夏の思い出と言えば、アイスクリームトラック!スーヴァンカム・タンマウォンサのコラムを訳してみた!

Coming Together

The Ice-Cream Truck
アイスクリームトラック

When you hear an ice-cream truck on your street, it means that someone has thought of you. It means that someone thinks you deserve something good.
街でアイスクリームトラックの音が聞こえたら、それは誰かがあなたのことを思い出したことを意味します。それは、誰かがあなたが何か良いものを受けるに値すると考えていることを意味します。

By Souvankham Thammavongsa

July 3, 2023

 家の前の通りは、決して静かではなく、騒々しかった。ひっきりなしにパトカーや救急車のサイレンが聞こえ、隣家からは男の怒鳴り声が繰り返し聞こえてきた。怒鳴り声だけでなく、ドスンという誰かを殴る鈍い音も何度か聞こえた。私は弟とテレビで題名も知らない映画を見ていた。ビルが爆破され、銃撃戦が繰り広げられ、火の手が上がっていた。本当は、私と弟はそういうものを見てはいけなかったのだが、家にいたのは2人きりだったのだ。私が10歳で弟は8歳だった。

 テレビの音は大きくしていた。というのは、両親からそうするように言われていたからだ。そうすることで、家の中に親がいるように見せかけることができると考えていたのだ。両親は、怖いと感じたら、どこに隠れるべきかを教えてくれていた。シャワーカーテンを引いてバスタブの中に隠れろと言われていた。もしくは、クローゼットの衣類の積み重なった下やキッチンのシンクの下の鍋やフライパンがあるところに潜り込めと言われていた。両親が家にいない時は、決して外に出るなと言われていた。だから自転車に乗ることも、地面に落ちているきれいな小石を探すこともできなかった。

 夏のことだった。学校は休みに入っていた。両親はともに働いていたが、不在の時間にベビーシッターを雇うのは無理だった。子供2人を食わせるのに手いっぱいで、そんな余裕は無かったのだ。近くに祖父母が住んでいるわけでもなかった。近所にいとこがいるわけでもなかった。2人の子供を預けられるような叔父や叔母の家が近くにあるわけでもなかった。だから、私と弟は2人きりで過ごすしかなかったのだ。

 「聞こえた?」弟が私に聞いてきた。

 「何が?」私は言った。

 「アイスクリームトラックが来てるね。」

 私は耳をすました。聞こえる。アイスクリームトラックの発する小さな音が。どこかは分からないが、結構近くだ。
 
 アイスクリームトラックが家の近くまで来るということは、誰かが私にアイスクリームを売りつけようと考えているわけで、つまり、それは、私のことをおいしいアイスクリームを食べるに値すると考える者が存在していることを意味している。そもそも、これまで家の中に籠っている私のことを誰かが認識しているなんて考えたことも無かった。

 ともあれ、その日、なぜかは知らないが、アイスクリームトラックが私の家の前の通りまでやって来た。

 私はドアのチェーンを外して鍵も開けた。私は弟を連れて外に出た。歩道の縁石まで走った。アイスクリームトラックの音は大きく、かなり近くまで来ていることが分かった。弟と私は手を振った。

 アイスクリームトラックは私たちに気づいた。私たちのところまで来てくれた。

 私と弟はとても興奮していた。喜びようは凄まじいものだった気がする。大声で叫んでいた。おそらく、あれが食いたいとか叫んでいたはずだ。何故だかわからないのだが、アイスクリームトラックの運ちゃんは、アイスクリームを私と弟に出してくれたんだ。私と弟は、それを躊躇せず受け取った。そして、素早くむしゃぶりついた。とにかく暑い夏の日だったので、解ける前に食おうと必死だった。指を嘗め回した。手のひらや手首も。これも何故だかわからないのだが、私と弟は顔を見合わせて笑った。

 知らない間にアイスクリームトラックはいなくなっていた。私も弟も気づかなかった。アイスクリームトラックは大音量で音楽を流していた。それが遠ざかっていったはずだが、まったく気づかなかった。

 弟が心配そうな顔つきで私を見た。そして言った、「お金払ってないんだけど。払ってないよね?」

 私たちはお金を払っていなかった。

 その時、私はふと気づいた。これまでアイスクリームトラックが私の家の前の通りに来なかった理由が分かったのだ。アイスクリームトラックは、いつも私の家の前の通りの一本向こうの通りを通っていたのだ。その通りに面している家は、どこも芝生の前庭があり、スプリンクラーで水が撒かれていた。きれいな花があちこちに植えられていて、家はレンガ造りだった。

 私と弟は話し合って決めた。今日の出来事は両親には言わないことにした。家の外に出たことは内緒にすることにしたのだ。もちろん、アイスクリームを食べたことも。お金を払わなかったことも。その日の午後、アイスクリームトラックが去った後、私と弟はテレビでアニメを見て過ごした。青い小人の話だった。キノコの中に住んでいた。

 私は、現在44歳で、今年の夏には45歳になる。私が今住んでいる辺りでは、ここ数年、アイスクリームトラックが来るのを目にしたことがない。しかし、2週間前に久々に目にした。アイスクリームトラックの発する音や音楽などがかすかに聞こえたのだ。昔聞いた音、記憶に残っている音が聞こえた。全く、変わっていない気がした。だけど、私の傍らに「聞こえた?」と聞いてくる者はいない。あの時とは違って、誰の許可を得る必要もなく、自分の意志で自由に家の外に出ることができる。私は小銭を引っ掴んで外に駆け出した。

 アイスクリームトラックがどこに停まっているかは正確にはわからなかった。聴こえてくる音楽を頼りにして移動した。私は目を閉じ、感じたままに行動した気がする。

 ふと見ると、小さな子供が1人見えた。男の子だ。あの時の私の弟と全く同じだ。走っている。もちろん、弟ではないことは分かっている。弟が子供だったのはとっくの昔のことだ。それに、去年死んでしまったのだから。走っている子が誰かは知らない。しかし、その子はアイスクリームトラックがどこに停まっているかを知っている。だから、私は、その子と同じ方向に走った。

 見つけた。アイスクリームトラックはパーキング・ロットに停まっていた。列が出来ていた。私も列に並んだ。私の番になった。アイスクリームトラックの運ちゃんに引っ掴んできた20ドル札を渡した。お釣りはとっておくように言った。運ちゃんはスタンディングオベーションで見送ってくれた。

 私はアイスクリームを手にしていた。それをまばゆい太陽の下で食べた。うまっ!思わず声が出てしまった。思う存分楽しんで良いのだ。♦

以上