Letter from Biden’s Washington
The Great Washington Meltdown of 2024 Has Begun
2024年 ワシントンは機能不全に陥っている
As Congress continues to delay aid and Volodymyr Zelensky replaces his top commander, military experts debate the possible outcomes.
議会が援助を遅らせ続け、ヴォロディミル・ゼレンスキー氏が最高司令官を交代させる中、軍事専門家らは起こり得る結果について議論している。
By Keith Gessen
February 15, 2024
その顛末は、見ていて痛々しいものだった。水曜日( 2 月 8 日)、上院共和党がウクライナ支援と国境警備強化を盛り込んだ重要な法案に反対した。法案が頓挫することが決定的となった。昨年から超党派で検討してきたものだった。頓挫した影響は小さくない。同盟国に対するアメリカの信頼は著しく失墜した。共和党指導部の信頼も著しく損なわれた。勝者はどこにもいない。ほくそ笑んでいるのはドナルド・トランプだけである。彼は上院の共和党議員に対して、自らの意志に反してでも法案に反対するよう要求していた。既にウクライナ軍は存亡をかけたロシアとの戦いでほとんど弾薬を使い果たしている。直接の原因は、バイデン大統領が数カ月前に要請した数十億ドルの軍事支援案が否決されたことにある。
「ドナルド・トランプの指示に従って意思表示するだけの者に、上院議員を務める資格があるのでしょうか?」と、上院歳出委員会委員長を務めるパティ・マレー( Patty Murray:ワシントン州選出)は議場で共和党議員に呼びかけた。この混乱に苦言を呈する者は他にもたくさんいたが、彼女のコメントは最も的を得たものだった。当面の間、トランプは共和党の大統領選候補というだけでなく、事実上の上下院共和党の指導者と考えた方が良いだろう。
トランプは何故この法案の成立を阻止したかったのか。理由は、自身が出馬する大統領選で国境問題を争点の中心に据えたいからである。ただ単に、バイデンを口撃するためだけに、国境問題を利用したいのである。この法案は、重要なパートナーであるウクライナ及びイスラエルへの支援と国境警備強化がパッケージとなったもので、そもそも共和党ジェームズ・ランクフォード議員(オクラホマ州選出)も作成に携わっていたのだ。それなのに、共和党員でランクフォード以外に賛成票を投じたのはわずか 3 人だった。ランクフォードは、党内では保守派として知られる人物で党から交渉の指揮を任されていた。他に賛成票を投じたのは、スーザン・コリンズ( Susan Collins:メイン州選出)、リサ・マーカウスキー( Lisa Murkowski :アラスカ州選出)、のミット・ロムニー( Mitt Romney:ユタ州選出)である。3 人が同法案に賛成票を投じたのは偶然ではない。3 人はトランプが大統領在任中も、その政策に一貫して反対してきた。彼らは共和党の綱領の下に団結しているのではない。他の同僚議員たちがトランプを支持する世論が強いことに圧倒されている中、トランプの指示にカルト的に同調することを拒否することによって団結しているのである。
残念なことに、上院共和党のトップを務めるミッチ・マコーネル( Mitch McConnell )院内総務も、反対票を投じた。ミッチ・マコーネルは、上院史上最も長く院内総務を務めた人物である。このポストに長く留まることはないだろうということが、明確に示されたと言って良い。自分の属する党の指導者から見放されるほど情けないことはない。ランクフォードは、そもそも好き好んで党議に背くような人物ではない。自分の状況を、雷雨の中、原野に 1 人で立ち、荒れ狂う空に向かって棒を振るって闘う男のようだと例えた。トランプが共和党を牛耳って以降の 8 年で、そうした光景はそれほど珍しいものではなくなった。とはいえ、大の大人が辱めを受けるという光景を見るのに慣れることはない。いつ見ても辛いものである。それは 1 人の人物によってもたらされているのである。
一部始終を世界中が見ていた。たまたまドイツのオラフ・ショルツ( Olaf Scholz )首相がワシントンに短期訪問した前夜の出来事だった。彼は、アメリカが見てのとおり機能不全に陥っていることを十分に認識しただろう。彼が訪米した理由はウクライナ支援の重要性を訴えることであった。ロシアのウラジミール・プーチンの勝利を何としてでも阻止しなければならないのである。プーチンが勝利すれば、「冷戦時代よりもさらに不安定で、脅威的で、予測不可能な世界」になると警告している。ポーランドのドナルド・トゥスク( Donald Tusk )首相はもっと率直に意見を述べた。ウクライナよりもトランプを選んだ共和党議員たちをあからさまに批判した。「親愛なるアメリカの共和党上院議員たちへ。」と彼は木曜日( 2 月 8 日)に SNS に投稿した。「ロナルド・レーガン( Ronald Reagan )は、我が国が自由と独立を取り戻すのを助けてくれた。今、彼は墓の中で驚き悲しんでいるはずである。己の行為を恥ずべきだ」。足元で起こっている出来事は、遠くから俯瞰して観る方が正しく把握できるものである。
木曜日( 2 月 8 日)の正午に上院が再開された。最初に行われたのは、950 億ドルの対外支援に関する修正案を審議するか否かを問う再投票だった。否決された案から国境警備強化に関する条項が削除されていた。水曜日( 2 月 7 日)にはわずか 2 票差で否決されたが、今回は十分な数の共和党議員が賛成票を投じた。賛成 67 票、反対 32 票で審議することが決まった。民主党の上院院内総務のチャック・シューマー( Chuck Schumer )は、これを「最初の一歩」と称し、「仕事をやり遂げるまでこの案に取り組み続ける」と約束した。ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー( Volodymyr Zelensky )大統領は、審議を進めることを決めた上院に感謝のメッセージを送った。しかし、バイデンがこの法案を上院に送ったのは 10 月である。既にかなりの時間を浪費してしまっている。「今日はプーチンにとって悪い日であったが、民主主義国家にとっては最良の日であった。」とゼレンスキーは X に投稿した。
しかし、この法案が下院でどうなるかは見通せない状況である。マイク・ジョンソン( Mike Johnson )下院議長は、上院の共和党議員以上にトランプ寄りである。この法案を採決にかけることすらしない可能性もある。