バイデン政権は、反トラスト法を駆使して大企業の寡占化を防ぐべく日夜闘っている!

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Why the Biden Administration Is Suing Apple and Investigating Big Grocers
バイデン政権がアップルを提訴し、大手スーパーを調査している理由

A new generation of trustbusters is trying to use anti-monopoly laws to roll back concentrations of economic power.
司法省反トラスト局は独占禁止法を駆使して企業の寡占化を防ごうとしている。

By John Cassidy  March 25, 2024

 先週、司法省反トラスト局( The Department of Justice’s antitrust division )
は、アップル( Apple )を反トラスト法(独占禁止法)に違反したとして提訴した。同社がスマートフォン市場と関連サービスを独占していると説明し、大きな話題となっている。司法長官のメリック・ガーランド( Merrick Garland )は、ワシントンで行われたブリーフィングで、「アップルがスマートフォン市場で独占的な力を維持してこれたのは、純粋に競争で優位に立ったからではなく、反トラスト法に違反する行為を続けてきたからである」と指摘した。同じ頃、こちらはあまり注目されなかったわけだが、公正な取引を監督するもう 1 つの政府機関である連邦取引委員会( the Federal Trade Commission )が、アメリカで最も寡占が進んでいる業界である食料品業界に関する報告書を公表した。それによれば、一部の食品小売業者は、新型コロナパンデミックに伴うサプライチェーンの混乱に便乗して納入業者に無理を言った上、自らの利益を増やすために販売価格を過剰に吊り上げたという。公正取引委員会委員長のリナ・カーン( Lina Khan )は、報告書の公表に伴って出した声明の中で、寡占状態にある小売業者の多くが「競合他社や顧客に不利益を被らせた上で、新型コロナの混乱に乗じて優位に立とうとした」と述べた。

 バイデン政権は、市場支配力を武器にして顧客や市場全体に不利益をもたらし、過剰に利益を得ている大企業を取り締まろうと躍起である。それを率先してやっているのは、カーンと司法省反トラスト局トップのジョナサン・カンター( Jonathan Kanter )である。このキャンペーンは、容易なものではなく成果がたくさん出たわけでもない。公正取引委員会は、マイクロソフトによるゲームソフト大手のアクティビジョン・ブリザード( Activision Blizzard )の買収阻止に向けた取り組みで敗訴した。しかし、多くの取引を頓挫させることに成功している。世界最大の出版社であるペンギン・ランダム・ハウス( Penguin Random House )によるサイモン&シュスター( Simon & Schuster )の買収や、アメリカン航空( merican Airlines )とジェットブルー( JetBlue )の提携などである。いずれにせよ、積極的に公正な競争環境の維持に取り組むことは現政権の特徴の 1 つである。ジョー・バイデンが大統領に再選された場合、それは確実に継続されるだろう。

 バイデンは 2020 年に大統領に選出された後、カーンやカンターなどを要職に就けて強力に反トラスト法違反を監視し始めた。20 世紀初頭に、最高裁判事であったルイス・ブランダイス( Louis Brandeis )は寡占化による弊害を指摘し、鉄道運輸の独占等に反対した。カーンとカンターは、新ブランダイス派と呼ばれている。また、バイデンは閣僚とさまざまな政府機関の長が参加するホワイトハウス競争評議会( the White House Competition Council )を設立した。これまでバイデンは企業に対して厳しい姿勢をとったことはほとんどなかった。しかし、2021 年 7 月に「競争なき資本主義は搾取である( Capitalism without competition isn’t capitalism—it’s exploitation. )」と宣言し、ブランダイス同様に寡占化を是としない姿勢を示した。先日、彼は大企業が価格を吊り上げ、余分な料金を上乗せし、価格を維持して正味重量を少なくしていることを批判した。ちなみに、価格を上げずに中身を減らすことはシュリンクフレーション( shrinkflation )と呼ばれる。

