ロボットがあなたの仕事を奪い取る?奴は週7日24H働いても乳酸を溜めず、有給や忌引で休むこともない。

2.昔からロボットに職を奪われる恐怖を煽る人がいるが、実現したことは無い。

 ロボットが進化してますます増えることも、移民の流入も、自分の仕事を奪い取るのではないかという恐怖を引き起こすものです。いずれも仕事を奪いますが、仕事を奪われる者は、苦しみ、窮乏し、絶望します。将来、そういった生活困窮者が町にあふれるという予測をする者も少なくありません。現在、世間には警戒感が広がっています。ロボットと移民が職を奪い失業者だらけになるという警戒感ですが、そう言ったことは間違いなく起こることなのでしょうか?現在パニックに陥っているからと言って、必ずしも危惧した通りの結果になるというわけではありません。かなり昔から、世間にはロボットや移民に対する警戒心がありました。大変なことになるという予測もありましたが、今のところそれが当たったことは一度もありません。にもかかわらず、ロボットと移民の脅威を煽る人たちは、現在の脅威は今までと違うものだと言い張ります。

 多くの職が奪われ失業者が溢れるという脅威は、しばらくは人々の頭の隅から完全に離れることは無いのかもしれません。そうした脅威を人々に知らしめた人物の1人がマーティン・フォードです。彼は2015年に著書「Rise of the Robots:Technology and theThreat(邦題:ロボットの脅威 -人の仕事がなくなる日)」を記しています。フォードは、これまでもロボットの進化に関して悲観してパニックになるというようなことは何度も発生したが、一度もぞれが現実となったことは無かったと論じています。19世紀には、農業の生産性が機械の導入により大きく改善したことによって職を失った農業従事者が沢山いました。しかし、そういった人たちは工場で働くことになり、結果としてより多くの給料をもらいました。20世紀には、工業生産の機械化や自動化によって、未曽有の経済的・社会的混乱が引き起こされると警鐘を鳴らす者が沢山いました。しかし、実際にそんな風にはなったことはなく、工場で働いた労働者はサービス業に移っていきました。機械は仕事を奪い取りますが、生産性が上がることによって新たな仕事を生み出します。

 フォードは述べています、「そうした脅威が現実になったことは無いということは歴史上明らかですので、ほとんどの経済学者は、技術の進歩が失業、賃金の低下、所得の不平等の拡大を引き起こす可能性があるという主張には否定的です。」と。結局、歴史を振り返って明らかになったのは、技術が進歩すると新しい雇用機会が創出され、経済はより拡大していくということです。新しく生み出された職にありつけるのは高いスキルのある人たちで、その人たちはより多くの給料を得ることとなります。

 そういったことが言えるのは過去のことで、現在はこれまでとは状況が違うという可能性もあるのかもしれません。フォードは、現在のロボットの脅威が過去のものとは全く異質のものであると言います。何が違うかと言うと、変化のスピードが桁違いなのです。農業から製造業へ労働者が移動した際には、技術革新のスピードは等差級数的でした。それに対して、現在のスピードは等比級数的です。前者はニュートンの法則(慣性の法則)が適用されますが、後者はムーアの法則(インテルの創業者ムーアが唱えた半導体の集積率は18カ月で2倍になるというもの)が当てはまります。雇用の崩壊が起こるとすると、それは非常に急速なものになるので、労働者は新しく生まれた仕事を得るための技能を習得する時間がありません。また、たとえ労働者が技能を習得する時間があったとしても、何処からも雇ってもらえない可能性があります。なぜなら、何でもできてしまうロボットが新しい仕事を埋めてしまうからです。

 そういった仮説が正しい可能性も十分にあります。ただし、それが本当に正しいと証明することは不可能です。ベーシック・インカムの支持者であるフォードは、歴史学者でも経済学者でもありません。彼は、フューチャリストです。彼はMBAを取得していますので、経営的な視点も持っています。誰もが未来のことを予想すると思うのですが、フューチャリスというのは、それを生業として生計を立てるために行っている人たちです。政治家は計画を立てます。フューチャリストは未来を予言しようとします。ロボットが増え失業が増え大混乱が引き起こされるという予言は、歴史的分析を根拠として生み出されたものです。しかし、SF小説から根拠を得ている部分も同じくらいあります。ロボットという語は、いろいろなものを指して使われていて、例えば蒸気機関を導入した織機や電力大量使用の工場や人工知能などを指しますが、時間を短縮することといろんなものを融合させるという2つの機能を有しています。産業革命前までは、仕事というものは裕福な人たちが貧しい人に与えるものだと信じられていました。そうすることは秩序の維持に役立ちました。しかし、南北戦争前の米国では状況が異なりました。奴隷が沢山いましたし、無償で家事をこなしていた女性が高い賃金につられて労働市場に進出していましたので、労働力は有り余っていました。ですから、米国の歴史を振り返ると、技術革新によって仕事がなくなるという懸念が拡がる際に、一番脅威となるのは移民の流入でした。19世紀には多くの農民たちが技術革新の波に乗り遅れましたが、彼らは鉄道会社へ課税強化を求めていましたが、同時にアフリカ系やアジア系の人たちの入国制限も求めていました。彼らは、機械に対して怒っていましたが、移民に対してはもっと怒っていたのです。