The Privacy-Minded Social Network at the Center of the Classified-Document Leak
機密文書漏洩は、秘匿性の高いソーシャルネットワークが原因
A young National Guardsman posted hundreds of secret government files to a private Discord group. Then they sat there for months unnoticed.
1人の若い州兵が、何百もの機密文書をディスコード( Discord)のチャットルームに投稿しました。誰もその機密文書に注目しませんでした。何カ月間も。
By Kyle Chayka April 14, 2023
昨年末、ソーシャルアプリ「ディスコード(Discord:アメリカで普及しているボイスチャット・テキストチャットなどを楽しめるコミュニケーションツール)」のチャットルームで、”OG”というユーザー名の人物がいくつもの軍事機密文書の複写物を公開し始めました。しかし、彼の友人やフォロワーは、若者が多かったからなのかもしれませんが、それらの文書にそれほど関心を持ちませんでした。そこで、OGは、それらの文書の写真を撮り、それらも投稿し始めました。投稿された中には、ウクライナの最新の戦況図がありました。アメリカがロシア軍に対してスパイ行為をしていることを明らかにする資料、ウクライナや西側同盟国の指導者を監視していることを明らかにする資料などもありました。OGが流出させた文書は、合計で数百にのぼるようです。それらは、数カ月間にわたって、ディスコードのチャットルームで共有されていました。チャットルームのメンバーは20数人でした。メンバーは共通の趣味や関心事で繋がっていたわけですが、それは、戦争をテーマにしたテレビゲーム、軍用アイテム、キリスト教などでした。そのチャットルームでは、時に人種差別的な内容やユダヤ主義を皮肉るような内容が話題となることもありました。
先週、タイムズ(Times)紙がこの件を報道した後、軍事機密文書の流出によって国家安全保障上の懸念が深まったとして、国防総省は即座に調査を開始しました。また、ディスコード(Discord)上の”Thug Shaker Central”というグループに注目が集まりました。水曜日(4月12日)のワシントン・ポスト(Washington Post)紙の記事で、そのグループの1人のメンバー(10代)は、そのグループのことをOGをリーダーに仰ぐ「結束の固い家族(tight-knit family)」であると語っていました。また、そのメンバーは、OGのことを評して、「贅肉が無く、屈強。武器にも精通している。鍛錬を怠らず、まさに、ある種のクレイジーな映画の登場人物のようだ」と、言っていました。 木曜日(4月13日)の朝にタイムズ紙は、OGはマサチューセッツ州空軍州兵で情報部門に所属する21歳のジャック・テシェイラ(Jack Teixeira)であると報じました。彼はその後、FBIに拘束され、スパイ防止法や機密文書取り扱いに関する法に違反した疑いで連邦裁判所に起訴されました。”Thug Shaker Central”のメンバーの1人によると、テシェイラが文書を投稿した理由は、「何が起こっているのかを友人たちに知らせたかっただけ 」だということです。テシェイラは、今のところ、この件については何もコメントしていません。彼の両親も裁判所の外で報道各社からコメントを求められたのですが、応じませんでした。
ディスコード(Discord)は、2015年のローンチです。スラック(Slack)と似たようなツールです。最初に多くのゲーマーがオンラインプレイ中に互いにチャットするためのツールとして使うようになりました。それ以降の数年で、一種の分散型ソーシャルネットワークに成長しました。月間アクティブユーザー数は2億人弱に上ると推定されています。フェイスブック(Facebook)やツイッター(Twitter)のような大規模なソーシャル・プラットフォームがパブリックフィードを中心に構成されているのに対し、ディスコード(Discord)ではサーバーが中心となります。ここでのサーバーとは複数のテキストチャンネルやボイスチャンネルで成り立つコミュニティのことです。チャットルームのようなものです。ディスコードでは、ユーザーがサーバーを独自に構築し、管理することができます。サーバーの多くは管理者に招待された人だけがアクセスできるプライベートなものです。ディスコード(Discord)のユーザーの中には、匿名もしくは偽名を使用している者も少なくありません。個々のサーバーを見ると、サーバー毎に独自の特徴があります。また、サーバーごとに独自のルール(コミュニティルール)が設定されています。このようなサイロ化(組織や情報が孤立し、共有できていない状態)された構造により、ディスコード(Discord)は、限られた者にのみ情報をリークするのに適した空間となっています。テシェイラが機密を漏らすには最適の環境でした。”Thug Shaker Central”のメンバーは、何らかの情報を暴露しても、少なくともしばらくの間はメンバー(familyと呼ばれている)の中に留めておくことができるのです。
