右傾化とナショナリズムの台頭
Q:高市の成功を、世界中で台頭している右翼ナショナリズムの観点から見ることは有益だと思うか?
A:それが間違いなくこの物語の一部であることは疑いようがない。昨年夏の参院選で極右政党の参政党( Sanseito Party )が大躍進したことは驚きであった。彼らの排外主義的( xenophobic )、強硬( hard-line )、反移民( anti-immigrant )・反外国人( anti-foreigner attitude )の方向性が有権者に響いたようである。これは、日本だけでなく、ますます多くの国々で見られる傾向と一致している。だから、選挙前から自民党がその方向に舵を切り、極右寄りの支持者を取り込もうとするだろうと予測されていた。これは自民党がこれまで非常に得意としてきた政治戦略である。自民党は有権者の新たな感情に合わせて方向性を自由に変えることができる。右にも左にも行けるのである。この反対方向への転換が最も顕著だったのは、1970 年代と1980 年代である。当時、環境保護政策は左派と中道左派の間で非常に人気があった。自民党はその方向に進み、効果的に左派と中道左派を取り込んだ。現在、自民党は右に寄っている。特に移民問題に関してはそうである。
もう 1 つの大きな争点となったのは景気とインフレである。過去 3 年ほどインフレが続いているが、インフレ抑制策で確実に成果を出せる者など存在しないことを多くの日本の有権者は悟りつつあった。おそらく自民党にもそんなことはもう期待していない。自民党も含めてどの政党もインフレ対策で何をするかを納得のいく形で示せていなかった。そのため、多くの有権者が「よし、この新顔にチャンスを与えてやろう」と考えたのではないか。
Q:なるほど、ナショナリズムの高まりと移民への敵意、そしてインフレへの懸念が、広く蔓延している政治的現実であることは事実である。しかし、今回の選挙で最も恩恵を受けた自民党は、戦後日本で最大かつ最も成功した政党でもある。一方、他の国では、より古く、より確立された政党が苦戦を強いられている。
A:その通り。けれども、高市の台頭において、世界的な右傾化の流れに完全には当てはまらない点もある。それは彼女のタカ派的姿勢( hawkishness )である。アメリカを見ればわかるように、右傾化の多くは孤立主義的なものであった。
Q:なるほど、それについて詳しく教えていただきたい。
A:アメリカのトランプ大統領と違い、高市は孤立主義的ではない。それなのに、高市が嬉々として中国を挑発したのは興味深いことである。昨年、予算委員会での質疑で、彼女は台湾が武力攻撃を受けた場合、これは日本の存立危機事態になり得ると述べた。それについては政府は従前より明らかにしていなかったわけで、公の場で発言という点で異例のものであった。彼女が言いたかったのは、日本はアメリカと同盟関係にあり、当然アメリカも関与することになるので台湾を防衛する、ということである。彼女の回答は、アメリカと共に立ち向かうと言っているに等しいものだが、これまでそれは暗黙の了解にとどめられていた。また、昨今のアメリカは誰にも何をするか分からないわけで、彼女の発言は非常に挑発的であると言える。高市がその気になれば、中国政府に裏ルートで台湾を弄ぶなというシグナルを送ることができる。そうすれば今回のような騒動は容易に回避できた。それなのに、彼女は公然と台湾有事発言をした。中国が激怒したのは当然の帰結である。
中国政府は、自国民に日本への渡航自粛を勧告し、経済報復をちらつかせた。計画されていた会談を中止するなど、日中関係を深く冷え込ませるような対応をとった。そのため、私が話を聞いた日本の外務省関係者の多くが、高市の回答は酷い誤りであり、外交音痴の極みであると捉えていた。
計算づくだったか否かは定かではないものの、彼女の反中姿勢は国民に好印象を与えたようである。日本では経済的にも軍事的にも中国に対する強い恐怖感がある。しかし、多くの国民が日中関係が相互依存関係にあることは理解している。高市は中国に立ち向かう覚悟があるように見られた。それが一種のナショナリズムを刺激している。つまり、彼女の強硬姿勢がナショナリズムが台頭する中で広く受け入れられたのである。