経済政策と統治の懸念
Q :日本は長らくデフレに苦しみ、実際、2010 年代の世界的なインフレ率急騰を歓迎していたくらいである。しかし、現在では多くの日本の有権者がインフレに辟易している。高市は、少なくともアメリカ国内では右派として知られている。彼女の経済政策には多額の財政支出が含まれている。その一部は軍事費に充てられている。イデオロギー的な観点から見ると、彼女の経済政策はどんなものであるか?
A:彼女の経済政策は、正常範囲内にあると思う。そこは今のアメリカとは違うところである。 関税引き上げなどでインフレ対策をしようとしているわけではない。デフレが終焉し物価が上昇し始めたことで、日本政府の望みの一部が実現したと言える。しかし、本当に望んでいたのは賃金と所得も同様に上昇させることであった。そもそも日銀がマイナス金利を維持したのは、賃金の引き上げを通じて国民により多くのお金を与えることができると考えたからである。しかし、結局のところ、インフレ率が賃金上昇率を上回っている。
私にとって不可解なのは、高市が掲げた公約は、私の理解する限り、必ずしも物価抑制につながるわけではないということである。彼女は「積極的財政政策( aggressive financial policy )」と呼んでいるが、これは実際には低金利またはマイナス金利の復活と金融緩和を意味している。これらはインフレを悪化させる。さらに、軍事費の大幅な増額もすると言う。彼女の提言にはインフレ抑制につながる部分が全くない。
Q:日本に定期的に旅行している友人と話をした。懸念していることがあると言っていた。移民への脅迫、報道の自由の侵害などである。自民党に批判的なテレビ局の放送免許を取り消すと日本政府が脅迫しているという。私は、日本の報道メディアはアメリカよりも強固で、そうした事態に抵抗できると考えていると伝えた。彼が語ったのは、自民党が歴史的に報道メディアの統制を複数の派閥に分散させてきたという考えに基づいているため、過去に報道メディアが試される場面はほとんどなかったということである。たしかに権威主義的な体制の国々で見られるような中央集権的な統制は行われていない。しかし、高市の人気と自民党の中央集権的な統制によって、こうした状況が終わりを迎えるのではないかという懸念が無いわけではない。
A:あなたの友人の考えていることは概ね正しいと思う。高市は衆院選での大勝利によって自民党に対する強い統制力を確保できた。彼女が党と協調して国民に物議を醸すような政策を推し進めるか否かは読めないところである。高市が非常に積極的に行動する可能性がある。私の予測では、彼女は軍事費の計画については積極的になる可能性が高い。
しかし、彼女はトランプのようなやり方で反対派を攻撃するだろうか?私はそうは思わない。また、彼女の反移民政策がトランプと同じになるとも思わない。まず第一に、日本にはアメリカと違って不法移民が無茶苦茶多いわけでもない。高市が外国人に対して積極的な政策をとったとしても、不法移民を一網打尽にして帰国させるようなことはしないだろう。おそらく、日本に滞在する外国人の生活をより困難にしようとし、形としては、入国を拒否したり、社会福祉サービスなどへのアクセスを遮断したりするのだろう。しかし、アメリカで見られるような光景が日本で繰り広げられることはないだろう。
Q:自民党の各派閥間の違いは何か?
A:派閥によって日本の歴史認識に差がある。また、第二次世界大戦中の行動において日本が謝罪すべき国であるかどうかという点は、派閥によって大きく考え方が異なる。自民党は、日本が謝罪を続ける必要性を否定する政策へと転換したが、完全に否定しているわけではない。自民党内にはこの考えに賛同しない派閥もある。しかし、高市は第二次世界大戦を生存と自衛のための戦争と捉えており、これは日本の右派が抱いている見解である。この見解については、国民の間でも意見が割れているし、自民党内でも派閥によって考え方が異なっている。それが強硬派への牽制となっていたところもある。安倍晋三首相は 2015 年に戦後 70 年談話を出した。事前の段階では、悔悟、謝罪、自己反省を一切否定するのではないかと懸念する者も少なくなかったが、最終的に、首相はそうしなかった。安倍首相の談話の内容について、批判する者もいれば称賛する者もいる。私もいくつか疑問に思う点がいくつかある。彼は国内外からの圧力に屈し、心の底で思っていたことを全て表現できたわけではない、と私は推測する。高市はこの点で窮屈さを感じるだろうか?おそらく感じるだろう。外交は重要で、海外の反応を無視することはできないわけだから。現在、高市にとって最も避けたいことは、韓国と大々的に対立することである。
おそらくトランプは日本に韓国との関係を強化するよう促すだろう。また、日本と韓国が歴史問題で争うようなことのないよう釘を刺すだろう。
Q:どうなるか?
A:日本と韓国はいずれも、自分たちを守ってくれるかどうかわからない予測不能なトランプ大統領と対峙しなければならない。だから、両国が友好関係を築くことはいずれにとって利益になる。
Q:韓国が理由があって日本のナショナリズムに対して疑念を抱いているのは明らかである。それにもかかわらず友好関係を築くべきなのか?
