Rise of the Nanomachines
ナノマシンの台頭
Nanotechnology can already puncture cancer cells and drug-resistant bacteria. What will it do next?
ナノテクノロジーはすでに癌細胞や薬剤耐性菌を破壊することができる。さらに何ができるのか?
By Dhruv Khullar June 13, 2024
1.分子マシン、ナノマシンって何?
ライス大学( Rice Univercity )の微生物学者のアナ・サントス( Ana Santos )は、バイオテクノロジーの中心地であり、美味しいワインの産地としても知られるポルトガルの小都市カンタンヘデ( Cantanhede )で育った。彼女が幼い頃、製本業を営んでいた祖父は、よく自転車で町中を走り回るエネルギッシュな人物であった。しかし、2019 年に健康状態が悪化し、カテーテルに頼らなければならなくなった。ある日、彼は急に高熱に襲われた。方々の病院を回った。その結果わかったのは、口腔や腸管の常在菌である肺炎桿菌( Klebsiella pneumoniae )に尿道が感染していることだった。高度薬剤耐性型であった。医師が抗生物質を処方したが全く治療効果は無く、数日後に死亡した。「文字通り、医師は何もできなかった」とサントスは先日私に語った。「ささいな細菌感染で祖父は死んでしまった。『何で治せないんだ?』と感じた」。
当時、サントスはパリの学際研究センター( the Centre for Interdisciplinary Research in Paris )で、一部の細菌が他の細菌より長生きすることを可能にしている遺伝子の研究をしていた。しかし、祖父の死後、彼女は病原菌を殺す新しい方法に焦点を当てることにした。従来の抗生物質の問題点の 1 つは、常に進化している細菌が時間の経過とともに耐性を獲得してしまうことである。サントスが考えたのは、細菌とバイオテクノロジーとの間の軍拡競争に勝ち残るために、科学者たちはまったく新しい武器が必要なのではないかということである。当時、彼女はたまたまネイチャー誌の記事を目にした。内容は、化学者のジェームズ・ツアー( James Tour )が率いるライス大学の研究室が、微細なドリルのように回転し、人間の髪の毛の幅のおよそ 1 万分の 1 の大きさで、個々の細胞に穴をあけて殺すのに十分な能力を有した「分子マシン( molecular machines )」を開発したというものだった。その後まもなく、サントスはヒューストンに移り、ツアーの研究室に加わった。
現在 30 代後半のサントスは、茶色のストレートヘアにスクエアな眼鏡をかけ、軽いアクセントの英語を話す。人当たりが良いが控えめな人物である。彼女は自分の宿題を真っ先に終わらせて、仲間の宿題を真っ先に手伝うような人物のようである。今年の 2 月にライス大学に彼女を訪ねた時、彼女は私を顕微鏡( microscopes )、ドラフトチャンバー( fume hoods )、琥珀色のガラス容器( amber glass jugs )の前へ案内してくれた。その研究室では、化学薬品がかすかに甘い芳香を放っていた。まるでバナナの香りのするニスで壁を塗ったかのようであった。冷蔵庫の上には、ニヤニヤ笑っているティラノサウルスのビニール製フィギュアと、チャールズ・ダーウィンの肖像画のポスターが見える。そのポスターは、2008 年のバラク・オバマの大統領選用ポスターのパロディーで、赤、白、青色が配色されていた。そこには、「私たちが信じることができる非常に緩やかな変化( Very gradual change we can believe in )」という文字が踊っている。
サントスのデスクの前まで行くと、彼女はパソコン画面にキドニービーンズ( kidney-bean )のような形をしたバクテリアの画像を映し出した。彼女は、シャーレの中の分子マシーンについて説明した。それは、十分に小さいためバクテリアの中に入り込める。そして、バクテリアの細胞壁の内側に付着し、頑丈な外膜を貫通して破る。この分子マシーンは強烈な青い光によって活性化される。1 秒間に数百万回、電動ドリルの 10 万倍の速さで回転する。サントスは、その後の映像も見せてくれた。バクテリアは、表面に水ぶくれができ、全体がしぼんだ塊のようになっていた。彼女は満足そうだった。
「実際に動いているところをお見せしましょう」とサントスは言い、私を研究室の反対側にある小さな部屋に連れて行った。外には蛍光オレンジ色のバイオハザード(生物災害)を警告するステッカーが貼られていた。
「危険な病原体があるんですか?」と私は尋ねた。
彼女は私が予想したよりも長く沈黙した。「それほど危険なものはない」と彼女は言った。「とにかく何も触らないようにしてください」。
私たちは白衣、手袋、安全ゴーグルを身に着けた。サントスは頭上の棚から、ベージュ色の蛾の幼虫が 5 匹ずつ入ったシャーレを 2 つ取り出した。私が到着する前に、彼女は幼虫に壊滅的な感染症を引き起こす抗生物質耐性のある MRSA (メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 )を注射していた。今、彼女は小さな注射器を使って、分子マシンを含む溶液を片方のシャーレに入れた幼虫に注射した。彼女はその皿を青いライトの光の下に滑り込ませた。私は何千もの小さなドリルがそれぞれの細菌にくっつき、そして動き出す様子を想像した。
1 分ほどして、サントスはその皿を培養器に移し、数時間前に同じ手順を経た他の 2 つの培養皿を取り出した。MRSA と分子マシンが注入された最初の皿では、幼虫が楽しそうに蠢いている。遊ぶ子犬が戯れるような感じで、多くの幼虫が他の幼虫の上によじ登っている。2 つ目の皿では、MRSA だけを注入された幼虫は黒くなって固まっている。そのうちの 4 匹は皿に横たわったまま動かない。5 匹目はゆっくりと横に転がり、黒くなった頭をもたげた。しかし、頭が下に垂れて動かなくなり逝った。