The A.I. Bubble Is Coming for Your Browser
AIバブルがブラウザに到来
Artificial-intelligence startups, like the makers of the “smart” web browser Dia, are being acquired for vast sums. But it’s not yet clear which products can transcend the hype.
スマートウェブブラウザ「Dia」の開発企業を始めとして、人工知能(AI)関連のスタートアップ企業の巨額の買収が続いている。しかし、どの製品が期待を上回る成果を上げられるかはまだわからない。
By Kyle Chayka September 24, 2025
カリフォルニアのゴールドラッシュにまで遡るビジネスの格言がある。金を見つけて大金を得るよりも、鉱夫を焚きつけてツルハシやスコップを売って金を儲ける方が簡単、というものである。AI は現在、まさにツルハシとスコップの段階にある。この格言における金は汎用人工知能( artificial general intelligence )である。人間より数段賢い機械であり、デジタル上の神の領域でもある。多くのハイテク企業がツルハシやスコップの代わりに、汎用人工知能を創り出すためのツールのグラフィックス処理装置( graphics-processing )、データセンター( units, data centers )、訓練済みの AI モデル( trained A.I. models )などを買い漁っている。この争奪戦こそが、マーク・ザッカーバーグ( Mark Zuckerberg )が 24 歳の AI 研究者をメタ( Meta )で働くために 2 億 5 千万ドルを支払っている理由であり、 OpenAI の CEO サム・アルトマン( Sam Altman )が、同社がインフラ構築に「数兆ドル( trillions of dollars )」を費やすと述べる理由である。また、グーグル( Google )が AI コーディングツールであるウィンドサーフ( Windsurf )を開発したコーディアム( Codeium Inc. )のリーダーや研究スタッフの一部を雇い入れ、その技術のライセンスを取得するために 25 億ドル近くを費やした理由でもある。ハイテク業界では、サンフランシスコは新たな AI ゴールドラッシュの熱狂の渦中にあるという声をよく聞く。しかし、金鉱はいまだに見つかっていないのである。主要な生成型 AI 関連企業はいずれも採算が取れていない。何のために競い合っているのか。各社が、藁をも掴む思いで、何かしら、とにかく何でもいいから、うまくいくものを見つけ出そうとしのぎを削っている状況である。
ジラ( Jira )やトレロ( Trello )などの職場生産性ソフトウェアを展開する複合企業アトラシアン( Atlassian )が、直近でニッチな AI スタートアップ企業のブラウザ・カンパニー( Browser Company )を 6 億ドル超で買収した。この行為にも、何をすることが正解なのかがわからない状況が影響している。多くのテック企業の買収は価値のあいまいな株式で行われるが、この買収は現金で行われた。ただし、その製品を取り込められれば確実に勝ち馬に乗れるという保証は何も無い。ブラウザ・カンパニーの主力製品である AI 搭載のスマート・ウェブブラウザのディア( Dia )は、買収前は一般公開されていない。招待制でアクティブなベータテスター( beta tester )となった者の数は 10 万にも満たない。それでも、アトラシアンの経営陣は、必要な投資であると判断している。というのは、テック業界の誰しもが、将来的には AI が日常生活のあらゆる場面でシームレスに関与することを望んでいるからである。ブラウザ・カンパニーの共同創業者であるジョシュ・ミラー( Josh Miller )は語る。「現在、 iPhone アプリに相当するものを見つけ出すための競争が繰り広げられている」。
AI バブル( A.I. bubble )は、ある意味でドットコムバブルと似ているところもある。しかし、フォーブス( Forbes )誌の最近の記事が指摘しているように、AI‗バブルは「数字は 10 倍も大きく、燃え尽きるスピードも速い」。チャット GPT ( ChatGPT )などのサービスは数億人のユーザーを抱え、AI 業界はすでにアメリカ経済に大きな影響を与えている。今年の第 2 四半期の GDP は 3% 増加したが、その内のほぼ半分を AI 関連の設備投資が占め、データセンター建設投資額はオフィス建設投資額を上回る勢いを見せている。AI 推進派でさえ認めているように、何らかの市場調整は避けられず、現在の株式市場の保ち合い状態は縮小の兆候かもしれない。多くの AI スタートアップ企業の中から 1、2 社が新たなアップル( Apple )やグーグル( Google )になる可能性がある。しかし、残りは跡形もなく消えてしまうだろう。「これから無数の企業が次々と閉鎖される冬がまもなくやって来る」とミラーは語る。ディアが参入している AI ブラウザ市場に関しては、「今後 12 カ月以内に勝者が決まるだろう」と付け加える。
ディア( Dia )は、ブラウザインタフェイスのあらゆる側面に AI のインタラクション機能を組み込み、ウェブ上の遷移方法を再定義することを目指している。現時点で巷に存在しているチャット GPT ( ChatGPT )などの AI ツールは独自のウィンドウで動作するものばかりである。スクリーン上の他のアクティビティとは完全に独立して機能する。ディア( Dia )では、電子メールからオンラインショッピング、メディアプラットフォームまで、どのサイト、どのサービスでも AI チャットと生成ツールを利用することができる。AI が、ユーザーが検索している情報を認識して解釈する。それがどのタブでもシームレスで共有されて活用される。たとえば、ユーザーが閲覧した無数の Amazon リンクについて、ディア( Dia )に要約してメールで送信するよう依頼することができる。同社が「自動運転( self-driving )」と呼ぶ計画中のエージェント機能を使用すれば、AI にユーザーの代わりに商品を購入させることもできる。ディアはユーザーが閲覧した内容を記憶しており、「ユーザーについて多くのことを認識する」とミラーは述べる。また、カーソル内にテキストを生成する機能を実装しているため、いつでも AI に質問し、提案をもらうことができる。このモデルは、同社が新型コロナのパンデミック時に開発し、2022 年にリリースした新しいウェブブラウザ「アーク( Arc )」をベースにしている。アーク( Arc )の初期ユーザーにとっては残念なことだが、今年初めにディアの導入のためアークの開発は中止された。
