ロボットがあなたの仕事を奪い取る?奴は週7日24H働いても乳酸を溜めず、有給や忌引で休むこともない。

5.ロボット脅威論には、4つの誤りがある。

 ロボットについての誇大宣伝がほとんどが正しくないものだとしても、仕事が奪われるという予想は一部で現実となりつつあります。最近の雇用統計の数値は悪くないですが、長期的には悪化しています。特に、高卒以下の学歴しかない米国人の実質賃金は数十年にわたって悪化しています。エレン・ルッペル・シェルは著書「The Job: Work and Its Future in a Time of Radical Change」(カレンシー出版社刊)にて記していますが、労働市場が厳しさを増す中で彼らの仕事はロボットや大卒者などに奪い取られていると記しています。現在、大卒を卒業した者の40%が大学の学位を必要としない仕事に従事しています。 1950年に米国で生まれた人の5人の内の4人が自分の親よりも多くの収入を稼ぎました。対照的ですが、1980年に生まれた人の場合、その比率は2分の1まで低下し、最近では3分の1まで低下しています。さまざまな予想が為されていて、非常に楽観的なもの、悲観的なもの、ヒステリックなものまでありますが、ある理性的と思われる研究によれば、2050年までに米国の勤労世代の男性の4人に1人が、ロボットや自動化等の影響で失業すると予想されています。最も早くそうした影響を受ける可能性があるのは、何百万人もいるトラックやタクシーの運転手だと言われています。最速の場合、来年にも自動運転車の艦隊に取って代わられるという予想もあります。

 経済的な不平等は、政情の不安定化と共和党と民主党の激しい対立を引き起こします。誰もが仕事が奪われることを心配し無ければならない状況です。ロボットを脅威だと考える人と移民を脅威だと考える人では、それぞれまったく違った解決策を思い浮かべています。いずれにせよ、この件に関しては既にいろいろな解決策が提案されていますが、基本的にはあまり的を得ていないように思えます。ボールドウィンが著書「The Globotics Upheaval:Globalization、Robotics、and the Future of Work(邦題:(グロボティクス) グローバル化+ロボット化がもたらす大激変)」で、ロボットが社会に広まっていく際には、「転換」、「激変」、「反動」、「解決」の4つの段階があると予測しています。彼は、「解決」には、「保護」も含まれると言います。事務系労働者が、自分たちの仕事もいずれ無くなってしまうのではないかと気づいたら、自分たちを守るために人間にしか実施できないような業務を「保護」しようとすると予測されます。そうすると、ロボットにはできない彼らが行う仕事というのは、職場の人たちを気遣い、協働し、相互理解し、創造力を発揮し、共感し、革新的に考え、指導管理するというようなものになります。そうすることが必須なのですが、そうすることは、仕事のやり方がロボットが行うのと同じようになるということです。ここで重要なのは、職場の人々を気遣い、協働し、相互理解し、共感するということは、これまでは女性が行う仕事だと考えられてきたということです。ですから、対価として給料を払うべきような仕事ではないと見なされたり、支払われたとしても非常に少額でした。保育士、小学校教諭、看護師、介護士、社会福祉士などの仕事が全てロボットによって実施されたとしても、突然高給で高級な職業になることはありません。もし、将来そうしたことが起こるのであれば、すでに起こっていたはずです。そうならなかったのは、そうした仕事は人間にしか出来ないということを誰もが知っているからです。最近では、ロボットが女性化するという現象が進行しています。1960、1970年代のロボットは男性的でした。例えば、映画「2001年宇宙の旅」のHAL、「スター・ウォーズ」のR2-D2とC-3PO、「宇宙家族ロビンソン」のロボットなどは男性でしたが、最近の映画に出てくるロボットは女性的なものが多くなっています。「オースティン・パワーズ」のフェムボット、リアルドール社が発売したセックスボット、「her/世界でひとつの彼女」や「エクスマキナ」に出てくるロボットなどです。セクシー奴隷のようなアレクサで女性的です。女性労働者は人間であるがゆえに多くの報酬を得ることが出来ていません。一方、ロボットは女性的になることでより活躍の場を広げています。

