食品の成分表示は信頼できるか?メーカーが規制を搔い潜って消費者にアピールする努力は、涙ぐましいものがある!

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 シーハンは、軽はずみな提訴で裁判所から懲戒を受けたことはない私に語った。誇らしげだった。しかし、2週間後、裁判所から提訴に問題があるので懲戒請求をするとの脅しがあった。イリノイ州北部地区のスティーブン・シーガー(Steven Seeger)判事は、ポーラー(Polar)社のレモン・セルツァー(lemon seltzer)にレモンが含まれていないというシーハンの訴えを却下した。そして、シーハンに対し、2020年以降に彼の法律事務所が集団訴訟を提起した全件のリストの裁判所への提出を求める命令を出した。なお、シーガー判事が却下した理由が明らかになっている。ジュースではなく発泡酒であることが理由という。意見書には、その見解を補強することがツラツラと記されて、食品メーカーが使うような専門用語がちりばめられていた。内容は陳腐だった。

 ここ数カ月で、裁判官と被告企業が立て続けにシーハンの訴訟に異議を唱えた。イリノイ州には、モンテリーズ・インターナショナル(Mondelēz International)の本社がある。世界最大のスナック菓子等の製造メーカーである。ブランドの品揃えは広い。オレオ(Oreo)、チップス・アホイ!(Chips Ahoy! )からリッツ(Ritz)、トリスケッツ(Triscuits)、キャドバリー(Cadbury)、サワーパッチ・キッズ(Sour Patch Kids)、タン(Tang)等がある。2022年まではトライデント(Trident)、デンティン(Dentyne)、バブリシャス(Bubblicious)等のガムのブランドも展開していた。シーハンは、同社に対して何度か訴訟を起こしたことがある。トライデント等ガムのブランドに関するものもあった。その内の1件は、2月にイリノイ州北部地区のイアン・D・ジョンストン(Iain D. Johnston)という判事によって却下された。ジョンストン判事の意見書には、「ガムがあるべきでない場所にこびりついた場合、角氷、ピーナッツバター、酢、オリーブオイルなどで対処すべきであることは常識である。連邦裁判所で訴訟がふさわしくない場所で立ち往生した場合、連邦民事訴訟規則では、それらとは異なる、よりクリーンな救済策を提供する。」と、記されていた。同月、モンデリーズ社はトライデント・ガムの訴訟が却下されたことを受け、シーハンに対し弁護士費用の支払いを含む制裁を要求した。5月にジョンストン判事はシーハンに対し、「スパゲティは壁に投げつけるのではなく、食べるのが最良である」と念を押し、シーガー判事と同様にリストの提出を要求した。

 シーハンはリストを提出した。それには13ページもの資料が添付されていた。「米国で最も多くの消費者集団訴訟を手がける弁護士の実績について、並外れた洞察を与える資料である」と、クリス・コール(Chris Cole)という弁護士が自身の法律事務所のブログに書いていた。コールは、ヴィジー・ハード・セルツァーの訴訟等シーハンが提起した訴訟のいくつかで被告企業の弁護をしたことがあった。「私の大まかな計算では、2020年1月1日から2023年4月7日の間に、シーハン氏は553件の訴訟を起こした。」と、彼はブログに記している。「その内、120件(21.6%)が棄却され、35件(6.3%)が棄却の申し立てを免れた。残りの398件(約72%)は和解が成立したか、係争中である」。コールの推定では、控えめに見積もって、2020年以降、シーハンが手掛けた訴訟の弁護費用は4,200万ドルにのぼる。

 シーハンが手掛けた訴訟や同様の訴訟の軽薄さを強調するいくつかの報告書が存在している。それらは、食品メーカーや飲料会社を代弁する企業によって作成された。非営利・超党派を標榜するニューヨーク民事司法研究所(New York Civil Justice Institute)は、2021年に、食品メーカー・飲料会社の代理人を務めるシュック・ハーディ&ベーコン(Shook, Hardy & Bacon)法律事務所のパートナーのケーリー・シルバーマン(Cary Silverman)の論文 「Class Action Chaos (集団訴訟のカオス」を発表した。「集団訴訟のカオス」には、シーハンの訴訟が民事司法制度を愚弄していると書かれている。それは、シーハンに関する全国ニュースでも引用されている。私は、食品業界に詳しい他の何人かの弁護士にも話を聞いた。シーハンの訴訟で被告企業を弁護した者もいた。いずれも、民事司法制度を愚弄しているという主張は誤っていると考えている。彼らは、シーハンの訴訟を食品関連規制の不備による産物、あるいは分かりにくい規制を是正する必要な措置と見なしていた。シーハンに批判的な弁護士の何人かは、彼の訴訟はそれなりに筋が通っていると言っていた。 ある弁護士は言った、「シーハンは、メリットが得られるからといって訴訟を取り下げることはない。」と。

 シーハンに対する裁判所からの警告回数は増えた。しかし、制裁は今のところない。この夏、シーガー判事のシーハンに向けられていた怒りの矛先が、B&Gフーズ(B&G Foods)社に向かうようになった。それは、シーハンが訴訟を起こした被告企業で、クリスコ・ノースティック・バター・クッキングスプレー(Crisco’s No-Stick Butter Cooking Spray)のメーカーである。8月にピザ屋で食事を終えた時、私はシーハンに裁判官の警告が今後の彼の行動に影響を与えるかどうか尋ねた。「無い!」と、彼は言った。「全く影響ないさ。影響があるとすれば、その対応で時間を取られることだけだね。やる仕事が山ほどあるのに、うんざりさ」。彼は私の皿を指さした。「もう1枚、注文する?」♦

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