まもなく実現しそう?急ピッチで進むカーボンニュートラルな鉄鋼生産技術の研究!

 Annals of a Warming Planet

The Promise of Carbon-Neutral Steel
まもなく実現しそうかな?急ピッチで進むカーボンニュートラルな鉄鋼生産方法の研究!

A new manufacturing technique could drastically reduce the footprint of one of our dirtiest materials.
研究が進む画期的な製鉄技術!地球にやさしくない製鉄業界は炭素を排出しない技術が確立されるのを待っている。

By Matthew Hutson September 18, 2021

1.鉄鋼業は大量の二酸化炭素を排出し続けてきた

 鉄鋼の生産によって大量の温室効果ガスが排出されています。それは、全世界の温室効果ガス排出量の約7%を占めています。驚くほどの多さですが、それは主に2つの理由によります。1つは、鉄鋼生産の方法は、現在でも大昔の鉄器時代に発見された方法と基本的には変わっていないということにあります。もう1つは、鉄鋼は、あらゆるものに使われているということです。建築物にも、橋梁にも、冷蔵庫、飛行機、電車、自動車など、あらゆるものに使われています。様々な推定によれば、世界の鉄鋼の需要は2050年には現在のほぼ2倍になると言われています。それゆえ、気候変動を食い止めるためには、Green steel(グリーンスチール:資源、エネルギー、環境の問題を克服する新たな鉄鋼材)の開発が喫緊の課題となっています。

 鉄鋼というものは、高校で習う程度の化学の知識があれば分かると思いますが(高校に入学したばかりでも十分理解できますが)、基本的に、鉄鋼は鉄鉱石が原料で、強度を増すために少量の炭素が加えられています。小さな炭素原子が大きな鉄原子と結合することで、鉄鋼はより硬くてしなやかなものになります。ある意味、鉄(鉄鉱石)自体を見つけることはそれほど難しくありません。というのは、地球の地殻の5%(重量比)は鉄鉱石だからです。しかし、鉄を含む岩石には鉄以外の金属などが混ざっています。そうした岩石から、鉄だけを取り出して純度を高くしなければ、刀やエッフェル塔を作る時に使う鉄鋼を生み出すことはできません。化学的な側面から鉄を見ると、弱点があります。それは、非常に鉄原子は酸素原子と結び付き易いという点です。2個の鉄原子と3個の酸素原子が結び付くと、酸化第二鉄(Fe2O3)が生み出されます。酸化第二鉄(Fe2O3)の鉄原子と酸素原子を引き離すのは非常に困難です。酸化第二鉄(Fe2O3)は水が存在すれば簡単に形成されますし、鉄原子は空気中の酸素とも容易に結合します。つまり、とても錆びやすいのです。

 鉄は容易に錆びてしまうのですが、人類の歴史の中で錆びを取り除いて鉄を使えるようになったのはつい最近のことです。5000年前の古代エジプトでは鉄のビーズが作られいましたが、それはたまたま存在していた隕石を加工したもので、地表に降り注ぐ過程で酸素が取り除かれていたものを使っただけでした。人類が鉄を自由に活用できるようになったのは、それから数千年を経た後のことで、鉄鉱石を還元するということができるようになって以降のことです。還元という過程が確立されたのは、紀元前2000年頃、おそらく偶然だったのでしょうが、石炭が発火して鉄鉱石が熱せられることによって鉄鋼が出来ているのに気づいたのがきっかけでした。今日では、還元という過程は、誰でも知っています。十分な高温に達すると、鉄原子は結びついていた酸素原子を切り離し放出します。放出された酸素原子は石炭の中の炭素原子と結びついて、CO2(二酸化炭素)が作られ大気中に放出されます。これが還元という過程で、鉄鉱石から鉄鋼が生み出されます。鉄鉱石を還元して鉄鋼を生み出すことが可能になって、”Iron Age”(鉄器時代)が始まりました。

 鉄鋼が最初に作られたのはいつかというのを正確に言うのは簡単なことではありません。実際、数百年前まで、溶解炉が発明されるまで、鉄鋼生産を管理することは非常に困難でしたので、安定的に鉄鋼が生産されたことはありませんでした。高炉が発明された頃は、人力でふいごを使って石炭を燃やして高温(3,000度弱)にし、大量の鉄鉱石を溶かしていました。今日でも、高炉で鉄鉱石から酸素を取り除いて鉄鋼を作る基本的な工程は根本的には変わっていません。現在では大きな高炉になると高さは約100フィート(約30メートル)で、1日に1万トンの鉄鋼を生産できます。昔と違って、石炭の代わりに、コークス(石炭を乾留して炭素部分だけを残したもの)が使用されています。コークスと鉄鉱石が高炉の上部に入り、溶融鉄が下部から産出されます。溶融鉄は容易に鉄鋼にすることが可能です。毎年の全世界の鉄鋼生産量は20億トンほどで、市場規模は2.5兆ドルです。毎年30億トンの二酸化炭素が排出されています。そのほとんどは高炉から排出されたものです。

 幸いなことに、現在では、二酸化炭素を排出しない鉄鉱石の精製方法も複数開発されています。鉄鉱石から酸素を除去する際に、炭素の代わりに水素を使う方法(二酸化炭素の代わりにH2O(水)が排出される)が開発されています。多くの企業が二酸化炭素を排出しない方法の開発に取り組んでいます。この夏、スウェーデンのベンチャー企業が二酸化炭素の代わりに水を排出する技術を実験的に導入しました。もしもその技術が広く採用されるようになれば、鉄鋼生産で排出されている二酸化炭素の90%を削減することができます。全世界の二酸化炭素排出量を6%削減することになります。それは温暖化に苦しむ地球を救うための大きな一歩となるでしょう。