トランプの大勝利! 共和党ニューハンプシャー州予備選 指名争いは始まったと思ったら、終わっていた!

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  ニューハンプシャー州の結果について論じたい。その前に、事前の分析についても言及したい。ニューハンプシャー州は穏健な有権者が多く、ヘイリーは接戦に持ち込めると見られていた。逆に言えば、ここで負ければ撤退は必至と見られていた。ヘイリーは、ニューハンプシャー州でトランプとの一騎打ちになることを期待していた。独立志向の強い有権者たちに訴えかけて支持を拡大する戦略だった。2023 年前半にトランプの対抗馬として有力視されていたフロリダ州知事のロン・デサンティスが前週末に撤退を表明したことで、彼女が望んでいた状況になった。ニューハンプシャー州の予備選の結果予想は難しいことで有名なのだが、今回に限っては、やる前から確実に分かっていることが 1 つあった。それは、ここでヘイリーが番狂わせを起こせなければ、始まったばかりの共和党の指名争いが終了するということである。「みんな、私の撤退宣言を報じる準備をしている。」と、ヘイリーは投票が締め切られる数時間前の CNN のダナ・バッシュ( Dana Bash )とのインタビューで不満を漏らした。

 しかし、彼女は敗れたが撤退しなかった。いくつか指摘すべき事項がある。 ヘイリーは、選挙戦でトランプが大統領に適任でないことを主として攻撃してきた。これが、悪手だった。一方のトランプは、移民問題など自分の得意な分野にからめて彼女を攻撃していた。トランプの戦略の巧みさを、ポリティコ( Politico:米のニュースメディア )のマイク・アレン( Mike Allen )もコラムで賞賛している。また、ヘイリーは、デサンティスの撤退から何の恩恵も受けなかった。どうして恩恵が無かったかは、CNN のロン・ブラウンスタイン( CNN’s Ron Brownstein )が記事にしていて、 「なぜデサンティスの離脱がトランプとヘイリーの対決の構図を変えなかったか」を詳述している。元々ヘイリーには、ニューハンプシャーで勝利しようが敗北しようが、有意義な選挙戦を続ける道はなかった(勝つと決まっていたトランプにとっても意味の無い戦いであった)。選挙前日に発表されたサフォーク大学( Suffolk University )、ボストン・グローブ紙( the Boston Globe )等による直前の世論動向調査では、トランプが 60% 対 38% でリードしていた。この数字は、ヘイリー陣営に下された死刑宣告と言っても過言ではなかった。投票が始まる前から、結果は明らかだった。

 フォックスニュース( Fox News )では、ニュース番組の冒頭で司会のローラ・イングラハム( Laura Ingraham )が結果が出る前に全体像を語った。予想通りにニューハンプシャー州でトランプが勝利し、反トランプ陣営( Never Trumpers )の最後の抵抗も無駄で、反トランプ運動の完全かつ正式な終結が示されると彼女は語った。共和党内にしぶとく残っていた反トランプ運動を繰り広げていた勢力は、2016 年にトランプが大統領に就任して共和党の乗っ取りに成功して以来たゆまず抵抗してきたが実を結ばなかった。トランプに副大統領候補として指名すよう公然と働きかけてきた下院共和党会議イリース・ステファニク( Elise Stefanik )議長は、投票が正式に終了する前の午後 7 時半過ぎに、トランプの「歴史的」かつ「大規模」な勝利を祝福する声明を発表した。共和党ワイオミング州選出上院議員ジョン・バラッソ( John Barrasso )は、その数分後に宣言した。「ドナルド・J・トランプこそが共和党指名候補者だ」。彼もまた、投票が終わるのを待とうとはしなかった。

