衝撃!アメリカの小売業で年間に返品される金額合計が1兆ドルに迫る!日本の国家予算より多くない?( ^ω^)

4.返品商品の再製品化

 昨年、アマゾンはCNBC(アメリカのニュース専門放送局)に対し、公式声明の中で、返品商品はゴミ埋立地には一切送られないと述べた。これが本当に意味するのは、アマゾン自体は何もゴミ埋立地には送らないということである。しかし、実際には多くの返品商品がゴミ埋立地に送られている。一部は同社がCNBCに説明した「エネルギー回収(energy recovery)」に転用することで、埋立地行きを回避している。エネルギー回収とは、炉で燃やすことの婉曲表現である。

 返品商品処理業者は、大量の商品を素早く仕分けして売り捌かなければならない。それ以上のことをする会社もある。その1つが、ジョージア州に本社を置くアメリカズ・リマニュファクチャリング・カンパニー(America’s Remanufacturing Company:略号ARC)である。同社は、いくつものブランド企業と契約し、返品商品を受け入れている。可能であればリペア(repair)や磨き直し(refurbish)を行って、ブランド名を変えて販売できるようにする。ちなみに、ARCはアマゾンのいわゆる外部修理業者(external repair vender)の1つでもある。「当社は返品商品を購入しているのではありません。」と、同社の最高収益責任者(chief revenue officer)のポール・アダムソン(Paul Adamson)は私に語った。「価値が落ちたものを購入しているのである」。

 1991年にアダムソンのキャリアを左右するような出来事があった。彼はニューハンプシャー大学(the University of New Hampshire)の2年生だった。ラジオシャック(RadioShack)の店舗でアルバイトをしていた。大手企業に迅速なコンピュータのメンテナンスサービスを提供している会社の社員から電話がかかってきた。それで、特定のパーツがどうしても必要だと言った。アダムソンはそのパーツを直ぐに探し出した。その後もその会社が必要とするパーツを何度も手配した。それが縁で、その会社に就職した。同社で働き始めた時、アダムソンのデスクには電話機とコンピュータのキーボードしかなかった。パソコンは無かった。電話を受けると、キーボードを叩く音を出してから、在庫が1個ありそうなので倉庫に電話して確認してみますと言っていた。 彼は同社を辞めた後、似たような仕事をいくつかこなした。返品商品を扱う企業だった。ARCの前オーナーとは、彼が共同設立した電子機器リサイクル会社の業務を通じて知り合った。直ぐに意気投合した。

 アダムソンによれば、ARCのサービスの強みは、返品商品をただ再販すること以外にもある。同社の本当の強みは扱う商品の分析力にあるという。「当社は、返品された商品がどれだけあり、その内の何台が不良品であるかを把握します。顧客企業はその両方の数字を知ることができます。」と、彼は言った。つい先日も、顧客企業の高級コーヒーメーカーの特定品番で返品が続出したが、ARCの分析チームがその原因を特定した。安価なフロート弁(float valve)が使われていることが原因だった。それが硬水を使うと誤作動を起こしていた。欠陥を特定した後、製造を行っていた中国の工場と協力して修正品の設計も支援した。ARCは非常に多くの返品商品を処理しているため、顧客企業が気づく前に欠陥を特定できることも少なくない。直近でも、ある家電製品が3個返品された時点で、その製品には結露と熱で問題が起きていることを特定した。今では顧客企業の中に、新製品を市場に投入する前にARCに送ってチェックしてもらうところもある。また、ARCに返品商品とは全く関係なく、製品の設計業務を委託する企業もある。

 今年の春、私はジョージア州ユニオンポイント(Union Point)にあるARCの施設でアダムソンと会った。アトランタから東に1時間ほどのところだった。施設は巨大で1層で外観は灰色だった。穴ぼこが目立つ道路に面していた。見た目に反して、通りの名前は堂々たるもので、インダストリアル・ブルバード(Industrial Boulevard:工業大通り)だ。左隣には木材倉庫、右隣はダラー・ゼネラル(Dollar General)の倉庫、通り向かいには家具製造メーカーの倉庫があった。

 アダムソンは私を搬入口付近に連れていった。元々は何も置いてない巨大なスペースなのだが、運び込まれたばかりの商品が山のようになっていた。家電製品の山は崩れそうだった。種々雑多な品々の入ったアマゾンの返品商品満載のカゴ車が渋滞を起こしていた。それらの横を抜けて、ハクスバーナ(Husqvarna:農林・園芸・建設機器メーカー)社製の高圧洗浄機が6個積まれたパレットの前で立ち止まった。1インチ(2.5センチ)四方に2,000ポンド(907キロ)の水を噴射すると謳っている。ブリッグス&ストラットン(Briggs & Stratton:ガソリンエンジンメーカー)社のライセンスの供与を受けて製造されたものだ。透明ラップで巻かれて積荷が崩れないようにしてある。高圧洗浄機は日曜大工をする男性にとって2番めに人気の商品である。1番はチェーンソーである。勢いよく水を噴射して、屋根を掃除したり、ウッドデッキの汚れを吹き飛ばしたりする。熊を追い払うこともできる。私の知人は、庭のプールを洗う時に重宝していると言っていた。私とアダムソンのそばで、多くの作業員がさまざまな製品を機種と製造年ごとに分類していた。電気部品をチェックし、不具合のあるパーツを修理不能な返品商品から回収したパーツと交換していた。そうした再生品化作業のほとんどは、ARCがウィスコンシン州ウォーワトサ(Wauwatosa)にあるブリッグス・アンド・ストラットンの工場から買い取った製造ラインで行われていた。製造ラインの最後には、自動洗車機のような洗浄システムが追加されていた。