 バイデン政権は反トラスト法違反の監視を強化している。覚えている方も多いと思うが、バイデンは先日の一般教書演説でスニッカーズが小さくなったことに言及していた。それを受けてスニッカーズを製造しているマース( Mars )はそうした事実は無いという声明を出さなければならなかった。バイデン政権はスニッカーズに関わらずさまざまな分野に目を向けている。カンターやカーンらは、寡占化はテクノロジー分野だけでなくあらゆる分野で進んでおり、非常に深刻な問題で、司法当局と行政が協力して積極的に対処する必要があると主張している。司法省反トラスト局によるアップル訴訟と、公正取引委員会による食料品業界に関する報告書は、寡占化の進行による弊害が大きいことを示唆するものである。

 先週の記者会見でカンターは、アップルの提訴について説明する際に、過去の反トラスト法に違反した案件を引き合いに出した。 スタンダード・オイル( Standard Oil )、AT&T、マイクロソフト( Microsoft )の 3 社である。ビル・クリントン大統領時代の 1998 年、司法省はマイクロソフトを提訴した。同社がオペレーティングソフト市場での支配力を悪用し、パソコンメーカーに対して Windows 95 とインターネットエクスプローラー( IE )を一括購入することを強制することによって、ウェブブラウザー市場で強固な地位を築いたと訴えた。司法省の主張によれば、この手法は不当に消費者の選択肢を奪うもので、イノベーションを阻害するという。今回のアップルの提訴でも司法省は同様の主張をしている。アップルが技術的な制限や制限的な契約を駆使して、スマートフォンのユーザーやアプリケーション開発者を独自のエコシステム内に囲い込み、高い価格や料金を請求できるようにしているとの主張である。「今日、我々は再びここに立ち、次世代テクノロジーの競争とイノベーションを保護する。」とカンターは語った。

 司法省が連邦地裁に提出した訴状では、アップルの膨大な社内文書を調査した結果、同社が市場支配力を強化・維持するために数々の戦術を駆使していたことが詳述されている。その中には、iPhone ユーザーがクラウドベースのゲームをダウンロードすることを制限したこと、他のテキスト・メッセージングアプリのユーザーに同社の iMessage の暗号化されたプロトコルを使わせないようにしたこと等が含まれる。また、アプリ配信の優越的な地位を利用して、iPhone ユーザーがスーパーアプリ( super apps )を使うことをブロックしたことも含まれる。スーパーアプリを使うと、 1 つのアプリ内で数多くのオンライン活動(ショッピング、各種支払処理、チャットなど)を行える。また、その訴状によれば、アップルの経営陣は iPhone ユーザーがスーパーアプリをダウンロードすると、安価なスマートフォンに乗り換えやすくなることを懸念していたという。この案件に関して、同社の幹部の 1 人がスーパーアプリの使用を許可することは「獰猛な競合他社を城壁の中に招き入れることに等しい」と発言したことが明らかになっている。

 公正取引委員会の報告書に詳述されている内容を読むと、反トラスト法違反で提訴された企業の多くは技術革新を阻害する恐れがある点が問題となっているわけではないことが分かる。もっぱら問題となっているのは、規模の巨大さである。報告書には、1990 年から 2019 年の間に 4 大食品スーパー合計の市場シェアは 15% から 30% 超に上昇したとの記述がある。食品スーパー大手 3 社のクローガー( Kroger )、ウォルマート( Walmart )、アマゾン( Amazon )と、食品卸売業者大手 3 社のアソシエイテッドホールセールグローサーズ( Associated Wholesale Grocers )、C&Sホールセールグローサーズ( C&S Wholesale Grocers )、マクラーレンカンパニー( McLane Company )と、食品メーカー大手 3 社のクラフト・ハインツ( Kraft Heinz )、タイソン・フーズ( Tyson Foods )、プロクター・アンド・ギャンブル( Procter & Gamble )などが過去に提訴された。

