The Lies in Your Grocery Store
嘘まみれの加工食品
Most people accept the gimmicks of food labelling. One lawyer can’t stomach them.
ほとんどの人は食品表示のからくりを受け入れています。ある弁護士はそれに耐えられない。
By Sarah Larson September 4, 2023
1.
2021年、ウェスト・ブロンクスに住む無職の老人デュヴァル・クレモンズ(Duval Clemmons)は、地元のBJ’sホールセール・クラブ(BJ’s Wholesale Club)に行った。乳製品売場で嬉しい発見をした。クレモンズは68歳で、2009年まで保守作業員をしていた。その年に地下鉄の階段から転落して障害が残った。「できる限り健康的なものを食べようと努めてるんだ」と、彼は言った。「だから、植物性バターを見た時、『クールやんけ!こういったのが欲しかったんだよ!』と叫んだのさ」。彼が見たのは、カントリークロック・プラントバター・メイド・ウィズ・オリーブオイル(Country Crock Plant Butter Made with Olive Oil)だ。緑色の蓋が付いていて、パッケージの横腹に写真が載っており、バターを塗ったトーストの上にオリーブの枝が浮かんでいた。流麗な筆記体で “New!”と “Dairy Free (乳製品不使用)”との表示もあった。クレモンズは言った。「他のマーガリンは、原材料の写真なんて載せていない」。
以前、クレモンズはバターよりもマーガリンの方が健康的だと思って、マーガリンを使っていた。まあ、今では信じられない。しかし、誰もが20世紀後半にはそう考えていた。「マーガリンは俺の定番だったんだ。」と、彼は言った。「マーガリンは素晴らしかった。マーガリンは美味かったしね。だけど、20年ほど前に動脈を詰まらせる作用があるって知ったのさ。それで、オリーブオイルに切り替えたのさ」。クレモンズの知人の中にも心臓病になった者がたくさんいた。そのうちの何人かは死んだ。彼はカントリークロックを買って、トーストに塗って食べ始めた。数ヵ月後、彼が集団訴訟(class-action lawsuit)のメンバーを募集している広告をネットで見ていると、その製品の画像が目に入った。気になって、広告をよく見た。驚くべき事実が判明した。カントリークロックの原料はオリーブオイルではなかったのだ。主原料はパーム油とキャノーラ油だ。「写真が気に入って購入したんだけどね」と、クレモンズは言った。「オリーブの写真で客を騙そうって魂胆だったんだろうね。そうすればヘルシーな感じが醸し出せるってわかってたんだろね。どうして、ナチュラルとか有機って書いてあると惹かれるんかね」。
2022年、集団訴訟メンバー募集の広告を出したロングアイランド州グレートネック(Great Neck)の弁護士スペンサー・シーハン(Spencer Sheehan)は、クレモンズを原告代表(lead plaintiff)に指名し、カントリークロックの製造メーカーであるアップフィールドUS社(Upfield U.S., Inc)を相手取った訴訟を起こした。シーハンは、訴状で、いわゆる植物性バター はマーガリンと何ら変わらないと主張した。「有史以来、人類はバターを楽しんできた。それは農場で新鮮なクリームと塩から作られるものだ。」と、訴状には記されていた。「150年前から、バターのまがい物が作られるようになった。牛脂と植物油の黄色い混合物がバターとして消費者に売られるようになった。それがマーガリンだ」。シーハンによれば、オリーブオイルが人気なのは、パーム油やキャノーラ油にはない健康上の利点があるかららしい。カントリークロックにはオリーブオイル入りの製品もあるのだが、カントリークロック・オリジナルの2倍のカロリーがある。値段も高い。
シーハンは44歳で、消費者の利益を代弁する集団訴訟を専門としている。特に、食料品の原材料や風味の正当性に焦点を当てている。シーハンは、フロスト・ストロベリー・ポップタルト(frosted strawberry Pop-Tarts)を作っているメーカー(ケロッグ)を訴えた。全くイチゴが入っていない。ヒント・オブ・ライム・トスティトス(Hint of Lime Tostitos)を作っているフリトレーも訴えた。ライムが全く入っていない。スナップル “オールナチュラル “フルーツドリンク(Snapple “all natural” fruit drinks)も天然果汁が入っていないとして、キーブラー・ファッジミントクッキー(Keebler’s fudge-mint cookies)もファッジとミントが少ないとしてメーカーを訴えた。チーズケーキファクトリー・ブラウンブレッド(Cheesecake Factory brown bread)も全粒粉が入っていない。トライデント・オリジナルフレーバーガム(Trident original-flavor gum)もパッケージに青いミントの葉のイラストが描かれているのに、本物のミントが入っていない。他にもたくさん訴訟を起こしている。それぞれ数百万ドルの損害賠償を求めている。集団訴訟をしているのは食料品だけではない。歯磨き粉等には狡猾で詐欺的な製品が少なくないという。また、歯磨き粉”Tom’s of Maine Fluoride-Free Antiplaque & Whitening”は、”Antiplaque”と謳っているのに歯垢と闘う成分が全く含まれていない。コパトーン(Coppertone)の日焼け止め”Coppertone Pure & Simple”は、”Pure”でも”Simple”でもない。私はシーハンと電話で話した。その際、彼が強調したのは、製品による消費者の不利益は広範で深いということだ。彼は言った、「マシュー・マコノヒー(Matthew McConaughey)がサラ・ジェシカ・パーカー(Sarah Jessica Parker)と共演した映画「Failure to Launch(邦題:打ち上げ失敗)」の後、俳優として真剣に受け入れられるまでに何年もかかった。誰だって型にはめられたくはない。」と。
しかし、シーハンは自らも認めているが、型にはまった仕事しかしていない。食品の表示への関心が高い。特にバニラに関しては容赦がない。あるタブロイド紙は彼を “バニラ自警団(the vanilla vigilante) “と呼ぶほどだ。”real(本物)”と謳っているフルーツや人工的なスモーク香料(artificial smoke flavoring)への攻撃も容赦ない。2018年以来、シーハンの法律事務所は500件以上の消費者保護集団訴訟を起こした。その結果、ニューヨークはこのような訴訟が最も多い州となっている。毎年開催される食品関連法曹会議(food-law conferences)では、訴訟の傾向を示すプレゼンターが、シーハンの訴訟を含む統計と含まない統計の2つをセットで提供する。A&Wルートビア(A&W Root Beer)が”熟成バニラ(aged vanilla)”を謳っている件に関する訴訟など、彼の訴訟の中には数百万ドルで和解に至ったものもある。新聞の見出しを飾るような大ニュースになったものもある。しかし、ほとんどは退けられている。「被告企業や判事は目を丸くするかもしれない。」と、シーハンは言った。「びっくりするんだろうね。しかし、私は誇りをもって言うことができるが、軽薄な訴訟を提起して裁判所から制裁を受けたことは一度もない」。
まったく部外者の私からすれば、シーハンの仕事には少し滑稽なところもある。というのは、スナックフードのフレーバーが”リアル(real)”を謳っていても、誰も本当のものが使われているとは考えないからだ。むしろ、そう考えている者がいたら驚きだ。しかし、シーハンにとって、それは詐欺行為であり、ごまかしそのものである。彼は呟いた、「スモークハウス・アーモンド(Smokehouse’ almonds:ブルーダイヤモンド社の商品)はちょっと悪質だな。」と。このアーモンドはスモークハウス(燻製小屋)で燻されたものではない。そもそも、ブルーダイヤモンド社はスモークハウスを所有していない。彼は同社を11回訴えた。