6.ロボットも移民も脅威ではない。冷静に考えよう。
ドナルド・トランプは、就任後の10年間で2500万人の新しい雇用を創出するという公約を掲げて大統領選に立候補しました。2016年9月、彼は新規雇用を増やし離職者数を減らし経済を拡大させると言っていました。彼の施策には、関税障壁を設けることで米国民の雇用を守るというものが含まれていて、それを多くの経済学者は疑問視していました。エコノミスト誌は、大統領選での2つの選択肢について論じていました。2つの選択肢というのは、右派か左派かということではなく、自由貿易か保護貿易かということでした。具体的には、移民を歓迎するのかしないのか、関税障壁を設けるのか設けないのか、文化の変化を受け入れるのか受け入れないのかということが問われていたのです。バラク・オバマは、自由貿易派でした。自由貿易派はロボットについて話す傾向があります。トランプが大統領に就任する直前の2017年1月にオバマは離任の挨拶で言いました、「他国からの影響によって次の経済混乱が引き起こされることは無いでしょう。それは、かつての中産階級の仕事を陳腐化してしまう恐るべき速さの自動化によって引き起こされるでしょう。」と。
トランプは保護貿易派です。保護貿易派は移民について話す傾向があります。彼は「仕事」という単語を600回近くツイートしましたが、「ロボット」、「自動化」という言葉をツイートしたことは一度もありません。彼は、大統領就任の数週間後にサウスカロライナ州のボーイング社の工場で、「全ての米国人の仕事を守るために戦います。」と言いました。彼は、企業が国外に製造拠点を移すことを望んでいませんでした。それで、工場の従業員を解雇して国外に工場を移して製品を国境を越えて持ってくるならば、非常に大きな対価を支払うことになると警告しました。また、いずれ関税障壁をもっと高くすることも警告していました。ボーイング社は、その年の6月、777の製造数を40%削減する一環として、サウスカロライナ工場の従業員約200人を解雇し、2017年には約6000人を解雇しました。
トランプ政権はロボットが仕事を奪う脅威をあまり気にしていませんでした。そこは、普通の保護貿易派とは違うところです。今から2年前、財務長官スティーブ・ムニューシンは、ロボットは全く脅威ではないと言っていました。それにもかかわらず、トランプの選挙参謀の何人かは、トランプへの投票とロボット普及の進展具合には相関関係が見られると推測していました。昨年夏にオックスフォード大学が出した論文で、ロボットの脅威が高まればトランプが選挙に勝てるかもしれないという予測が為されていました。その論文の主著者はカール・フレイでした。例の702業種をコンピューター化可能度でランク付けした人物です。フレイと同僚は、ロボットの導入率の高さを測り、それと投票結果との関連を調べました。分かったのは、選挙までの数年間のロボット普及の速さが急激な選挙区ほどトランプが勝つ傾向がつ強いということでした。逆に、ロボットの普及が急激ではなかった選挙区では、ペンシルベニア州とウィスコンシン州が特に顕著でしたが、ヒラリー・クリントンが優勢でした。ロボットの脅威の強さと投票行動の相関があることが分かりましたが、同様に移民の脅威の強さも投票行動との相関があるかもしれません。
表向きには、ロボットの脅威が問題となっています。ロボットのせいで全ての労働者が失業するかもしれないという脅威です。同時に、裏では移民の脅威が問題となっています。国境を封鎖しなければ大変なことになるという脅威です。これまでのところ、過激主義が台頭するのを無為に見守る以外の唯一の選択肢は、ロボットや移民が脅威であるという考え方を捨てることです。そして、移民を受け入れるか受け入れないかとか、ロボットを普及させるかさせないかといった二者択一の考え方も捨てることです。それは、やる気さえあれば誰でも出来ることです。
以上