GTD(Getting Things Done)の盛衰!知識労働者の生産性を上げるのが難しいのは何故?

3.GTDは生産性向上に寄与しない

 ブログ43Foldersの人気が高まるにつれ、ネット上の生産性向上に関する分野におけるマンの影響力も高まりました。その時期にマンが提供したツールに「hipster PDA」があります。とても画期的なものでした。スマートフォンが普及する前、一時期パームパイロット等のハンドヘルドデバイス(personal digital assistantとも呼ばれ、略してPDA)が流行りました。hipster PDAはアナログなツールで、手順はとても簡単なものでした。手順は、2つで、3×5インチのカードを沢山準備し、それをクリップでバインダーに留めるだけでした。.マンが提案したそのデバイス(紙を閉じただけですが)、GTDを実践するには理想的でした。一番上のカードにはやるべきことをメモ書きして備忘録として機能させ、カードの束は色付けすることにより、タスクを業務や内容などで分類整理するためことが出来ます。2005年のグローブ・アンド・メール誌に載った記事によると、カナダの新民主党の報道官イアン・キャプスティックが手にしていたのは、ブラック・ベリーではなく、hipster PDAでした。

 GTDは広く普及していきましたが、マンのブログを運営していくことに関する熱意はしぼみ始めました。それは2007年のことでした。ちょうど彼がグーグル社のマウンテンビューにある本社で大勢の前でGTDの手法を講義した後のことでした。そこで、彼は、電子メールを迅速に処理するための新しい方法を概説しました。その方法は、各受信メールを読むのは1度のみとし、その次の行動は限られた選択肢から選ぶというものです。選択肢は、返答する、先延ばしする(長い返信文が必要なメッセージを格納しておく用のフォルダーに移動する)、委任する、実行する(すぐに実施するか、するべきことをメモして忘れないようにする)の4つです。このルールを実践し、受信メールが空になるようにします。彼は、これを「Inbox Zero(受信トレイゼロ)」ルールと名付けました。グーグル社が彼の講義した際の動画をユーチューブに投稿した後、「Inbox Zero(受信トレイゼロ)」は広く知られるようになり、多くの出版社が書籍化することを検討し始めました。

 その後間もなく、マンはブログ「43folders」に内省的なエッセイを投稿しました。個人の生産性に対して不満が高まっていることを記していました。生産性の向上は、簡単ではなく、GTDの手順に従っても必ずしも上手くいきません。また、GTDの手順を実施することが目的化してしまいがちです。彼は、何日間も、自分は何を達成しようとしているのかということについて考え込むことが多々ありました。彼がGTDでは上手く仕事をこなせない理由の一部は、彼の仕事の何度も遡ってチェックしなければならないという性質にもありました。生産性について、より効率的にブログを書くことができるようにGTDの手法を見直しました。その際には、ルーブ・ゴールドバーグ・マシンの風刺画(機械文明を揶揄した風刺画)を思い出しました。彼はまた、自分が従ったGTDの手法が本当に欲求不満を減らしてくれたのかということにも疑問を感じていました。彼は、GTDの手法や実践するコツをマスターして実践しても、仕事を効率的に出来ることは無いと思いました。それで、ブログの投稿の多くを削除しました。ブログ「43folders」の紹介ページを新たにし、生産性向上に関するブログではなく、最高にクリエイティブな仕事をするためのブログであると記しました。

 マンの投稿の頻度は少なくなりました。約2年間は、とりとめのない書き込みのみしかしませんでした。2011年になって、惜別の辞を伝える投稿をしました。彼は、父の病気のこと、個人の生産性向上についての関心はほとんどないこと、「Inbox Zero(受信トレイゼロ)」の執筆が思うように進まないこと等を記していました。出版社が彼との契約を解除したいと思っていることに気づいたので、彼は執筆を止めることを決意しました。それで、次のような投稿をしました、「今まで見てくれたみんな、ありがとう。投稿を9年間もサボってすいませんでした。」と。