さないように注視しながら歩きました。彼の体格は私とほぼ同じくらいでした。私のSaabのナンバープレートの真ん前で、彼は立ち止まりました。私はそのすぐ横で止まったのですが、彼の汗の匂いを嗅げるほど近くでした。彼は、ナンバープレートの周りのフレームを指差して、それがナンバープレートの文字を隠していると指摘しました。彼は言いました、「全く見えないわけじゃないんだけど、ちょっとだけ隠れちゃってるでしょ。」 と。

 フレームを取り外すことにすると、私は彼に約束しました。また、教えてくれたことに対してお礼を言いました。私は「お巡りさん、こんな暗い中で、ナンバープレートの小さな表示が見えないことに気付くなんて、本当に眼が良いんですね。」と言って作り笑いをしました。彼も作り笑いをしているように見えました。私たちは、それぞれ別の方向に歩き出しました。♦ 

以上