現在のワシントンの惨状は、さまざまな不具合が重なった結果である。その最たるものは、リーダーシップの不在だと私は考えている。共和党院内総務のマコーネルは現在 81 歳で、昨年 3 月に転倒して以降、衰えが顕著である。上院共和党内では、トランプに同調する勢力が急拡大していることが明らかである。彼らはまだマコーネルを倒すことはできないかもしれないが、もはや公然と彼の追放を求めることを恐れていない。木曜日( 2 月 8 日)に行われた対外支援支出法案の審議可否の採決では、マコーネルを含む 16 人の共和党議員が賛成票を投じたのに対し、31 人の共和党議員(上院共和党議員の 3 分の 2 )が反対票を投じた。トランプにとって、上院共和党内にマコーネル以外に大きな敵は残っていない。マコーネルを排除するためにあらゆることをするだろう。
下院では、ジョンソン議長(共和党)が就任してまだ 100 日しか経っていないが、能力の底が見えてしまっている。火曜日( 2 月 6 日)には共和党が提案した議決案 2 つが立て続けに否決された。非常に無様である。1 つは、バイデンが任命した国土安全保障長官のアレハンドロ・マヨルカスを移民および国境警備に関する法律に繰り返し違反し適切に対応しなかったという理由で弾劾訴追する決議案であった。もう 1 つはイスラエル支援のための法案だった。まともで、より経験豊富な議長であれば、確実に票読みができたはずである。可決できない可能性があることを認識できたはずで、間違ってもそのまま採決にかけることはなかっただろう。今後もジョンソン議長の苦境は続く。共和党は下院で過半数を維持しているが、非常に僅差である。来週、ジョージ・サントス( George Santos:共和党)の経歴詐称等での失職に伴う特別補欠選が行われる。共和党はその議席を失う可能性が高い。下院共和党内の極右勢力は、基本的には議長の言うことなど聞きはしない。制御不能状態である。トランプが少しでも非難をするようになれば、ジョンソンは議長職に留まることができなくなるだろう。
さて、民主党はどうだろうか。81 歳の現職大統領が大統領選での再選を目指すこととなるわけだが、いかんせん人気がない。各種世論調査を見ると、バイデンはトランプに対して良くても互角で、苦戦は免れない状況である。下院では共和党に過半数を掌握されており、重要な法案を容易に成立させることはできない。バイデンの最大の問題は、年齢である。悲しいかな、彼自身ではどうすることもできない問題である。共和党はバイデンの健康不安と職務遂行能力の無さを証明すべくあらゆる手段を講じるだろう。
木曜日( 2 月 8 日)の午後、バイデンが職務遂行能力を欠いていることを吹聴する者が期せずして現れた。2017 年にバイデンが副大統領職を退いた後、自宅と事務所で機密文書を所持していたことを調べるために司法省が任命した特別検察官ロバート・ハー( Robert Hur )である。共和党陣営への力強い援軍となった。特別検察官の報告書によれば、退任後に数百の機密文書を持ち出したとして刑事責任を問われているトランプとは異なり、バイデンが訴追を受けることはない。しかし、この報告書には辛辣な文言が含まれている。おそらく、その部分は共和党全国委員会が書いたと推測される。ハーは、バイデンを 「記憶力に劣る高齢男性」と揶揄した上で、「裁判になればバイデンは、私たちの聴き取りでしたように、思いやりと善意があり、記憶力に劣る高齢男性だという印象を、陪審に与える可能性が高い」ため、有罪にすべきと陪審を説得するのは難しいと結論づけている。バイデンが自分の息子ボー( Beau )の命日や副大統領の任期がいつ終わったかさえ覚えていなかったとの記述もあった。
皮肉なもので、智力の衰えのおかげでバイデンは起訴を免れたわけである。しかし、そのことは世界で最も困難な職務をあと 4 年もこなす能力について疑問を投げかけるものでもある。既に能力をかなり疑問視されていたわけで、追い打ちをかけられた形である。現在、アメリカでは、最も権力を持った男たちが、いずれもかなり弱っているようにしか見えない。♦
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