6.レヴィンの研究は果てしなく続く
レヴィンは子供の頃にはラジオを作ったりするのが好きでした。現在は生体の形態形成を研究していますが、一から組み立てるという意味では似ているところがあります。彼の最終的な目標は、自由に手足や臓器を生成させることが出来る技術を確立することです。彼は言います、「カエルの実験では脚を再生することに成功しましたが、将来的には人間でも同じようなことが可能になると思います。」と。そうした技術を使えば、先天性欠損症を治療したり、自然界に存在していない新しい生物学的形状をもった生体を生み出すことが可能になるかもしれません。彼の研究室はDARPA(米国防省国防高等研究計画局)からも資金提供を受けていて、過去の研究成果を生かして動物の細胞から機械を作ることも研究しています。最近、バーモント大学で進化ロボティクスについて研究しているジョシュ・ボンガードは、小さな立方体のロボットを寄り合わせたもののコンピューターモデルの設計に成功しました。そして、人間の体内から有毒な廃棄物を取り除いたり、顕微鏡下手術を行ったりすることが出来る可能性のあるマイクロロボットを作成しました。レヴィンはカエルから幹細胞と心臓の細胞を取り出して、ボンガードが設計したロボットに似たものを作り出しました。レヴィンとボンガードは共同で研究することにし、実験をするようになりました。ボンガードは、レヴィンのことを帽子の中からウサギを取り出す奇術師のようだと評していました。そして、ウサギが出てきた帽子の中にどうなっているか知りたくなるのと同じように、レヴィンと一緒に研究していいるともっと掘り下げていきたいくなるのだと言いました。
暖かい午後、レヴィンと私はボストン郊外のミドルセックス郡に車で行きました。そのあたりは州立公園で、2,600エーカーの広さがあり、散歩に最適な小道が沢山あります。私たちは、夏に多くの人たちがウインドサーフィンやカヤックを楽しむ大きな貯水池(スポット池という名前)に沿って森の中を歩きました。2人で歩いていると、軽く汗ばみました。時折、レヴィンは立ち止まって、木の幹に生えているキノコ等を調べたり岩の下にいる虫などを見たりしました。彼は、歩いている途中でアリを見つけて、子供の頃にアリに餌付けしようとしたが、中々うまくいなかったことを思い出したりしていました。道中、いろんな話をしていましたが、道端に野生しているベリーの実を見て言いました、「このベリーの色を見てください。こんな色のベリー、見たことがありません。まるでお菓子のような色です。ちょっと写真を撮らせてください。」と。
私は歩いている時に、どのようにして他の人が思いつかなかった生体電気信号の役割に気づいたのかを彼に尋ねました。すると、彼は歩きながら言いました、「私はこうして歩いている最中でも回りを見まわしています。そして、見たものについて、いろいろと考えます。その際には、出来るだけ物事の本質を捉えようと努力しています。他の誰よりも本質を知りたいと思う気持ちが強いのかもしれません。」と。
歩いて行くと1本の丸太が転がっており、赤いしみのようなものがありました。粘菌のようでした。「私は動物学者ではないので、この粘菌がなにか正確には分かりません。」とレヴィンは言いました。彼は腰をかがめて、その丸太から少し樹皮をはがし、その粘菌を採取しました。過去の研究によって、粘菌は何かを学ぶと、這って進んで別の粘菌に接触し、その記憶を引き継ぐことができることが明らかになっています。2016年、フランスの2人の研究者が明らかにしたのですが、ある粘菌が他の粘菌に餌となる食べ物の見つけ方を伝達する方法を特定しました。
「自然界では粘菌が隣の粘菌に接触して記憶を伝えます。私が研究してきたのはまさにそれです。いかにして他の個体に記憶を伝えるかということなのです。」とレヴィンは言いました。私たちは丸太を後にして先に進みました。地衣類が生えている岩を見つたり、シマリスが木の上いいるのを見ました。見たものすべて、それぞれの生物には生体電気信号が通っています。♦
以上