A:築くべきである。両国は経済面では相互依存状態にあり、安全保障や軍事面でも両国を結びつける絆はたくさんある。両国の友好は、特にアメリカを信頼できないパートナーと見なさざるを得ない状況では重要である。
Q:高市が様々な制約を受けているというあなたの意見は十分に理解できるものである。しかし、私の印象に残っているのだが、彼女が約 10 年前に自民党の総務大臣を務めていた時に、日本の報道の自由は著しく低下した。また、彼女は過去にネオナチの政治家と写真を撮ったり、ヒトラーを婉曲的に表現した本に推薦文を寄せたりした。ちょっとした騒動を何度も起こしている。こうした権威主義的傾向( authoritarian leanings )は、彼女の人格の根幹から来るものなのか?
A:若い政治家が自民党内で頭角を現すには、後援者が必要である。多くの国会議員が世襲議員である。親の地盤があり、代々続く支援者との繋がりがあり、暖かく育て、守ってくれる人がいる。しかし、彼女にはそれが無かった。彼女は政治の経歴もコネもない家庭で育った。彼女は自力で這い上がったのである。だから、誰かに頼る必要があった。彼女はキャリアの初期に、安倍首相こそ頼るべき人物だと定めた。安倍は彼女を育て、導き、彼女の知名度を高めた。だから、彼女の初期の政治的決断には、もしかしたら日和見主義的な側面があったのかもしれない。
しかし、現在の彼女の右寄りな傾向は一時的なポーズではないように思える。彼女のナショナリズム、第二次世界大戦に対する見解、移民への懸念など、これらすべてが彼女の深いところまで浸透しているように私には思える。そして、それらは彼女のアイデンティティの中核を成し、それが支持基盤の核となっている。では、彼女は国内や近隣諸国で物議を醸すような政策を全力で押し進めるだろうか?そんなことをすれば中国や韓国と軋轢が生まれてしまうわけで、おそらく強引な手法はとらないだろう。安倍も、自身の核となるイデオロギー的信念を抑制せざるを得なかった。完全ではないにせよ、ある程度は抑制していた。なぜなら、彼は実利主義者でもあったからである。
Q:自民党の一部の議員が中国に対して強硬な姿勢を見せるのは、第二次世界大戦時と同じナショナリズムの発露なのか。それとも、中国の台頭に脅威を感じる中で生まれたより新しい現象なのか。
A:間違いなく新しい現象である。日本による中国侵略や第二次世界大戦中の残虐行為の動機となった思想が、主要な要因ではない。右寄りの自民党議員の根底にあるのは、中国は台頭する軍事大国であり、台湾を脅かし、北朝鮮と同盟を結び、攻撃的な行動をとっているという認識である。今日の日本における反中感情は、中国の経済面、軍事面の行動にほぼ完全に対応したものである。
Q:高市は日本で初めての女性の首相でもある。今回の選挙において、それは重要なことだったのか。また、大半の日本の有権者が彼女を支持したという事実は、何を意味しているのか。
A:彼女は女性初ということを意識していない。日本で初の女性首相であるという点を彼女が売りにしているわけではない。彼女自身の見解は基本的に反フェミニスト( anti – feminist )的である。しかし、日本の多くの女性有権者が必ずしも反フェミニスト的ではないことは興味深いことである。「女性がここまで上り詰めたことは素晴らしい。他の女性たちの励みになる」と言う者もいれば、「いや、その人の言動を見るべきであって、アイデンティティは全く関係ない」と言う者もいる。そして、一部の人々から反アイデンティティ・フェミニズム( anti-identitarian feminist )的な動きが生まれている。反アイデンティティ・フェミニズムとは、女性という固定的なグループやアイデンティティを前提とした政治活動(アイデンティティ・ポリティクス)に疑問を呈し、そのカテゴリー自体を解体・脱構築しようとするフェミニズムの立場・理論である。
彼女はマーガレット・サッチャーをモデルにしているが、自民党内で出世するにはフェミニストのままでは不可能であることは明らかである。彼女は保守的な男性議員の支持をたくさん得る必要があった。しかし、安倍や彼のようなベテラン政治家の多くは、フェミニストが望むような政策には根本的に反対であった。例えば、現在日本でもっぱら議論となっていることの 1 つは、女性が結婚後も生まれながらの名前である旧姓を使用できるか否かということである。
現時点では、旧姓の使用は不可となっている。高市もこれに同意している。結婚した夫婦は法的には 1 つの姓しか持てない。夫が妻の姓を名乗ることも、妻が夫の姓を名乗ることも可能であるが、姓は 1 つにしなければならない。女性は非公式に旧姓を通称として使うことができる。学術界などでは結婚後も仕事上は旧姓を使い続ける女性研究者が数多くいる。しかし、法的には、パスポートや政府機関の活動においては、旧姓を彼女たちの姓として使うことはできない。