決して撤退しない! ニッキー・ヘイリーは、何を成し遂げようとしているのか?

第 4 章 サウスカロライナ州の共和党議員団はトランプ支持で固まる中、孤立無援の戦い

 ヘイリーは、サウスカロライナ州で下院議員を務めた後に知事になった。ヘイリーは、ティーパーティーや保守派からの支持が強いことで知られていた。サウスカロライナ州における彼女の選挙での勝利は、いずれも長丁場の選挙活動を戦い抜いた末に掴んだものである。楽な戦いは一度も無かった。彼女が最初に立候補したのは下院議員選挙だった。当時同州で最も長く下院議員を務めていた現職のラリー・クーン( Larry Koon )に挑んだ。選挙区にはキリスト教徒が多く、保守的な白人が多かった。クーンはヘイリーを出生名(二マラタ・ランザワ:Nimarata Randhawa )で呼んだ(トランプも全く同じことをしている)。クーンは、ヘイリーがシーク教徒であることを示すターバンを巻いた父親と一緒に写った写真の載ったビラをばら撒いた。ヘイリーは当選して初めて登院した際に、いい年した男性議員たちから除け者扱いされた。下院議員になって最初の数年、彼女は同州選出の共和党議員たちから再三にわたって嫌がらせを受けた。彼女はしばしば激しく抵抗した。彼女は同州選出下院議員に、採決等の際にどう投票したかを記録することを強制しようとした。同州選出の共和党下院議員にとっては不都合なので、彼らはヘイリーから委員会の任務を剥奪した。「彼女は建設的ではなかった。とにかく敵対的だった。」とトランプ寄りの保守戦略家フェルケルは言う。彼女はティーパーティーやマーク・サンフォード知事と同盟を結んだ。両者は、ともに同州共和党下院議員団の大部分と対立していた。

 サンフォードはヘイリーを自身の後継者に指名した。その後、彼の不倫騒動が勃発し、彼の政治生命は完全に絶たれてしまった。彼女は、後ろ盾を失い自分の政治生命も尽きたと思った。彼女の知名度は高くなかったし、資金が豊富なわけでもなかった。彼女はサンフォードを説得し、40 万ドルを提供してもらった。ミット・ロムニー( Mitt Romney )、サラ・ペイリン( Sarah Palin )、ティーパーティー( the Tea Party )からの支援を得て、彼女は知事選に勝利した。「彼女は知事に就任して以降も共和党議員団と対立したままであった。」とフェルケルは言う。知事就任後、彼女は既成概念にとらわれた者を片っ端から解雇した。彼女を支援してきた者もたくさん解雇された。彼女は全議員の投票行動を公開するようにした。「政治で重要なのは、今日の敵は明日の味方ということである。認識の違いを乗り越えて協力しなければ、何にも決められない。しかし、彼女はそれを全く理解していない。」とフェルケルは言う。

 サウスカロライナ州の共和党議員の多くは、彼女の無慈悲な性格と仕打ちを忘れていない。「私はいろんな人から『どうしてあなたはヘイリーを支持するのか?』と聞かれる。彼女は旧態依然の疲弊した仕組みをぶっ壊しただけで悪いことは何もしていない。」と、彼女を支持する唯一のサウスカロライナ州選出共和党下院議員のラルフ・ノーマン( Ralph Norman )は言う。もう 1 人支持者がいる。元サウスカロライナ州共和党トップのケイトン・ドーソン( Katon Dawson )は、ヘイリーが初めて選挙に出馬した時に会った時のことを鮮明に覚えているという。彼は、彼女を偏狭な同州共和党を改革できる人物で、同党の党勢拡大に寄与する人物であると確信したという。

 結局、トランプはティーパーティーを積極的に評価し、その支持を得ることに成功した。共和・民主両党の政争に不満を持つ者の多くが彼を支持している。2016 年のサウスカロライナ州の共和党予備選で、ヘイリーはマルコ・ルビオ( Marco Rubio )を支持すると表明した。その後も大統領選当日までトランプを非難し続けた。トランプは大統領選で勝利すると、同州のヘンリー・マクマスター( Henry McMaster )副知事を呼び出して、どんなポストに就きたいか尋ねた。マクマスターはサウスカロライナ州知事になりたいと答えた。彼の願いを叶えるため、トランプはヘイリーに国連大使のポジションを用意した。先日の同州コンウェイ( Conway )で開かれた党員集会で彼が語ったのだが、彼がヘイリーを国連大使に任命したのは適任だったからではないという。知事を辞めさせるために任命したのである。

 過去数年間、ヘイリーは自身の立ち位置をどうすべきかということを検討し続けてきた。また、トランプに対抗するにはどのようなイメージを醸し出すのが得策であるかということを考えてきた。前大統領との距離を絶妙に保つことによって、彼女は他の候補者が次々と撤退する中を生き残った。議会襲撃事件のあった 2021 年 1 月 6 日(日)の翌日、ヘイリーはRNC( Republican National Committee:共和党全国委員会)でスピーチを行い、トランプを非難した。その直後、彼女はトランプを友人だと考えているが、2 度と選挙に立候補することはないと確信していると語った。彼女は、トランプ後のことを考えていた。共和党の次世代のリーダーになることを望んでいた。彼女が党員集会でスピーチすることも少なくなかった。トランプのスピーチは準備不足が目立ったが、彼女のスピーチは上手かった。2016 年の大統領選キャンペーンの数カ月間で彼女の演説を聞く機会が私には何度かあった。トランプ支持者の関心が自身に向かうようにするために入念に練られたスピーチだった。おそらく、あの時の彼女は、将来自分がトランプと対決することになるとは予想していなかっただろう。

 現時点で、共和党候補者指名争いを勝ち残っているのはトランプとヘイリーである。2 人ともゴルフクラブに隣接した邸宅に住んでいる。ときどきヘイリーは優雅にゴルフを楽しむことで知られている。一方のトランプはゴルフをする素振りは一切見せず、工場労働者の代弁者になれるのは自分しかいないと主張している。下院議員に透明性を強要し、州議会議事堂から南軍旗を撤去するなどの功績によって、彼女の人気は全国的に高まっている。しかし、同州内の共和党議員の多くは彼女を疎ましく思っている。彼女は、アイオワ州やニューハンプシャー州では穏健派を演じるだろう。そうすれば支持政党を固定していない有権者にアピールすることができるだろう。しかし、サウスカロライナ州の民主党員の多くは、彼女を支持しないだろう。なぜなら、同州では彼女は超保守的なティーパーティーを潰した人物として記憶されているからである。ここ数カ月で彼女の地元である同州での好感度は大きく下がった。逆にトランプの好感度は上がっている。