5.返品商品処理業者の高い能力
翌日、私はARCの別の施設に行った。ユニオン・ポイントの施設から東に1時間ほどのオーガスタ(Augusta)にあった。同社のCEOのデビッド・ホーガン(David Hogan)に案内してもらった。ある作業台では、2人の作業員がスティック型掃除機(upright vacuum cleaner)を修理していた。それは高額なハイエンド商品だったので、費用対効果に優れており、ARCが1台1台丁寧に修理することができる。「返品される掃除にのほとんどは、動かなくなる寸前まで何の問題も無いものだったのです。」と、ホーガンは言う。「つまり、ゴミを捨てて空にすれば何の問題もないのです。でも、それに気づかない人が多いんです」。アメリカで販売される消費財の多くはアジアで製造されている。企業は、マーケティング部門と販売部門のみをアメリカに置いている。そのような企業のために、ARCは以前は各社が自社で持っていた品質管理機能を代行している。「顧客が製品に触れてから得られる情報に勝るものは無い。」と、ホーガンは言う。
ホーガンと私が見ていた2人の作業員は、急速に失われつつある種に属している。つまり、ものを修理する者たちである。以前は、食器洗い機(dishwasher)や洗濯機(washing machine)、電子レンジ(oven)に何か問題が起きると、妻か私が地元の電気屋に電話していた。どんな街にも家電を修理してくれる電気屋があった。そう言えば、以前、近所の電気屋に食器洗い機を修理してもらったことがあった。ちょこっと分解して、陶器の破片と思われるものを取り除くことで、我が家の食器洗い機は再び使えるようになった(実際には陶器の破片ではなくコヨーテの歯だった。長い話になるので、ここでは触れない)。最後にその電気屋に電話したのは7、8年前になる。ホーム・デポ(Home Depot)でグリーターの仕事をしなければならなくなったと言っていた。今では電化製品が故障しても、修理を依頼する者はいない。誰もが新しいものを購入する。
この変化は、消費者の無知と怠惰の結果でもあるが、メーカーにも責任がある。現代の家電製品のほとんどに電子機器が組み込まれている。寿命が限られているだけでなく、修理不可能だ。交換するには高額な費用がかかる。以前、知り合いの修理屋が妻と私に、最も間抜けな、つまり電子機器の組み込まれていない電化製品を買うべきだと言った。当時は素晴らしいアドバイスだったが、今ではミキサーやコーヒーメーカーにさえマイクロチップが組み込まれているので、今では役に立たない。彼はまた、電子部品の最も致命的な敵は熱であり、そのため、電子レンジをセルフクリーニングしてはいけない、電子レンジを 2 台並べて設置してはいけない、そして、2 台並べた電子レンジを同時にセルフクリーニングしては絶対にいけない、とも言った。私たち夫婦は3つの教訓を学んだのだが、今にして思うのだが、意味はあるのだろうか。
もう1つの問題がある。今日、修理することを念頭に置いて製造された製品はほとんどないということだ。「当社がしているように、製品を分解して内部を見れば、それがよく分かる。」と、ホーガンは言う。「組み立て方や使われている材質が修理を前提としたものではないのです」。修理の大きな障害となるのは、部品がネジ止めではなく接着剤で固定されていることと、部品がプラスチック製の留め具でパチンと留められていることだ。部品を取り外そうとすると割れてしまうのだ。ARCが一部の顧客に提供しているサービスで、同社が「同一ユニット修理(same-unit repairs)」と呼んでいるものがある。業務用掃除機(shop vac)のような高価な製品で保証期間内に何か問題が生じた場合、メーカーからUPSの発送伝票が送られる。届け先欄にはARCの住所が印字されている。ARCの技術者は、修理品が到着後1〜2日で修理して返送する。ARCは現在、このようなビジネスの拡大を検討中だが、このビジネスが成立するのは、分解しても割れたり壊れたりしない高額な製品に限られる。
「当社にとって、いくつかの企業の返品商品は好ましくないものです。全く修理不能ですから、当社の存在価値が無くなってしまいます。」と、ホーガンは言う。彼は先日、母校であるジョージア工科大学(Georgia Tech)の持続可能なビジネスを研究しているレイ・C・アンダーソン・センター(Ray C. Anderson Center for Sustainable Business)で行われたパネルディスカッションに参加した。テーマには、部品の品質、修理の難易度、製品の寿命など、前段落で記述したのと同じ家電製品の設計上の問題が含まれていた。彼はその場にいた人たちに、ARCのような企業が存在する必要がないほど全ての製品が良くできていて、修理も簡単な世界を想像するよう求めた。
それから、彼は講演の中である提案をし、次のように言った。「理論上の空想の取引を提案したい。ハイスペックで高価なコンピュータを売ります。価格は今あなたが持っているパソコンと同じです。しかし、耐久性は2倍で、重さは半分、バッテリーは2倍長持ちし、演算能力もメモリーも2倍だとします」。その後、彼は、1つだけ条件があると言った。それは、いかなる理由であれ、返品は認めないということだった。
ジョージア工科大学のサステナビリティ・センターだったので、そこにいたのは頭脳明晰で斬新な発想をするエンジニアばかりだった。おそらく40人か50人はいて、全員がMBAだった。ホーガンは、彼らはみなこの取引に飛びつくだろうと考えていた。しかし、誰一人として手を挙げなかった。
「とても驚いたよ。」と、彼は言った。「簡単に返品できるということが、私たちの行動に染み付いてしまっているんだよ」。彼は講演の最後で言った、「ご清聴ありがとう。どうやら、私が選んだ業界は衰退しそうにないですね。」と。♦
以上