お粗末! オープン AI のアルトマン解任騒動の内情 刺し違える覚悟がないのなら、蜂起しない方がよいかも?

9.

 ナデラとスコットは安堵している。マイクロソフトでは何ごとも無かったかのように、すべてが正常に戻った。コパイロットの大規模なリリースが継続されている。この秋の初めに、同社は私にワード・コパイロットのデモ版を提供してくれた。それは、5 ページの文書を箇条書きにして 10 項目にまとめるという依頼をこなすことができる。あるいは、上司に好印象を与えたい場合に、箇条書きで 10 項目の内容を 5 ページの文書に変換させることもできる。リクエストを特定のファイルにグラウンディング( ground:プロンプトをデータに結びつけること)すれば、コパイロットにさまざまな指示をすることも可能である。例えば、「直近でジム氏に送信したメールを参照して、次にすべきことを書き出して欲しい。」という具合である。ダイアログボックスに文字を打ち込むことで、ワード・コパイロットにファクト・チェックを依頼したり、ぎこちない文章を書き直させたり、作成中のレポートが以前のレポートと矛盾していないかを確認させることもできる。「この種の契約書に通常記載すべき項目で抜けているものはないか?」と尋ねれば、ワード・コパイロットは以前の契約書を参照して調べる。いくつものアイコンが現れるが、いずれも擬人化されたキャラクターではない。ワード・コパイロットは、間違った答えが返される可能性があることを警告してくる。とにかく誤る可能性があることを強調することを重視しているのである。

 ワードやエクセルやパワーポイント等のコパイロットは、いずれも印象的であると同時に陳腐でもある。これらは、たやすいタスクは簡単にこなすことができるが、生身の労働者に取って代わるには程遠いレベルである。これらは、多くの SF 小説で予告されていたものとは大きくかけ離れているように感じられる。しかし、それらは人々が毎日使うもののようにも感じられる。

 ケビン・スコット( Kevin Scott )によると、そう感じられるのは、仕様によるところが大きいという。「本当の楽観主義とは、時にゆっくりと進むものである。」と彼は私に言った。そして、もしスコットとムラティとナデラが思い通りに業務を進められるようになれば(先日、彼らがこの紛争に勝利したことを踏まえるとそうなる可能性が高いのだが)、AI は着実に私たちの生活に浸透し続けるだろう。本当にゆっくりと浸透していくので、AI の危険性を極度に怖れる者がどこかで気づいて警告を発するような局面も訪れないだろう。人間が AI をどのように使用すべきかを理解するスピードに合わせて、浸透していくはずである。手に負えないような状況に陥る可能性が無いわけではない。また、AI がゆっくりと進化することによって、私たちが手遅れになるまでその危険性に気づかなくなる可能性だってある。しかし、今のところ、スコットとムラティは進歩と安全性のバランスを取ることができると自信を持っている。

 私がスコットと最後に話した時、アルトマンの解任騒動が始まる前のことであるが、彼の母親は直近の 3 週間で 6 回も病院にかかっていた。彼女は 70 代で甲状腺の病気を患っていた。しかし、直近で救急救命室で診てもらおうとした際には 7 時間も待たされた。結局、医師の診察も受けずに帰った。「もし、賢い完璧なコパイロットが開発されていたなら、どんな症状でも診断できて、数分で処方箋を出していたかもしれない。」と彼は言った。といっても、それが実現するのはまだまだ先のことである。スコットが指摘していたのだが、誰もがそのような未来を待ち焦がれているし、それにフラストレーションを感じるかもしれないが、それは、現在の AI が優れていると感じられるからこそ生まれる感情なのである。いつか来る未来を夢見て楽観主義的に構えて、AI に懐疑的な者たちの抱く懸念を丁寧に取り除いていくしかないのである。

 「 AI は、すべての人々の生活の質を向上させるために人類が発明したものの中で最も強力なものの 1 つである。」と、スコットは言った。「しかし、まだまだ時間がかかる。どれくらい先になるかは見通せない。人類はいつの時代も常に非常に困難な問題に直面してきたわけだが、常にテクノロジーを駆使してそれと向き合ってきた。私たちは AI というテクノロジーを駆使して明るい未来を切り開く可能性もあるし、逆に、未来を陰惨なものにしてしまう可能性もある。どちらになるかを決める要因は 1 つしか無い。すべては私たち次第である」。♦

以上