イギリスに本拠を置く調査報道機関の”べリングキャット(Bellingcat)”が時系列にまとめているのですが、3月上旬には、機密文書の多くがテシェイラたちのグループの外に漏れていました。Thug Shaker Centralのメンバーの1人でルッカ(Rucca)というユーザー名の人物が、ディスコード(discord)上で数十のテシェイラの機密文書を多人数に共有していました。共有されたのは、英国を拠点として自らを「戯言を投稿するインターネット上のマイクロセレブ(hitposting-Internet micro-celebrity)」と称するユーチューバー(YouTuber)のワウマオ(wow_mao)のファンが集っているグループのメンバーでした。ちなみに、マイクロセレブとは、あるジャンルに特化してフォロワーを集めている一般人のことです。今週、ワウマオ(wow_mao)がYou Tubeに1本の動画を上げていました。自分たちは、意図せず有名になってしまったと説明していました。その動画の中で、ワオマオ(wow_mao)は軍事機密を漏洩することが非常にまずいことであることは認識している、また、自分は機密文書を漏らした者を糾弾すると言っていました。 3月4日、テシェイラが撮った写真の多くがマインクラフト(Minecraft)をテーマにしたディスコード(Discord)のサーバー(チャットルーム)で共有されました。そのサーバーには、8,000人以上のメンバーがいましたが、ほとんど誰もその写真に興味を持ちませんでした。その写真を投稿したユーザーは、「見ろよ!機密文書が流出してるぞ!」というテキストを投稿しました。すると1人の者が反応して「いいね」を返しました。その後、1カ月間は何も起こりませんでした。4月5日に、匿名性や機密性に優れたチャットアプリの”テレグラム(Telegram)”や匿名掲示板の”4チャン(4chan)”でも、同じ写真が共有されました。タイムズ紙が機密文書漏洩のニュースを伝えたのは、その翌日の4月6日のことでした。
テシェイラがどうやって機密情報を漏らしたかということが明らかになりつつありますが、当初から公益のために内部告発したわけではないことが明白でした。テシェイラが漏らした多くの文書はスキャンされたものではなく、無造作に撮影されたものでした。複数の写真の背景に、無造作にいろんなものが写り込んでいました。ゴリラグルー(Gorilla Glue)ブランドの瞬間接着剤、狩猟用具が詰まったコンテナなどが写っていました。エドワード・スノーデンが国家安全保障局(NSA)のファイルを慎重にジャーナリストに渡した作業と比べると非常に対照的です。スノーデンは用意周到な上に、非常に巧妙に立ち回っていました。今回の流出事件について、アメリカへの不信感を煽るためにロシアの諜報機関が機密情報をリークしたと推測する者も少なからずいるようです(流出した文書のいくつかでは、ウクライナ戦争での犠牲者数が改竄されていました。ウクライナ側の犠牲者数は過大に、ロシア側のそれは過少に修正されていました)。しかし、誰でも匿名で参加できるディスコード(Discord)で機密が漏洩したという事実は、もっと単純な動機を暗示しています。機密文書をリークしたテシェイラの動機は、おそらくディスコード(discord)のサーバーで目立ちたかっただけだと思われます。