アトラシアンの CEO 兼共同創業者であるマイク・キャノン=ブルックス( Mike Cannon-Brookes )は、アーク( Arc )のユーザーでありファンであることから、ブラウザ・カンパニー( Browser Company )の買収に興味を持った。彼が最も興味を持ったのは、そのブラウザのインターフェイスが AI を非常に身近に感じさせる点である。既存のブラウザのほとんどは既存のソフトウェア上に AI 機能を搭載するものばかりであった。キャノン=ブルックスが主張するように、「ほとんどの新技術と同様に、古い設計をそのまま適用しても、実際にはうまく機能しない」。AI ユーザーエクスペリエンスの未来がどうなるかは誰にもわからない。現時点では、多くの企業がアプリの片隅に AI ツールを無造作に埋め込んでいるわけだが、それに対する一般大衆の関心は限定的である。私たちの多くは、いまだに AI を無視している。それは、1990 年代に無分別に開きまくったポップアップウィンドウを無視したのに似ている。こうした状況を変えるべく、先週、グーグルは、クロム( Chrome )の大規模アップデートを発表した。AI に特化したものであった。これによりディアと非常に酷似したものになった。起業初期のスタートアップ企業 The49 のマーケティング責任者、ジョシュ・スタット( Josh Stutt )は、「当社が認識している資金よりも、それはユースケース( use cases )等を想定して算出したものであるが、はるかに多くの資金が投入されている」と語る。各社が、無造作にスパゲッティを鍋に放り込むように資金を投下するような感覚で投資している。スタートアップ企業の創業者の中には、新世代のザッカーバーグ( Zuckerberg )を目指し、自ら巨大なテック企業を率いることを目指す人もいるかもしれないが、「彼らの多くは一発屋的にクールなものを作りあげて、それを売却して、それで終わりにしようと考えている」とスタットは述べる。つまり、バブルが崩壊する前に、ツルハシとスコップを売りまくって作った会社を売却する時期が来ているのかもしれない。
この戦略がうまくいくこともある。グーグルは 2006 年に YouTube を買収した。当時、YouTube は今日のような巨大な存在ではなかった。フェイスブック( Face Book )は 2012 年にインスタグラム( Instagram )を買収した。当時、インスタグラムのユーザー数はわずか 3 千万人だった。現在では 20 億人を超えている。シリコンバレーの大手テック企業による企業買収は、ユーザーのテクノロジー体験の未来を形作る力を持っている。それには 理由がある。買収された企業や事業が大きな成果を上げると、こぞって同業他者が模倣するからである。また、買収を行った企業はその投資を価値あるものに見せようとする動機があるということもある。現在、買収はマーケティングの一形態となっている。アトラシアンのような株式上場企業が企業買収を実施することが多いわけだが、それは、自社で独力で開発するとなると苦戦するかもしれない AI 分野に進出する意思を明確に示す意味合いも強い。シリコンバレーの古参企業とは異なり、新世代のスタートアップ企業は AI ネイティブ( A.I.-native )で、新たなテクノロジーを巧みに活用する術に長けている。ちなみに、AI ネイティブとは、AI 技術が日常や社会に深く浸透した環境で育ち、AI を自然に活用できる世代や個人、または AI を前提として設計・構築されたシステムや企業を意味する。さて、従来のコーディングによるプログラミングは、論理ルールに縛られた単純で直線的なプロセスである。アンスロピック( Anthropic )を含む主要 AI スタートアップ企業数社に投資するスパーク・キャピタル( Spark Capital )の代表組合員のヤスミン・ラザヴィ( Yasmin Razavi )は、AI を使ったプログラミングは「ビールや紅茶キノコ( kombucha )の醸造」に似ていると語る。同じ材料から異なる結果が生まれることもあり、AI モデルの内部構造は開発者自身にも理解できないという。著名な AI 研究者イーサン・モリック( Ethan Mollick )は先日、 AI を使うことは、魔法使いと仕事することに似ていると語った。本当に AI がどのように機能するかを理解している者など存在していないのかもしれない。だから、多くのテック企業は競い合うように AI に詳しそうに見える人物や企業を買収したがるのである。
現在の AI の状況を俯瞰的に見ると、大きな衝撃を受ける。すでに一部の職業は AI テクノロジーによって破壊的な変革を余儀なくされている。特にコーディングは自動化が進んでいる。現在、市井の一般的なユーザーの多くが チャット GPT ( ChatGPT )と戯れている。革新的な機能を謳い文句にしながらも実際にはほとんど何も実現していない企業からのマーケティングメッセージに辟易している。例えば、2024 年にアップル( Apple )が発表した iPhone 16 は、デバイス全体に AI を搭載することを目指していたものの、失敗作と広く見なされている。一方で、ツルハシやスコップの新製品は次々と発売されている。AI が進化して、素晴らしいデバイスやアプリが開発され、誇大宣伝と揶揄される状況が打破される日は来るだろうか。スマートフォンのように誰もが気軽に AI を使う日が来るだろうか。もし、そんな日が来るとしたら、誰が勝者になっているだろうか?♦
以上
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