中国遠洋漁業船団の闇 人身売買、役身折酬、暴行、不法行為が蔓延している!俺、イカを食うの止めるわっ!

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 コロンブスが大航海に出発する100年前、中国は海を支配していた。15 世紀、中国の皇帝は、軍艦、騎馬輸送船、絹や磁器を積んだ商船を含む宝船船団をインド洋の大海原に送り込んでいた。船団の各船は木造船だったが、当時最大級の大きさで、優れた舵を備え、甲板の両舷側に舷牆が付くなど、ヨーロッパの技術よりも何世紀も先んじた革新的な設備を備えていた。この船団の規模を超えるものの登場は、第一次世界大戦の海軍まで待たねばならなかった。しかし、明の時代には政情が不安定になり、中国は内向きになった。16世紀半ばには、多檣船での航海は禁じられた。船団の派遣が為されなくなり、中国の支配力は失われていった。「中国が海を支配していた時代(When China Ruled the Seas:未邦訳)」の著者ルイーズ・レバセス(Louise Levathes)が私に語ったように、「中国が最も外に膨張した時代の後には、中国が最も孤立した時代が続いた」。

 20世紀の大半において、ソ連、日本、スペインが遠洋漁業(その多くは公海上で行われた)を支配してきた。しかし、ソ連の崩壊と環境・労働規制の拡大により、それらの国の漁船団は縮小していった。しかし、1960年代以降、冷凍技術、衛星通信技術、エンジン性能、レーダーなどが飛躍的に進歩した。今や遠洋漁船は、陸に戻らずに2年以上も海上にとどまるようになった。その結果、世界の水産物消費量は5倍に増えた。

 イカ漁は、アメリカ人のイカ消費量が増えるとともに成長した。1970年代初頭まで、アメリカ人が食べるイカの量はごく少量だった。海辺のニッチなレストランで食べられているだけだった。しかし、乱獲によって水産資源が枯渇するにつれ、アメリカ連邦政府は漁業従事者に、まだ資源が豊富だったイカに重点を移すことを奨励した。1974年、ポール・カリックスタイン(Paul Kalikstein)というビジネススクールの学生が修士論文で、イカにパン粉をまぶせばアメリカ人は好んで食すだろうと記していた。イカをイタリア語のカラマリ(calamari)と呼んで拡販しようとする業者も出てきた。不思議なものでカラマリと呼ぶだけでグルメなイメージが醸し出せる。ちなみに、イカ(Squid)という語は、イカ墨を意味するスクワート(Squirt)の船乗り訛りが転じたものと考えられている。1990年代には、中西部でチェーン展開しているレストランがイカを提供するようになった。今日、アメリカでは、年間10万トンのイカが食べられている。

 中国は1985年、国営企業の中国国家漁業総公司(the China National Fisheries Corporation)がギニアビサウ(Guinea-Bissau)沿岸に13隻のトロール船を派遣し、初の遠洋漁業船団を発足させた。それまで、中国の漁業者はもっぱら自国の近海で積極的に操業していた。1960年代以降、中国の水産物生物資源量(seafood biomass)は90%も減少した。同社の張燕西(Zhang Yanxi)総経理は、「世界の遠洋漁業大国の仲間入り」することで、国の財政を潤し、雇用を創出し、食料を提供し、海洋権益(maritime rights)を守ることができると主張する。中国政府は、共産党のエリートを含む1,000人以上の出席者を集めて、最初の船団の進水式典を盛大に行った。そこで流されたビデオで、乗組員たちは「新たな地平を切り開く勇敢な223人の先駆者」として紹介された。

 それ以降、中国は遠洋漁業に多額の投資を行ってきた。現在では、遠洋漁業での漁獲量は年間50億ポンド(227万トン)を超えている。その大部分はイカである。中国の水産業は350億ドル以上の規模があると推定される。世界の水産物の貿易額の5分の1を占め、1,500万人の雇用を創出している。中国の水産業関連企業の大部分は国が所有している(イカ漁関連企業がその20%を占めている)。それ以外の企業は、海外漁業協会(the Overseas Fisheries Association)が監督している。現在、中国は世界の魚の3分の1以上を消費している。

 また、中国の遠洋漁業船団は、中国政府の国際的影響力の拡大にも寄与している。一帯一路構想(Belt and Road Initiative)の一環として、中国は多くの港湾を建設してきた。これは世界規模でのインフラ投資計画である。南米、サハラ以南のアフリカ、南アジアでは、中国がインフラ投資関連の最大の資金提供者となっている。その資金で作られた港湾では、中国漁船は税金を免れ、面倒な検査を回避することが可能である。また、巨額投資によって、中国政府の影響力も高まっている。2007年、中国はスリランカ(Sri Lanka)に港湾施設の建設費として3億ドル以上を融資した(中国国営企業の1つが建設を請け負った)。2017年、スリランカは債務不履行寸前となり、その港湾と周辺地域の支配権を中国に認める契約を結ぶことを余儀なくされた。期間は99年である。

 軍事アナリストの多くが、中国は遠洋漁業船団を軍事目的の監視のために利用していると考えている。2017年に中国は民間人および民間企業に中国の諜報活動(intelligence efforts)への支援を求める法律を制定した。多くの港湾で、LOGINKという中国交通運輸部が管理する貨物データシステムが採用されている。それは周辺地域の船舶や物品の動きを追跡している。米中経済安全保障審査委員会(the U.S.-China Economic and Security Review Commission)のメンバーであるマイケル・ウェッセル(Michael Wessel)は、私に言った、「そうした情報が中国に渡るのは、米国にとってとても危険である」と。なお、中国共産党は、アメリカが中国に対してますます偏執的になっているのは周知の事実であるとして、こうした懸念を一蹴している。

 中国はまた、自国の遠洋漁業船団が紛争海域に入ることを奨励している。ラルビーは海上安全保障にも詳しいが、「中国は、遠洋漁業船団を存在させることで、いずれその海域をある程度主権的に支配できると考えているようだ」と私に語った。船団の中には漁船に見せかけているが、実際には専門家が 「海上民兵(maritime militia)」と呼ぶものもある。戦略国際問題研究所(the Center for Strategic and International Studies)が収集した情報によると、中国政府はそうした船の所有者に1日4,500ドルを支払い、1年の大半を紛争海域に留まらせている。衛星データによれば、昨年は数十隻の漁船が台湾海域で違法な操業を行っていた。南シナ海(South China Sea)の紛争海域では200隻の漁船が操業している。これらの漁船は、最近のアメリカ議会調査局(Congressional Research Service)の調査で「戦争に至らず強制力を行使する ”グレーゾーン 作戦(gray zone operations)”」の実行を助けている。こうした漁船は、中国の石油・ガス調査船を護衛し、物資を届けたり、外国船を妨害している。

 中国の退役上級大佐である周波(Zhou BO)は先日、この種の衝突は米中戦争の火種になりかねないと警告した。中国政府はこの件に関するコメントを拒否している。しかし、中国外交部の毛寧(Mao Ning:マオ・ニン)報道官は以前、中国には自国の領土と領海を守る権利があると主張している。アメリカ戦略国際問題研究所(CSIS)のグレッグ・ポリング(Greg Poling)上級研究員は、紛争海域の領有権を獲得することは、台湾を支配下に置くことと同じプロジェクトの一部であると指摘する。彼によれば、これらの漁船の目的は、失われた領土を取り戻し、中国がかつての栄光を取り戻すことにあるという。