 事前の世論調査よりも接戦になったことは何を意味するのだろうか。このことがヘイリーに撤退を思いとどまらせたのだろうか。ヘイリーは敗北演説で、敗北を喫したもののまだ勝利の可能性を残しており敢然と前進するのみと訴えていた。しかし、具体策はなく美辞麗句を並べただけだった。本当に彼女はサウスカロライナ州以降も選挙戦を続けるつもりなのだろうか。撤退するような気がしないでもない。しかし、今のところ、彼女は「ドナルド・トランプと競う最後の 1 人」であることを自負している。また、11 月の大統領選で共和党指名候補としてジョー・バイデンに対抗できるのは、不法行為と混乱のイメージのあるトランプではなく、自分だけであると主張している。

 確かに、彼女の主張には一理ある。ニューハンプシャー州の結果は、11 月の大統領選でトランプのジョー・バイデンに対する容易な勝利を示唆するものではなかった。ヘイリーのニューハンプシャー州での得票率は 40% 以上で、これは共和党がいかに分裂しているかを示している。出口調査でヘイリーに投票した者の多くが、大統領選挙ではトランプに投票したくないと答えている。実際、ヘイリーを支持した理由で最も多かったのは、トランプへの反発だった。CNN の出口調査では、共和党の予備選挙有権者の 47% が、トランプは現在直面している 4 つの刑事事件のいずれかで有罪判決を受けた場合、大統領にふさわしくないと答えた。いくつかの主要な激戦州では、共和党支持者のごく一部がトランプへの投票を拒否するだけでも、トランプは敗北を喫する可能性が高い。それは実際に 2020 年に起こったことでもある。

 火曜日( 1 月 23 日)に結果が出る前、ジョン・マケインの娘メーガンが、2000 年のニューハンプシャー州予備選で圧倒的な支持を集めていたジョージ・W・ブッシュに逆転勝利した後、喜びを爆発させた亡き父の有名なタイム誌の表紙を X に投稿した。そこには「マケインの反乱 (McCain Mutiny)」という見出しがあり、「共和党予備選で番狂わせを起こした内幕」との文言があった。ニューハンプシャー州での番狂わせと言えば、2008 年の民主党予備選も有名である。ヒラリー・クリントンが、勝利が確定した直後に有権者の 1 人と泣きながら抱き合っていた。事前の世論調査ではバラク・オバマに大差をつけられていたが、奇跡的な大逆転だった。オバマは、ヒラリーが事前の対話集会で苦しい胸の内を吐露し目をうるませていたことを受けて、「選挙戦は大変なものだ」と話す余裕を見せていた。

 しかし、その 2 つの予備選での大逆転劇が示唆しているわけだが、ニューハンプシャー州で勝利した者が必ずしも大統領候補に選ばれるわけではない。前述の 2 例では、いずれも圧倒的不利の事前予想を覆す大逆転勝利を収めたわけだが、結局のところ指名争いでは勝てなかった。ジョン・マケインもヒラリー・クリントンも敗れた。今回、ニッキー・ヘイリーは大逆転勝利を期待していた。実際、彼女の選挙キャンペーンはそれを前提にしていたのだ。しかし、番狂わせは起きなかった。

 火曜日( 1月 23 日)にマンチェスター(ニューハンプシャー州)で行われたインタビューで、 CNN のダナ・バッシュはヘイリーに、トランプが大統領にふさわしいと思うか尋ねた。「もしそうなら、私は立候補していない。」とヘイリーは答えた。

 もちろん、バッシュは最も重要な質問もしている。撤退するか否かを聞いた。その答えは以前と同じで、撤退することはないというものだった。しかし、いずれヘイリーは撤退せざるを得なくなり、トランプ支持に回るだろう。結局のところ、共和党議員の中には、正面切ってトランプ批判を繰り広げて挑戦する人物はいなかったのである。ハリスもデサンティスもラマスワミもスコットも 11 月にはトランプ大統領を応援し投票するだろう。そうする理由がある。「カマラ・ハリスが大統領になるのだけは阻止しなければならない。」とヘイリーは言った。「考えただけでもゾッとする」。大統領選はどうなるのか。まだまだ先は長い。♦

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