 経済学者オレン・キャスは、著書「The Once and Future Worker: A Vision for the Renewal of Work in America」(エンカウンター社刊)とナショナル・レビュー誌に記していますが、ロボットが職を奪うと予想する脅威論には辟易しています。そもそも技術革新と自動化は、いつの時代でも経済の発展に欠かせないものですし、十分に機能的な労働市場があれば全てのタイプの労働者に利益がもたらされる、と彼は主張します。また、彼は、ベーシックインカムを提唱する人にも我慢がなりません。彼は記しています、「現在でもお金持ちの人たちは沢山お金を払っています。彼らは、思いやりを示すためには、これくらい払えばもう十分だろうと思えるほどに払っています。」と。

 ハイマンと同様に、キャスはを現在の経済の不調は20世紀半ばの経済学者たちのせいだと非難しています。まあ、キャスはその他いろいろな人たちのことも非難しています。彼の主張は、20世紀の半ばの数十年間、経済政策立案者は経済成長を優先するあまり労働者を軽視し労働市場の健全性を歪めたというものです。虐げられた労働者には再配分を行って、消費を拡大することも重視されていました。そのためには、経済がどれだけ成長しているか数値化して確認する必要がありますが、GDPが重要な指標となりました。GDPが指標となったことは不幸なことです。なぜなら、それは、生産よりも消費に注目した数字だからです。彼は、ユニバーサル・ベーシック・インカムというのは沢山ある再配分施策の中の最終手段だと見なしています。その利点は、救済が必要なほど貧しい人でも、消費をしてくれるということにあります。働かなくても補償を得られるからです。彼は、ユニバーサル・ベーシック・インカムの提唱者をあざ笑っています。提唱者たちは貧しい人たちを飢えさせないたために必要だと主張しています。しかし、貧しいと言いつつもほとんど全員がアイフォンを持っているのに、どうして救う必要なんてあるんでしょうか。

 2017年頃からキャスは、報道機関はロボットが職を奪うだろうという誇大広告に騙されていると主張しています。2017年は、全米経済研究所が、ロボットは今後100年間は2001年と同じくらいの失業者を生み出すだろうという趣旨の論文を発表した年です。その論文を受けて、タイム誌やワシントン・ポスト紙は、ロボットが職を奪って大災害が起こるというような刺激的な見出しを付けた記事を掲載しました。キャスは、ロボット脅威論について注意深く分析をして批判しています。ロボット脅威論には、4つの誤りがあると主張します。21世紀の技術革新を過大評価し20世紀までのそれを過小評価していること。変化のスピードの予測が間違っていること。自動化による新しい分野の仕事の創出を予測していないこと(3D印刷は、多くの工場労働者の仕事を奪う可能性がありますが、多くの新しい仕事を生み出します)。そして、ロボットが多くの関連する作業を同時にこなせることを理解していないことです。2013年にオックスフォード大学が行った研究がありましたが、アンドレス・オッペンハイマーが仕事というものについて考えるきっかけになった研究で、ロボットが多くの職を奪うという予想が為されました。しかし、キャスは多くの誤りを見つけています。その研究では、カール・フレイとマイケル・オズボーンが702種類の職業をコンピュータ化可能度の高さによってランク付けしていました。最もランクが高く職が奪われやすいのは、スクールバスの運転手となっていました。現状を見ると誤りは明らかで、自動運転のスクールバスの運行が可能となるのはまだまだ先のことでしょう。キャスが指摘していますが、そもそも、見守り役の大人が乗っていないスクールバスに子供を乗せようと思う親など1人もいないでしょう。

 キャスの独自の政策提言は、非常に合理的なことですが、仕事と家族の重要性にも焦点を当てています。それを実現するための施策については、環境規制の緩和と高校での能力別学級編成といったこと等を提案しています。今までもこれからも労働者のためには、米国の経済政策を分析することが重要です。残念ながら、現在の分析は枝葉末節ばかりを見たものとなっています。つまり、自動化や知識経済ということに関する分析は行われていますが、政策自体の分析はなされていないようです。「過去を振り返ると、経済学者や政治家は、技術革新が全ての労働者にとって恩恵をもたらすということを説明するのに熱心です。しかし、実際には、職がなくなり混乱する業種も一部にはあります。彼らは、それに目を向けていません。それで、特定の業種を狙い撃ちして、バスをロボットに運転させるとか自動化することが出来ないかとの議論を始めているのです。」とキャスは言います。そして、バスにはロボットを乗せるべきか、移民を乗せるべきかといった議論が始まっているのです。キャスは、移民は制限すべきだと考えています。