 新型コロナパンデミックの際に、大手小売業者は取り扱っている商品の大幅な不足と原料価格上昇に見舞われた。そこで、自社の規模を背景にして納入業者に圧力をかけ、小規模な競合他社よりも自社を優先して納入するよう強制した。その上で、増えたコストをカバーするために価格を引き上げた。公正取引委員会の報告書にはそのことが詳細に記されている。報告書は、値上げしたこと自体は問題とはしていないのだが、大手小売業者がコスト上昇分を単純に価格に転嫁する以上のことをしていたことを示す確度の高い証拠を示している。大手小売業者は値上げをした上で、利益率を 2015 年の 5.6% から 2021 年には 6.0% と大きく伸長させている。その後もその数字をさらに伸長させている。インフレ率がすでに低下していた 2023 年の最初の 9 カ月では 7.0% に達した。「こうした利益率の上昇は、大手小売業者が商品価格の上昇は単純にコスト上昇分を転嫁しただけであるとする主張に疑問を投げかけるものである。」との記述が報告書にある。また、この問題をさらに深く調査する必要があると議会等に求めている。

 アップルは、「司法省による訴えが認められれば人々がアップルに期待するテクノロジーを創造する能力は損なわれる」とする声明を出した。独立系食料品店で組織される全米食料品店協会( the National Grocers Association )は、公正取引委員会の報告書に反応し、「大手小売業者が強大なバイイングパワーを背景にして、公正な競争を阻害し、アメリカの消費者の利益を害していることは周知の事実である。」と主張している。アマゾンとウォルマートは、コメントの要請に応じなかった。クローガーの広報担当者は電子メールを返送してきた。この報道に対して同社が公に回答することはないという。クローガーは、競合しているアルバートソンズ( Albertsons )と合併することで規模を拡大しようと画策している。しかし、先月、公正取引委員会はそれを阻止するために提訴した。

 反トラスト法違反の訴訟が非常に時間がかかることを考慮すると、アップルの訴訟が結審するのは、おそらく大統領選が終わった後であろう。AT&T の解体につながった司法省の反トラスト法訴訟は 8 年、マイクロソフトの訴訟は和解が成立するまで約 3 年半かかった。とはいえ、司法省と公正取引委員会が直面している最大の課題は時間ではない。最大の課題は、アメリカの司法制度である。過去半世紀にわたって、多くの裁判官が反トラスト法訴訟では厳格な消費者厚生基準( strict consumer-welfare standard )を適用してきた。これは、ある企業の取引や合併が価格上昇につながったか、あるいはつながる可能性が高いことを司法省が示さなければならないことを意味する。特に、多くのアプリやサービスが無料で提供されているハイテク業界では、この基準を適用することは非常に困難である。2004 年のトリンコ( Trinko )判決でも連邦最高裁は、企業が潜在的な競争相手と取引する義務があるべきだという主張に対して懐疑的であった。

 アメリカの反トラスト法は、1890 年制定のシャーマン法( the Sherman Act )と 1914 年制定のクレイトン法( the Clayton Act )と1914 年制定の連邦取引委員会法(Federal Trade Commission Act)の 3 つの法律の総称である。価格操作やその他のあからさまな反競争的な協定に関連するもの、マイクロソフトがインターネット・エクスプローラー・ブラウザで採用したような抱き合わせ販売の強要など、多くの場合においてこれら 3 つの法律は十分に役割を果たしている。しかし、これらの法律は今日の情報化社会に対応して作られたものではないので、21 世紀に対応すべく修正する必要がある。近年、欧州連合(EU)はデジタル市場法( Digital Markets Act )とデジタルサービス法( Digital Services Act )を導入し、アプリ開発企業や他の企業に対して、プラットフォーム提供企業をよりオープンにするためのルールを明確にした。また、市場支配力の強い企業に対する新しいガイドラインも定めている。連邦議会が膠着状態にあることを考えると、アメリカで同様の法律が制定される見込みはほとんどない。このような厳しい環境で、反トラスト法違反を取り締まる者たちは、さまざまな案件を粛々と調査して提訴し法廷に持ち込むしかない。そこで自分たちの主張を展開して世論を味方に付けるしかない。それが現在彼らのやっていることである。♦

以上