 ARCは、再製品化するすべての品目について、再販見込価格、ブランド企業が見込価格の何%を再製品化に費やす意思があるか、再製品化に必要なコストを把握している。したがって、コストがかかりすぎるという理由で、再製品化が行われないものも多い。ポンプが壊れた高圧洗浄機は、使用可能な部品が取り除かれ、スチール製の貨車に入れられ、後に近隣のリサイクル工場に送られる。リサイクル工場は、それをシュレッダー処理し、販売可能な金属やプラスチックをできるだけ多く取り出す。再製品化ラインの最後では、作業員がハスクバーナのラベルをマーレイ(Murray)に貼り替えていた。マーレイはブリッグス&ストラットン社が所有するブランドで、つまりライセンス費用が発生しない。各製品は新しいシリアル番号が付され、新品の箱に入れられる。再製品化したということが明確に分かるようになっている。「最終的に、これらはすべてディスカウント・チェーンのオーリーズ(Ollie’s)の店舗に行きます。新品の半額程度で売られます。」と、アダムソンは言う。「オーリーズはこの1週間でトラック12台分を引き取りにきました。来週も20台ちょっと引き取る予定です。その後の6週間で1万個の製品を引き取る予定です」。新型コロナのパンデミックは再製品化業界にとって追い風だった。多くの製品カテゴリーでサプライチェーンの問題が発生し、新品が品薄になったからだ。

 ARCが受け取るアマゾンの返品商品の多くは、アダムソンによればお客さま都合によるものだという。誰かが深夜にワインを飲み過ぎて不覚にも注文してしまったとか、夫婦で誤って同じものを注文してしまったとかである。私は施設の片隅で窓用のカーテンが満載のカゴ車がたくさんあるのを見た。すべてアマゾンの返品商品で、多くは未開封だった。それとは対照的に、高圧洗浄機は、購入者(たいていは男性)が説明書を読まないために返品されることが多い。「高圧洗浄機は、電源を入れる前に必ず水を入れるか水道に繋がないといけないのですが、多くの人はそれをせず、モーターを焼き付かせてしまうのです。」と、アダムソンは言う。思うに、ブリッグス&ストラットン社は、タンクに水が無いと電力を遮断するスイッチを追加することで、この問題を防げる。そこで、アダムソンに聞いてみた。彼は、そのような修正は費用対効果が見込めない、より現実的な解決策は警告表示やシールを追加することだろうと言った。

 他の場所では、多くの作業員が長いカウンターに向かってロボット掃除機(robotic vacuum cleaner)の修理をしていた。たくさんのロボット掃除機が、カウンターの下にあるコンセントから電源を取っていた。充電しないと評価できない。数千台とは言わないが、数百台、あるいはそれ以上のロボット掃除機が近くのラックにうず高く積み上げられていた。「ロボット掃除機が返品される1番の原因は、購入者が使い方を知らないことです。」と、アダムソンは言う。購入者の年齢層が高いことも返品率が高い一因だが、Wi-Fi接続をするのが非常に難しいのが主な理由である。おそらく説明書を読んでも大抵の人はイライラするだろう。これは他の製品でもしばしば問題となる。「当社は、HPとも取引があります。HPのプリンタの再製品化は当社が50%以上を手がけています。」と、アダムソンは言った。「現在、新品で販売されているプリンターの接続手段はWi-Fiだけです。そこで、再製品化したものにはプリンタ・ケーブルを同梱したんです。そしたら、問題は解決しました」。

 アダムソンが私に言ったのだが、以前は単に返品商品を買い付けて転売する企業を強烈に嫌いだったという。「そうした企業は、返品商品のサプライチェーンの非効率さを示していると思っていた。」と、彼は言う。「しかし、この数年で考えが変わった」。ARCが特定のアイテムを採算が合わなくて再製品化できないとしても、そのアイテムに全く価値が無いわけではない。それがたとえ数セントの粉砕プラスチックであっても、全く価値が無いわけではない。「アラバマ州の小さな町に、当社から返品商品のエアコンをトレーラー1台分買っていく男がいる。」と、彼は言う。「彼の家の住所をGoogleで調べたんだ。4エーカーの広大な敷地に大きなガレージがあるんだ。彼は当社が採算に合わないから再製品化できないエアコンを買い、それを修理して地元で販売している。当社では扱えないものだけど、彼はそれで生計を立てているんだよ」。