Annals of Innovation April 25 & May 2, 2022 Issue
The Renewable-Energy Revolution Will Need Renewable Storage
再生可能エネルギーの利用拡大には、エネルギー貯蔵設備の開発が必要
Can gravity, pressure, and other elemental forces save us from becoming a battery-powered civilization?
重力、圧力などを活用する、バッテリー以外のエネルギー貯蔵方法の研究が進められています。
By Matthew Hutson April 18, 2022
1.再生可能エネルギーは天候に影響を受けるので、エネルギー貯蔵設備が必要
ドイツ語の”Dunkelflaute”という単語は、 「曇天で無風(dark doldrums)」という意味です。その言葉は、再生エネルギー関連の技術者たちにとってはありがたくないものです。というのは、彼らにとって、その言葉は、雲が出たり、夜になって暗くなったり、無風で太陽光発電機や風力発電のタービンが電気を生み出さない際に使うものだからです。雲ひとつない晴天の日には、太陽光発電所は膨大な量の電力を生み出します。また、突風が吹けば風力発電機は近隣の住民を驚かせるほどの音を発して稼働します。しかし、夜間には太陽光発電所は全く発電しませんし、風が無い時には風力発電機も全く役に立ちません。それらの再生可能エネルギーは、残念ながら天候に大きく影響を受けます。
”dark doldrums”(曇天で無風)になると再生可能エネルギーの産生は著しく減ってしまいます。それ故、電力供給源として再生可能エネルギーに完全に依存することは難しいのです。電力会社は、陽が差さずに太陽光発電所がほとんど稼働しない日や、風が無くて風力発電機がほとんど稼働しない日が何日も続いても電力を供給し続けられるようにしなければなりません。実際、”Dunkelflaute”(曇天で無風)の状態が何日も続くことがあるからです。昨年、ヨーロッパではそうした状態が1週間続いたことがありました。また、2006年に、ハワイでは6週間連続で雨が降りました。一方、工場やデータセンターや家庭で使用する電力量は、天候がどうであれ急激に減るわけではありません。ですので、再生可能エネルギーの供給が天候に左右されて減った際には、需要を満たせない部分については何らかの方法で穴埋めしなければなりません。ドイツは原子力発電所を廃止し、再生可能エネルギーの導入に力を入れています。しかし、再生可能エネルギーによる電力の供給には、安定供給はできないという問題があります。そのため、ドイツは化石燃料に依存する状況が続いています。ロシアからも大量の天然ガスを輸入しています。
そうした状況を脱するために必要なのは、バッテリー(電池)の性能アップです。バッテリーで、最も普及しているのはリチウムイオンバッテリー(電池)です。充放電時にリチウムイオンが正極と負極の間を移動することから、その名が付けられました。リチウムイオン電池は、スマホから電気自動車にいたるまで、あらゆるものに使われて電力を供給しています。リチウムイオン電池は、比較的製造費用が安く、安価で流通しています。しかし、一般的なリチウムイオン電池は最大出力では3〜4時間しか使えません。iPhoneを使っている人なら誰でも知っていると思うのですが、充電するたびに少しずつ容量が減っていきます。また、長時間に渡って電力を供給するとなると、たくさんのバッテリーを備えなければならず、その分費用も高額になってしまいます。また、リチウムイオンバッテリーは発火の危険性があるという欠点があります。実際、韓国では過去数年間に何十回も発火事故が発生しています。
イリノイ州のアルゴンヌ国立研究所にある、アルゴンヌ・エネルギー貯蔵共同研究センター(the Argonne Collaborative Center for Energy Storage Science、略して ACCESS。以下、アクセス)を率いる研究者のベンカット・スリニバサンが私に言ったのは、リチウムイオン電池の最大の問題は、そのサプライチェーンにあるということです。リチウムイオン電池には、リチウムとコバルトが必要です。2020年の数字ですが、世界のコバルトの約70%をコンゴ民主共和国が供給しています。スリニバサンは、「供給源をもっと分散化させなければ、いずれ問題が発生するでしょう。」と言っていました。もしもサプライチェーンに混乱が生じれば、価格が著しく上昇し、必要な量の確保も困難になるでしょう。また、コバルトの採掘には大量の水とエネルギーが必要なため、環境破壊を引き起こすという可能性がありますし、一部のコバルト採掘現場では違法な児童労働が行われているという問題もあります。米国エネルギー省のバッテリー研究部門は、リチウムイオン電池の価格は、画期的な技術革新がない限り、現在の水準から30%以上下がることはないだろうと推測しています。そのくらいの価格の下落では、大して再生可能エネルギーの拡大には寄与しないでしょう。ある試算によると、再生可能エネルギーの割合を大きく増やし、気候変動を回避しようとするならば、2040年までに少なくとも電力の貯蔵できる量を現在の100倍以上にする必要があるそうです。環境に負荷を与えない形で、リチウムイオン電池の原材料となるリチウムとコバルトを採掘する方法を何とかして確立する必要があります。また、効率的に流通させる仕組みの構築、リサイクルする体制の構築も必要だと思われます。しかし、気候変動を回避するためには、他にも実現しなければならないことがあります。再生可能エネルギーというと、いつも話題になるのは、電力の供給源のことばかりで、太陽光発電や風力発電のことが取り上げられます。それらを増やすことも重要なのですが、他にも取り組まなければならないことがあるのです。それは、生み出された電力を貯めておく方法を確立するということです。再生可能な形の電力貯蔵法も確立しなければならないのです。再生可能エネルギー産生と再生可能な形の電力貯蔵法の両方の研究が進むことが理想的です。
実は、再生可能な形の電力貯蔵法については既に確立されたものが1つあります。それは、揚水式水力発電です。世界で貯蔵されている電力の90%以上は、揚水式水力式発電所の上部調整池に蓄えられているのです。注目すべき技術ではあるのですが、あまり知っている人はいないかもしれません。揚水式水力発電所の優れている点は、電力需要の増減に対応できるということです。河川や下部調整池からモーターで水を汲み上げて、上部調整池に貯めておきます。その水を下部調整池に放流した時に、タービンが回って再び電力が生み出されます。揚水式水力発電所は巨大な永久電池のようなものです。水を上部に汲み上げる時に充電され、水が下に放流される時に発電されます。揚水式水力発電所は、大掛かりで壮観なものが沢山あります。バージニア州のバース郡揚水式発電所は世界最大の揚水式水力発電所と言われていますが、木々に覆われた山の緩やかな斜面に、標高差約4分の1マイル(400メートル)の2つの広大な調整池を擁しています。電力需要が高まった時には毎分1,300万ガロンの水が放流され、何十万もの家庭に電力を供給します。揚水式水力発電所の利用を拡大している国がいくつかあるのですが、米国での揚水式水力発電所の建設ラッシュは数十年前に終わりました。米国でほとんど新設されなくなった理由は、適切な地形の場所を見つけることや許認可を得るのが困難であること、建設に時間と費用がかかることなどです。ですので、揚水式水力発電所に代わる新たな電力貯蔵法の開発が待たれているのです。