決して撤退しない! ニッキー・ヘイリーは、何を成し遂げようとしているのか?

第 6 章 ヘイリーの支持は広がっておらず、状況は悪い

 日曜日( 2 月 18 日)、ヘイリーはロックヒル( Rock HIll )の結婚式場でイベントに参加した。家族連れで賑わっており、シャンデリアの下には多くの子供たちが集まり、競うようにヘイリーと写真を撮っていた。このイベントは、同州選出共和党下院議員でヘイリーの唯一の支持者であるノーマン下院議員を支援するものだった。ノーマンは、共和党内超保守の自由議連(フリーダム・コーカス)に名を連ねている。多くの民主党員も彼に声援を送っていた。分断を乗り越えて結束し、超党派で彼を応援しようという雰囲気で盛り上がっていた。集まった者の多くがヘイリーにも声をかけていた。「あきらめるな!( Don’t give up ! )」

 サウスカロライナ州は勝者総取りの州であるため、ヘイリーへの支持率が高まっても勝利できなければ代議員数を増やすことはできない。1980 年以降の( 2012 年を除く)共和党の大統領候補指名争いでは、サウスカロライナ州予備選で勝利した者がすべて勝利している。ヘイリーが選挙で勝利したのは 2014 年の同州知事選である。かなり時間が経っているし、すっかり時代は変わってしまった。トランプは 2016 年にサウスカロライナ州の予備選を制したが、当時、ヘイリーは、今と同じように彼を批判し、真実を有権者に伝えようと必死だった。サウスカロライナ州はアメリカで最も経済が成長している州である。人口も多く、年齢、人種等の構成を見ても、もっともアメリカらしい州でもある。同州で敗北すれば、今後の指名争いに立ち込める暗雲がより厚くなるだろう。ヘイリーを支持する有権者もいるが、この州の有権者の多くはトランプに心酔している。トランプは 8 年前も同州の予備選でジェブ・ブッシュ( Jeb Bush )やマルコ・ルビオ( Marco Rubio )に圧勝している。それでも、ヘイリーは献身的に指名争いを続けると表明している。同州でトランプの後塵を拝しても撤退しないつもりのようである。「我々はこの国で王を任命するのではない。我々には選挙がある。」と彼女は繰り返している。

 ロックヒルのホールで、私はウェイン( Wayne )と言う男性と話をした。ウェインはベトナム帰還兵で、引退を機に子供たちと暮らすために当地に越してきたばかりである。「父がこの会場に来たのは、民主主義を尊重したいからである。ヘイリーを支持しているわけではない。話をよく聞くことが重要だと考えている。」とウェインの娘が言った。「ヘイリーにこの国を立て直す力があるとは思えない。ただの操り人形だ。彼女はディープステート( deep-state )の言いなりである。」とウェインは言う。「トランプは現在の体制を打破すべく戦っている。私たちにできる唯一のことは、最終的に軍隊が出動してこの国をコントロールするのを待つことだけである。こんな状況で大統領に相応しいのは彼しかいない。これから何が起こるか。戒厳令に出るだろう。トランプがやろうとしているのは、ディープステートを一掃することである」。

 火曜日( 2 月 20 日)、ヘイリーは初めて、アフリカに派兵されている夫について言及した。その際、声が途切れ、一瞬泣く場面もあった。ヘイリーの広報担当責任者は、「私たちの大統領にふさわしい人物を見てください。本当に人間味に溢れるている。」とツイートした。インターネット上には、彼女が感情を爆発させた場面を分析する投稿が溢れた。2008 年、ヒラリー・クリントンがニューハンプシャー州の集会で誰に投票するか決めていない多数の有権者と話している際に涙を流したのだが、多くの人がうそ泣きと分析した。その場面を繰り返し見て分析した者は少なくなかった。ほとんどの有権者は、彼女は戦略として泣くふりをしたと思い込んでいた。今回、ヘイリーが涙を見せたのも同じ戦略なのかもしれない。バイデンやトランプと大統領の座を争っているが、最後のあがきなのかもしれない。あの涙で有権者を感動させたかったのかもしれない。「私自身の政治生命がどうなろうと、まったく関係ない。」と彼女は訴えた。

 ヘイリーはうそ泣きしただけではない。普通に演説した。識字率の低さが問題であること等に言及し、アメリカを正常な状態に戻すべきであると論じた。その頃、近くの空港には数百人の熱狂的なトランプ支持者が集まっていた。専用機(トランプ・フォース・ワン)でやってくるトランプを出迎えるためであった。彼はローラ・イングラハム( Laura Ingraham:トランプ支持の TV 司会者)を伴って集会を行うため、グリーンビルの会場に向かった。ヘイリーのロックヒルのイベントに 1 人で来ていた電気技師のジェシ・アブシャー( Jesse Absher )は、妻や親や子供はすべてトランプ支持であるため縁を切ったという。「ヘイリーが唯一の選択肢である。」と彼は言った。ヘイリーは今でも、自分が大統領になった場合には、トランプが有罪判決を受けても恩赦を与えると主張している。アメリカをこれ以上分断するのではなく、正常に戻すことを最優先するという。しかしながら、彼女の属する共和党はまだ正常に戻る準備ができていないようである。「彼はいくつもの犯罪を犯した。誰もがしてはいけないと思っていることを、彼はやった。」とアブシャーは言った。「彼は政治をぶち壊した。なのに、多くの有権者がそれを良いことだと考えている」。私はアブシャーに、ヘイリーがトランプに勝つ可能性があるか尋ねた。「無い。」と彼は答えた。「トランプは麻薬だ。皆が夢中になっている。」♦

以上「