4.ロボットが経済を大きく変えたことなど1度も無かった。
1984年、カレロがカイプロ社の備品庫に隠れた年ですが、米国人工知能学会の年次総会にてコンピューター科学者たちが「AI(人工知能)の冬」が到来するのではないかという警告を発し始めました。「AI(人工知能)の冬」とは、AI(人工知能)が軽々しく何でも信じる報道機関によって過大に喧伝されたり、無謀な投資家によって過度に投資されて、世の中は熱狂に包まれるが、そうした熱狂が制御不能となってその後に失望が続くことです。実際、誇大宣伝は次第に減っていき、投資は枯渇していきました。「AI(人工知能)の冬」はその後何年も続きました。
ロボットが仕事を奪い取るという予想に懐疑的な者の中には、別の形の「AI(人工知能)の冬」が到来するのではないかと予測する者がいます。それは、AI(人工知能)の研究で進歩が止まるというものです。昨年の秋、フィナンシャル・タイムズ紙のジア・チシュティー記者が次のように記していました。「人間の知性を解明する研究は全く前進していません。ムーアの法則のおかげで、コンピューターの計算速度ははるかに速くなりましたが、基盤となっているアルゴリズムは40年前に計算機を動かしていたものとほとんど同じです。」と。40年前と言えば、ちょうどケイプロⅡが活躍していた頃です。
この40年間には多くの変化が起こりました。特に、AI(人工知能)は非常に膨大な量のデータを利用できるようになりました。それでも、経済学者ロバート・J・ゴードンは、ロボットが仕事を奪い取るという予想には懐疑的です。彼は2016年の著書「The Rise and Fall of American Growth(邦題:アメリカ経済 成長の終焉)」を記しました。その中で言っていますが、100年におよぶ経済の拡大は1870年に始まって1970年に終わりました。それは、人間が置かれている環境を変えてしまうようなものが整備されることでもたらされたのです。電気の普及、公共水道網の整備、高速道路の敷設などの恩恵は絶大でした。1970年以降は、それらほど大きな恩恵を与えるようなことは起こっていません。電話の特許は1876年に取得されました。それは人々の生活を変え、生産性の大幅な向上に寄与しました。ゴードンは、携帯電話が果たしている役割は電話とそれほど変わらないと言います。彼は2016年の「ロボットが人間の仕事を奪い取ることができない理由」と題した論文で、スマートフォンの普及は「雇用を創出して賃金を支払うということに大きく寄与しているわけではないと論じています。彼は、ロボットは製造業を激変させたことは認めていますが、ロボットが経済全体を大きく変えたとは思っていませんし、これからも変えないだろうと思っています。彼は次のように記しています、「私は 毎日いろんなところを巡ってロボットを探しています。スーパーマーケット、レストラン、歯医者、近くの病院、自分の大学の事務所などです。また、いろんな労働者を見て回っています。学校の先生とか、パーソナル・トレーナーとか、介護士とかです。しかし、どこにもロボットなどいないじゃないですか。」と。