ディスコード(Discord)のコミュニティの秘匿性と匿名性が、このアプリを過激な信念の温床たらしめています。ディスコード(Discord)は、軍事マニアのための空間として知られています。それは、おそらく、このツールが普及しだした頃に多くのゲーマーがコンバットゲームをする際に使ったことに起因すると思われます。また、過度にオンライン化された人たちが選ぶ場になりつつあります。まさしく10年前のレッディット(Reddit)のような感じです。2017年には、複数の白人至上主義者がディスコード(Discord)のサーバーで、バージニア州シャーロッツビル(Charlottesville)で行われたユナイト・ザ・ライト(Unite the Right)という極右集会を計画しました(その集会に抗議するデモ隊に車が突っ込み、死者が出る事態となった)。2022年には、ペイトン・ジェンドロン(Payton Gendron)という18歳の若者が、ディスコード(Discord)の自分しか入れないサーバーで何ヶ月もかけて計画を練って完成させ、ニューヨーク州バッファローの食料品店で有色人種を狙った銃乱射事件を起こしました。彼はそこで購入する銃火器について検討したり、何人の人を殺せるかを見積もったりしていました。銃撃する30分前になって、彼はそのサーバーを他の人も入れるようにして、何人かを招待していました。それからしばらくして、彼が銃乱射事件を企てていることが明るみになったわけですが、その時点では、彼に犯行を思いとどまらせるには手遅れでした。結局、10人が殺されました。水曜日(4月12日)に、テシェイラのリークに関するコメントを求められたディスコード(Discord)の広報は、「当社は当社のポリシーに違反するコンテンツの存在に気付いた場合には、当社の安全対策チームが調査し、適切に対応しています。」とのコメントを発しました。同社が出している最新の透明性レポート(Transparency Report:企業が定期的に発行する声明で、ユーザー、データ、記録、コンテンツの要求に関連するさまざまな統計を開示する)によると、昨年後半にディスコード(Discord)から削除されたサーバーの73%は、ユーザーから不適切との報告を受ける前に、同社が予防的に削除したものです。
ディスコード(Discord)が急激に台頭したわけですが、時を同じくして旧来からのオンライン上のソーシャルネットワークはいくぶん勢いを失いました。マーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg’)が率いるメタは、メタバース(metaverse:コンピュータの中に構築された3次元の仮想空間やそのサービス)への転換を図りながら、ユーザーを飽きさせないために、絶えすフェイスブック(Facebook)の機能の改善を続けています。しかし、その努力は実を結んでいません。ユーザーの関心を繋ぎ止められずにいます。イーロン・マスク(Elon Musk)は6ヶ月前にTwitterを買収して以降、同社のコンテンツを監視するスタッフの数を削減し続けています。彼は、ユーザーの安全性を軽視していて、コンプライアンスにも無関心であることが明らかになりました。先日、ドイツでのことですが、Twitterは人種差別的な投稿を削除しなかったとして、数百万ドルの罰金を課せられました。先週、マスクは、Twitter上に漏洩した機密文書が共有されているのを認識したら削除するというアイデアを嘲笑しました。ディスコード(Discord)やテレグラム(Telegram)などのプラットフォームの魅力は、ユーザーに多くの権限を与えていることや、秘匿性が高いことや、一からデジタルコミュニティを構築できることなどです。しかし、ユーザーの自由度と秘匿性が高いということは、必ずしもメリットばかりではありません。デメリットもあります。インターネット上に秘匿性の高い空間が増えると、有害なコンテンツを監視することが容易ではなくなります。秘匿性の高い空間で悪だくみを企てる者がいても、それを特定したり、閉鎖することが難しくなります。今回の機密流出事件で明らかになったことは、今日では特定のオンライン空間では、いとも簡単に人目に触れず悪事を行えるということです。これは、憂慮すべきことです。テシェイラのディスコード(Discord)上のフォロワーが悪事を働いたわけではありません。彼が小さなサーバーの中で機密情報を流出させたのは、インフルエンサーのように目立ちたいという欲求を満たすのが目的だったのです。つまり注目を集めたい、感動させたい、他の誰も持っていない情報を持っていることを誇示したいという欲求です。“Thug Shaker Central”の1人のメンバーがワシントンポスト(Washington Post)紙に語っていたのですが、テシェイラは、機密文書にアクセスできたことで、自分は偉いのだと勘違いしてしまったのかもしれません。それで、それを披露したくなってしまったのかもしれません。結局、テシェイラがそれを容易にできる状況であったことが問題なのかもしれません。♦
以上
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